雲海さんが隣の席にどかりと腰を落ち着けた。冷や汗をかき始めた俺の顔を覗き込み、にいっと勝ち誇ったような笑顔を見せる。
「いやー流石、自分の事以外は鋭いね。」
「褒めてます?」
喧嘩を売られた気がして眉を寄せた額を指先で押さえられ、俺はふんと鼻を鳴らした。からかわれている事だけは解る。
「褒めてるよー。」
「軽すぎてそんな風にはぜんっぜん思えませんけど。」
天下先生は歯を喰い縛り、肩で笑っている。どこがツボだったんだろう。
「ところで。」
割って入ったカカシさんの声が、どこか冷たく聞こえた。いや怒っているのかもしれない。
「イルカ先生が言うように、仕組んだんですよね、二人して。…首謀者は綱手様だ。」
そうしてその二人、雲海さんと天下先生の肩に片手ずつ置いて力を籠める。なんか本気でキレそうなのは気のせいかな。
「まあまあ落ち着いて。今はちょっと忙しいから、肩の骨を砕くのは止めて欲しいな。確かに君達がくっつくように、うみのの言葉を借りれば、」
「仕組んだのさ。ごめんよ、おめでとう、じゃあね。」
掛け合い漫才の如く一気に畳み込み、そして一瞬の後には二人の姿が消えた。あ、と声が出て腕を伸ばした時にはもう気配も残っていなかった。
くそ、とカカシさんの悔しそうな声がやがて肩を震わせる笑いに変わっていった。今さっきまで空気を凍らせる程冷ややかに怒っていたのに、と何が起こったのか俺は微塵も理解できずにじっとりカカシさんを見ている。
「イルカ先生、あいつらずっと楽しんでたんですよ。」
カカシさんは怒る事も面倒だと肩を落とし、雲海さんが座っていた椅子に前後逆向きに座った。背宛ての上に両腕と顎を乗せて脱力すると、そのまま俺を見ている。視線から逃れられずに正面から見詰め合う形は、物凄く恥ずかしい。
ぴいっと小さく笛を鳴らしたのは、さっきから覗いている奴らの一人だ。教職員だけに通じる合図で、超音波の高低短長で種類を分ける。これは職員室への召集の意味だ。おい、お前ら。
「ねえ先生。」
そちらに気をとられている間に、カカシさんは椅子ごと俺の目の前に進んでいた。
「脇はほっといて、ちょっとオレの話を聞きなさい。」
そう言いながら俺の頬に両手を添え、ゆっくりと右目を細めた。見えていない部分も笑みに綻んでいるのが解る。
これはもう、そういう間柄ですって皆に教えているとしか思えない。だってあと十分程で昼休みも終わるから、笛の合図がなくても午後の授業の為に皆は戻り始めているのだ。
そうして皆は出入り口に近い席の俺達を眺めながら奥で手招きする奴らの元へ行き、何事かを吹き込まれて納得した顔でああと大きく頷く。
声が聞こえない。音を吸収させる札を持って術まで使って、何を言ってるんだと睨めば慌てて向こうを向くし。…まあ内容は理解してるけどな。
カカシさんの行動についてだ。
そういえば…今朝の受付では、誰にも何も言われなかった。昨日あれだけの人通りのあった商店街を、しっかりと手を繋いで歩いたというのに。
あ、綱手様がいらしたから無駄話を避けたのかもしれない。
「ちょっと、イルカ先生。話を聞きなさいって言ってるでしょ。」
上の空の俺の頬を左右に軽く引っ張って、不細工だねと笑う。俺の羞恥のメーターは振りきった。
下顎を突き出し寄り目をしてから白目を剥けば、カカシさんはひいひいと笑いを抑えて小さく七転八倒した。ざまあみろ。
「で、お話は?」
涼しい顔で言ってやる。
「いやその、どうも偶然にしてはって部分が多かったの、気付いてました?」
偶然にしてはって、何の事だか俺にはさっぱり解らないから首を捻る。
「演舞です。取って付けたような理由でオレ達を弄んでたんですよ。」
まず一番にカカシさんが疑問を抱いたのは、主要演者二人の選出方法だそうだ。それは俺も同じで、だけど俺は単純だから綱手様の言う事を頭から信じてしまった。俺が初代様に似てるなんて光栄すぎるもんな。
「イルカ先生が中忍の中では体術で優秀な方だと聞いてなければ、きっとまた違う方法を考えたのかもしれないけど。」
待って、まず弄ぶって何の話をしているのかが解らないんだけど。
「今消えた二人が言ったでしょう。君達がくっつくように、って。」
なにそれ。俺の思考はつまづいた。
カカシさんは淡々と続ける。
「演舞の計画が持ち上がった時に、オレ達以外の候補者数人もいたというのは聞いていました。最終的にオレ達に決定した理由は、今の今まで解らなかったんだけどね。」
天下先生と雲海さんがねえ。そうですか、と俺は冷静に納得して頷いた。驚きすぎて一周したらしい。
「あの方達が綱手様に近いなら、何の不思議もないですよね。」
仕組まれて俺はカカシさんを好きになったのかなぁ。あれ、カカシさんはいつから俺を好きだったんだろう。
…仕組まれて、側にいたから何となく?
