近すぎてお互いの息が掛かる。このまま失神したらどうしようと思う位には、俺はもう心臓ばくばくだ。雰囲気を変えようと焦る。
「…あの、さっき天下先生が、きみたちは支え合うところから始めなさいって仰った意味を考えてました。カカシさんはその意味、解りますか。」
「さあ。支え合うって当然だと思ってるけどねえ、何か他に意味があるのかな。」
カカシさんにも解らないならまあしょうがないって思っちゃう、俺も割といい加減だな。
「展開が早いのって、イルカ先生は嫌い?」
耳に吹き込む言葉の甘さ。誘惑に負けて俺の膝の力は抜け、カカシさんの首にすがりついた。
その日、俺はカカシさんの部屋に泊まった。
それからずっとお互いの部屋を行き来しているが、基本的には俺もカカシさんも一人暮らしと言っていいだろう。生活のリズムが合わないからだ。
カカシさんはあれからひと月もの間俺の呼び方に悩んでいたが、漸くせんせとイルカさんの二つに絞ってその時の気分で使い分けている。
甘い雰囲気でせんせ、と囁かれると俺は条件反射でその場に倒れ込んでしまう。ついでに息も絶え絶えにカカシさんを求める演技をすれば、首筋に噛み付かれて服を脱がされていると気付いた時にはもうベッドの中なのだ。
公にはしてはいないが綱手様が俺達の事をぽろぽろと喋ってしまうので、主に里にいる俺が憎悪と祝福をこの両肩に乗せる事になる。右肩の憎悪が嫉妬と中傷をセットにしていて案外重いけど、カカシさん程の人が俺といる事に納得できないのは俺自身もそう思うから仕方ないんだ。
「イルカさん、疲れてる?」
「ええ、まあ。そこそこ忙しいので。」
カカシさんの温もりが気持ちいいと思うのは、それだけ季節が巡って涼しいを通り越したからか。俺は精神的な疲労に加えて普段とは違う体力の消耗に、カカシさんを放り出して眠ってしまった。
「半月振りだってのにな…、まああんたには仕事を適当になんて無理な話だしねえ。」
眠りに落ちる寸前に微かに聞こえた言葉に、ごめんなさいって言いたかったけど口は全く開かなかった。
そうしたら夢の中で続きが展開されていて。
里の年寄り達が、俺とカカシさんを引き離そうとしていたのだ。全くすれ違う日々、俺は受付から外されてアカデミー専任となりやがて任務にかこつけて里から追い出される。
カカシさんの噂も聞かず、やがて里とも連絡がつかなくなってしまった。知らない所で俺は一人で年を取り、家で倒れ一人で亡くなる。
間に何かあったのかは解らないが、俺は死ぬまで何十年もカカシさんだけを想って泣き暮らしていたらしい。
「イルカさん? イルカさん!」
揺すぶられて目が覚める。真剣な顔をしたカカシさんが俺の目を覗き込んでいた。
「なんで、なんで夢の中で泣いてるの?」
勘がいいのも困りものだ。俺が夢を見て泣いている事が知られた。
「自白させようか。」
怖い顔で黙った俺を追いつめる。いやいや言いますと首を振り、俺は涙を拭いてからベッドに正座した。
夢の話の後、その原因と思われる事柄も白状させられた。
「随分酷い事を言われてたんだね?」
なんだか段々と、カカシさんの表情が強張っている気がする。酷いかなあと首を捻ると、覚えているだけでも掛けられた正確な言葉を言えと睨まれた。
…ありがちな言葉だ。
『子供の産めないお前など、愛人にもなれはしない。』
『同じ忍びでも格差はある、上忍にはなれないのだから消え去れ。』
『どうやってたぶらかしたんだか、中忍はそっちの技術を磨くのが上手だな。』
『まあたまには息抜きに遊びたくなるわよね。』
結局俺の口は勝手に喋っている。というより記憶を取り出されているのだ。
「そんな事まで言われてたのに、どうしてオレに黙ってた?」
言われたのは俺なのに、どうしてカカシさんが怒るのだろう。それに、似たような事は前から言われてたよ。
「あんたは、…あんたは、オレの大事な人なんだから。大事な人が悪く言われてたのに、怒らない方がおかしいだろ。」
泣きそうな顔で俺を抱き締めてくれる。まだ裸だったから、直接皮膚が触れるとじんわりと体温が移り合う気がして嬉しい。このまま混ざり合いたい。カカシさんの中に取り込まれたら、とても幸せなのかもしれない。
「こら、何を言うの。オレはイルカさんと一緒に同じものを見て同じものを食べて、楽しいね嬉しいねって語り合いたいんだよ。」
ねろりと耳たぶをなぶられる。
術の効果はまだ続き、俺の思考は勝手に口から漏れていた。黙れよ、俺の口。だから喋るの嫌だったんだ。
「どうしたら、そんな後ろ向きな事を考えないでくれるんだろう。オレで身体の中を満たせばいい?」
俺の両足の踵はカカシさんの肩に置かれ、痛い程強く腰を掴まれた。
翌朝の太陽の眩しい光は、疚しい事をしてただろうと俺を突き刺して苛めにかかった。
