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いつカカシさんが俺を好きになった。
いつ俺がカカシさんを好きになった。
「仕組まれて、…仕組まれたからカカシさんは俺を好きになったんですか?」
声が震えた。止めようとしたが勝手に唇がわななく。ショックで涙が零れそうだ。
違うよと小さく微笑んだカカシさんが、俺の目尻を指先で拭ってくれた。
「先生の目は口よりものを言ってるんだけどさ、オレも解りやすかったんだろうね。思い出したよ、初代様と二代目様がオレ達に決まって綱手様に報告に行った時の事を。」
俺は瞬きを増やして涙を溢さないように気を付けながら、なんとか笑いを作った。
「何を思い出したんですか。」
カカシさんの手は目元から下りて耳朶を触り出した。くすぐったくて肩を竦めたら、今度は俺の手を取って指先を弄り出す。その間の視線は俺の顔に留まったままだ。
「綱手様はオレに向かって、棚ぼただなと仰った。」
「あ、それは覚えてます。何の事だろうと思いました。」
「あの時はオレも意味が解らなかったんだ。多分綱手様もからかった事にオレが気付いて何か返せば、また更にからかうつもりだったんじゃないかって思う。」
朧気にだが思い出した。綱手様は一人で興奮し、やけに陽気になっていたっけ。あれは舞いが見られる事が嬉しかっただけじゃなかったのか。
「オレが自覚してなかった貴方への気持ちを、先に見抜いてたんだ。」
恥ずかしそうに言い淀みながらも、カカシさんの手は俺の手を弄る。両手でそっと包んで頬に擦り寄せられて、接触過多だとは思うがそれが嬉しい俺も俺だ。
「え、じゃあ綱手様はもうその時カカシさんの気持ちを知ってらしたって事…ですか?」
「うん、多分そう。オレを小さな頃からご存知だから、面白がって何かとつついてくるのね。最近はオレも知らん振りするから、今までその言葉を忘れてたんだけど。…そうださっきもイルカ先生が地下牢の梅木に会いに行くって話で、浮気されるぞって言われたんだ。」
苦笑いするカカシさんが、今度は俺の頬から顎の辺りを手の甲で撫で始めた。人前だから我慢してるけど恥ずかしいし、あまりにも親密すぎやしないか。
「さっきから気にしてたあっちの先生方、もう皆授業に行っちゃいましたよ。」
だから大丈夫、とカカシさんは顔を見せて俺の鼻先に唇を押し付けた。柔らかく温かな唇、だけど以外と薄くて乾いてる。
職員室の奥には何人かの気配があって、でもまあもういいやって思ったから俺から顔を動かしてカカシさんの唇を求めてやった。軽く触れて離したら、カカシさんが目をまん丸くして固まっていた。
「あは、成功。」
笑い始めた途端に周囲の景色が揺らぐ。カカシさんが術を使ったんだろうと思ったが、気付けば俺達は校庭の楠の枝に立っていた。
奉納舞いの時に天下先生が俺達を見ていてくれた枝だ。そして梅木の任務で遅れて帰還した俺を迎える為に、カカシさんが待っていてくれた枝だ。
「あ、なんでここなんだろ…。」
カカシさんがぐるりと見渡して呟いた。
「これは…天下先生の仕業ですね。」
カカシさんの肩には小指の爪程の小さな札が張り付いていて、俺達が立っている枝にも同じものが貼られていた。カカシさんが飛ぼうとすれば必ずここに来るように、カカシさんを上回る力で誘導されていたんだ。謎だらけのあの人達は、やはりただの上忍じゃあない。
剥がそうと札に触れると、思い出してごらんと囁くような天下先生の声が聞こえた。思わずカカシさんを見ると同じように俺を見ている。
その間も声が続くので、俺達は頷き合ってそのまま聞く事にした。
『悪いな、こんな所に飛ばしてしまって。からかったお詫びじゃないが、うみのが一人でぐるぐるするだろうからカカシ君が思い出の場所で口説き直すようにって思ってさ。』
ちょっとどきっとして毛穴が開いた気がする。やっぱり俺って顔に出るんだな。
『なんてな。…実はうみのが先の任務で神経をすり減らしてるだろうから、カカシ君の大きくふわふわな羽毛布団のような包容力で包んでやってくれないか、というのが本音だ。』
うわっ、俺って本当に忍びとしてまずいんじゃないだろうか。昔も先生に適性がないと言われて、上忍だった両親に申し訳なくて意地で忍びになったんだけど。
『じゃあ君達はまずお互いを支え合うところから始めなさい、意味は解るかな。』
天下先生の声はそれきり聞こえなくなった。こんな小さな札で結構長く録音できるもんなんだな、そう呟いた俺をカカシさんは笑った。
「今は教師はお休みして、オレの恋人でいてくれないかな。」
立ったままだったので、カカシさんは一歩進むと正面から俺の腰に手を回して自分に引き寄せた。胸から下が密着し、俺の体温は一気に上昇する。
あ、天下先生の言葉が気になるんだけど、カカシさんは意味が解るのかな。
「何を考えてるの。」
目眩がしそうな甘い囁き声だった。
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