「いやー流石、自分の事以外は鋭いね。」
「褒めてます?」
喧嘩を売られた気がして眉を寄せた額を指先で押さえられ、俺はふんと鼻を鳴らした。からかわれている事だけは解る。
「褒めてるよー。」
「軽すぎてそんな風にはぜんっぜん思えませんけど。」
天下先生は歯を喰い縛り、肩で笑っている。どこがツボだったんだろう。
「ところで。」
割って入ったカカシさんの声が、どこか冷たく聞こえた。いや怒っているのかもしれない。
「イルカ先生が言うように、仕組んだんですよね、二人して。…首謀者は綱手様だ。」
そうしてその二人、雲海さんと天下先生の肩に片手ずつ置いて力を籠める。なんか本気でキレそうなのは気のせいかな。
「まあまあ落ち着いて。今はちょっと忙しいから、肩の骨を砕くのは止めて欲しいな。確かに君達がくっつくように、うみのの言葉を借りれば、」
「仕組んだのさ。ごめんよ、おめでとう、じゃあね。」
掛け合い漫才の如く一気に畳み込み、そして一瞬の後には二人の姿が消えた。あ、と声が出て腕を伸ばした時にはもう気配も残っていなかった。
くそ、とカカシさんの悔しそうな声がやがて肩を震わせる笑いに変わっていった。今さっきまで空気を凍らせる程冷ややかに怒っていたのに、と何が起こったのか俺は微塵も理解できずにじっとりカカシさんを見ている。
「イルカ先生、あいつらずっと楽しんでたんですよ。」
カカシさんは怒る事も面倒だと肩を落とし、雲海さんが座っていた椅子に前後逆向きに座った。背宛ての上に両腕と顎を乗せて脱力すると、そのまま俺を見ている。視線から逃れられずに正面から見詰め合う形は、物凄く恥ずかしい。
ぴいっと小さく笛を鳴らしたのは、さっきから覗いている奴らの一人だ。教職員だけに通じる合図で、超音波の高低短長で種類を分ける。これは職員室への召集の意味だ。おい、お前ら。
「ねえ先生。」
そちらに気をとられている間に、カカシさんは椅子ごと俺の目の前に進んでいた。
「脇はほっといて、ちょっとオレの話を聞きなさい。」
そう言いながら俺の頬に両手を添え、ゆっくりと右目を細めた。見えていない部分も笑みに綻んでいるのが解る。
これはもう、そういう間柄ですって皆に教えているとしか思えない。だってあと十分程で昼休みも終わるから、笛の合図がなくても午後の授業の為に皆は戻り始めているのだ。
そうして皆は出入り口に近い席の俺達を眺めながら奥で手招きする奴らの元へ行き、何事かを吹き込まれて納得した顔でああと大きく頷く。
声が聞こえない。音を吸収させる札を持って術まで使って、何を言ってるんだと睨めば慌てて向こうを向くし。…まあ内容は理解してるけどな。
カカシさんの行動についてだ。
そういえば…今朝の受付では、誰にも何も言われなかった。昨日あれだけの人通りのあった商店街を、しっかりと手を繋いで歩いたというのに。
あ、綱手様がいらしたから無駄話を避けたのかもしれない。
「ちょっと、イルカ先生。話を聞きなさいって言ってるでしょ。」
上の空の俺の頬を左右に軽く引っ張って、不細工だねと笑う。俺の羞恥のメーターは振りきった。
下顎を突き出し寄り目をしてから白目を剥けば、カカシさんはひいひいと笑いを抑えて小さく七転八倒した。ざまあみろ。
「で、お話は?」
涼しい顔で言ってやる。
「いやその、どうも偶然にしてはって部分が多かったの、気付いてました?」
偶然にしてはって、何の事だか俺にはさっぱり解らないから首を捻る。
「演舞です。取って付けたような理由でオレ達を弄んでたんですよ。」
まず一番にカカシさんが疑問を抱いたのは、主要演者二人の選出方法だそうだ。それは俺も同じで、だけど俺は単純だから綱手様の言う事を頭から信じてしまった。俺が初代様に似てるなんて光栄すぎるもんな。
「イルカ先生が中忍の中では体術で優秀な方だと聞いてなければ、きっとまた違う方法を考えたのかもしれないけど。」
待って、まず弄ぶって何の話をしているのかが解らないんだけど。
「今消えた二人が言ったでしょう。君達がくっつくように、って。」
なにそれ。俺の思考はつまづいた。
カカシさんは淡々と続ける。
「演舞の計画が持ち上がった時に、オレ達以外の候補者数人もいたというのは聞いていました。最終的にオレ達に決定した理由は、今の今まで解らなかったんだけどね。」
天下先生と雲海さんがねえ。そうですか、と俺は冷静に納得して頷いた。驚きすぎて一周したらしい。
「あの方達が綱手様に近いなら、何の不思議もないですよね。」
仕組まれて俺はカカシさんを好きになったのかなぁ。あれ、カカシさんはいつから俺を好きだったんだろう。
…仕組まれて、側にいたから何となく?
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