「…あの、さっき天下先生が、きみたちは支え合うところから始めなさいって仰った意味を考えてました。カカシさんはその意味、解りますか。」
「さあ。支え合うって当然だと思ってるけどねえ、何か他に意味があるのかな。」
カカシさんにも解らないならまあしょうがないって思っちゃう、俺も割といい加減だな。
「展開が早いのって、イルカ先生は嫌い?」
耳に吹き込む言葉の甘さ。誘惑に負けて俺の膝の力は抜け、カカシさんの首にすがりついた。
その日、俺はカカシさんの部屋に泊まった。
それからずっとお互いの部屋を行き来しているが、基本的には俺もカカシさんも一人暮らしと言っていいだろう。生活のリズムが合わないからだ。
カカシさんはあれからひと月もの間俺の呼び方に悩んでいたが、漸くせんせとイルカさんの二つに絞ってその時の気分で使い分けている。
甘い雰囲気でせんせ、と囁かれると俺は条件反射でその場に倒れ込んでしまう。ついでに息も絶え絶えにカカシさんを求める演技をすれば、首筋に噛み付かれて服を脱がされていると気付いた時にはもうベッドの中なのだ。
公にはしてはいないが綱手様が俺達の事をぽろぽろと喋ってしまうので、主に里にいる俺が憎悪と祝福をこの両肩に乗せる事になる。右肩の憎悪が嫉妬と中傷をセットにしていて案外重いけど、カカシさん程の人が俺といる事に納得できないのは俺自身もそう思うから仕方ないんだ。
「イルカさん、疲れてる?」
「ええ、まあ。そこそこ忙しいので。」
カカシさんの温もりが気持ちいいと思うのは、それだけ季節が巡って涼しいを通り越したからか。俺は精神的な疲労に加えて普段とは違う体力の消耗に、カカシさんを放り出して眠ってしまった。
「半月振りだってのにな…、まああんたには仕事を適当になんて無理な話だしねえ。」
眠りに落ちる寸前に微かに聞こえた言葉に、ごめんなさいって言いたかったけど口は全く開かなかった。
そうしたら夢の中で続きが展開されていて。
里の年寄り達が、俺とカカシさんを引き離そうとしていたのだ。全くすれ違う日々、俺は受付から外されてアカデミー専任となりやがて任務にかこつけて里から追い出される。
カカシさんの噂も聞かず、やがて里とも連絡がつかなくなってしまった。知らない所で俺は一人で年を取り、家で倒れ一人で亡くなる。
間に何かあったのかは解らないが、俺は死ぬまで何十年もカカシさんだけを想って泣き暮らしていたらしい。
「イルカさん? イルカさん!」
揺すぶられて目が覚める。真剣な顔をしたカカシさんが俺の目を覗き込んでいた。
「なんで、なんで夢の中で泣いてるの?」
勘がいいのも困りものだ。俺が夢を見て泣いている事が知られた。
「自白させようか。」
怖い顔で黙った俺を追いつめる。いやいや言いますと首を振り、俺は涙を拭いてからベッドに正座した。
夢の話の後、その原因と思われる事柄も白状させられた。
「随分酷い事を言われてたんだね?」
なんだか段々と、カカシさんの表情が強張っている気がする。酷いかなあと首を捻ると、覚えているだけでも掛けられた正確な言葉を言えと睨まれた。
…ありがちな言葉だ。
『子供の産めないお前など、愛人にもなれはしない。』
『同じ忍びでも格差はある、上忍にはなれないのだから消え去れ。』
『どうやってたぶらかしたんだか、中忍はそっちの技術を磨くのが上手だな。』
『まあたまには息抜きに遊びたくなるわよね。』
結局俺の口は勝手に喋っている。というより記憶を取り出されているのだ。
「そんな事まで言われてたのに、どうしてオレに黙ってた?」
言われたのは俺なのに、どうしてカカシさんが怒るのだろう。それに、似たような事は前から言われてたよ。
「あんたは、…あんたは、オレの大事な人なんだから。大事な人が悪く言われてたのに、怒らない方がおかしいだろ。」
泣きそうな顔で俺を抱き締めてくれる。まだ裸だったから、直接皮膚が触れるとじんわりと体温が移り合う気がして嬉しい。このまま混ざり合いたい。カカシさんの中に取り込まれたら、とても幸せなのかもしれない。
「こら、何を言うの。オレはイルカさんと一緒に同じものを見て同じものを食べて、楽しいね嬉しいねって語り合いたいんだよ。」
ねろりと耳たぶをなぶられる。
術の効果はまだ続き、俺の思考は勝手に口から漏れていた。黙れよ、俺の口。だから喋るの嫌だったんだ。
「どうしたら、そんな後ろ向きな事を考えないでくれるんだろう。オレで身体の中を満たせばいい?」
俺の両足の踵はカカシさんの肩に置かれ、痛い程強く腰を掴まれた。
翌朝の太陽の眩しい光は、疚しい事をしてただろうと俺を突き刺して苛めにかかった。
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