かれこれ何年経つだろう。
オレは出会った時から彼がなんだかとても気に入っていて。いつでもにこにこと相手をしてくれたから、用があろうとなかろうとしょっちゅう話しかけていた。
まるで自覚はなかったんだけどね。今から思えば、周りはオレが気付かないオレの気持ちが丸分かりのようだったらしい。
あいつまだハタチを幾つか越したばかりだってよとか女はいねえよとか、聞いてもいないのにわざわざ隣に来て教えてくれた。入れ替わり立ち替わり、何故そんな事を言うのかと不思議に思うばかりだったけど。
まあ暇潰しで面白がってたんだろうな。
オレも彼にちょっかいかけて、いったい何がしたかったんだろう。いまだにその時の自分が分からないけど、ただ彼の笑顔が欲しかった事だけは覚えている。
その頃、突然里が悲劇に襲われて。
それから戦いに追われ月日が飛ぶように過ぎ、立ち位置の違う彼とは疎遠になる。
寂しいとは思うが仕方ない。時折彼の好きな食いものとか目にすると、どうしているかと思い出す程度の日々が続いた。
偶然会えてひとこと言葉を交わすだけでも嬉しくて、その会話を思い出して甘酸っぱい思いを噛み締めたりもした。
ああこれ好きって事なんだなあ、とぼんやり天井を眺めてると皆が笑ってた。相変わらず面白がって、彼の近況を教えてくれたりして、オレはふうんと聞き流すふりをしてたけど。
戦いの隙間にたまに彼の事を考えて、たまに姿を見かけて元気そうだとほっとして。
ほっとしたのは、彼の隣はいつも違う人物だと気付いたからでもあった。
あいつ忙しいからその気にならないって理由で誰も寄せ付けないらしいぞ、なんて事も耳打ちしてくれる。
それならいい。彼が一人ならオレも一人でいられる。何でそう思ったのか、オレは自分がよく分からなかったけれど。

そうして時は過ぎ、オレは里を統治する立場になって、忙しい中でも彼とまた昔のように笑い合う日々を手に入れられた。
今度はもっと近くて本当に嬉しいなあって思わず漏らしたら、彼もにこにこと笑ってくれてこう言うんだ。
貴方の周りの人達が、ずっと貴方の事を教えてくれていました。貴方の好きなもの、貴方の嫌いなもの、貴方の癖。貴方が何処にいて何をしていたか。
どうして。オレは目を剥いたまま聞き返した。
はにかむ彼の耳は赤い。
小さな声で。
俺が聞きたかったから。
ずっと彼が一人でいたのは、オレが一人でいたからだとも知った。
だからオレも言わなきゃならなくなった。勿論オレの耳は、いや顔も赤いだろう。
同じように皆が色々教えてくれていて、貴方が一人だから俺も一人だったんだよ。
笑うよね。二人して大笑いしたよね。
遠回りしてたの、一体何年かかったの。
でも彼は、あの頃だったらとっくに別れていただろうから今でいいんですって鼻息荒い。
そうかもしれないね。今ならお互いを大事にできる。
少し増えた目尻の皺さえいとおしく。
貴方をこれだけ想い続けていられ、揺るぎない心を見せてあげられた事を誇りたい。

それが、夢で思い出したオレの誕生日の出来事。
隣で眠る彼の白髪混じりの髪を撫でながら、オレはもう一度目を閉じる。
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