個人的にはこいつを追い詰めたい訳ではないが、仕事として責任を追及するべくオレは続けた。
「両親は妹に精密検査を受けさせた。成長したから手術で治る可能性が出てきたかもしれない、とお前を騙して。」
思い出したのだろう、梅木が憎しみを籠めて叫んだ。
「俺の大事な妹の臓器を売って、自分達の借金を返す為にな!」
部屋の空気が揺れ、誰もが息を飲んだ。
一日を迎える為に動き出した明るい里の中で、この部屋だけが取り残されている。
「だが、それはできなかったのだな。」
綱手様の言葉に、梅木は真っ赤な目で綱手様を睨んだ。
「ずっと小康状態ではあったんだ。だけどそう長くはないと知って、だからあいつらは、妹の死を看取ってすぐ臓器を売ろうと闇のルートを見付けていた。」
はっと思い当たる。いつだったか大きな違法医療組織を叩く任務があった。
「思い出したか、はたけカカシ。あれは俺が炙り出したものだ。」
「出所の不明なタレコミを調べたらば、ぞろぞろと出てきたのは何十人もの子供の誘拐だった件だったな。」
梅木から視線を逸らして、ゆっくりと目を瞑った。誘拐された子供達の末路を思い出して、つんと目の奥が痛む。
誰一人として生きて親元へ戻った者はいなかった。切り刻まれた無惨な死体が転がる洞窟。―そこはごみ捨て場だった。
「下手をすれば妹も生きたまま売られていただろうが、そうならなかったのは妹が健康体でなかったからだ。医療設備がなければ生きられない、だが組織に設備はない。ならば契約をしておいて、死後すぐに提供を受けた方が楽だ。」
売る方も買う方も馬鹿だ―。イビキの声が聞こえて振り向けば、いつの間にか壁際に各部署の幹部が並んでいた。
梅木は彼らに聞かせるように、ゆっくりと続きを話し出した。
「あいつらが本当に妹を慈しんでくれるのか、手のひらを返したような態度に少し疑問だった。だから火の国へ三人で戻った後を調べたんだ。そうしたら。」
そして計画を知ったのだろう。タレコミは計画を阻止する為だったのだ。
「俺は妹を取り返した。あいつらがどうなるかなんて関係ない、妹がいればいい。」
「…やがて、二人が首を括ったという連絡が来たんだな。」
他人事ながら辛い。
借金に追われて逃げ場を失って、梅木の両親はとうとう自ら命を絶った。
ぼろぼろになった梅木の心は、それでも妹によってどうにか支えられていた。それなのに、妹が亡くなればもう梅木は生きる理由がない。
その後は惰性で生きていただけだ。
「村の男にも小さな妹がいたな。お前はその子をお前の妹に重ね合わせたんだろう?」
梅木はオレと目を合わせると、すいと視線を天井に流した。
「可愛いんだ。健康で、一日中走り回ってどこにでも行ってしまう。かくれんぼが大好きで、なかなか捕まってくれない。」
梅木は微笑んで目を瞑り、ぽろぽろと涙を溢し始めた。
「あの子に、あんちゃんが死んだなんて言わないで下さいませんか。嫁になる筈の娘にも、できれば悲しい思いはさせたくないんです。」
次第に嗚咽が大きくなる。聞いているオレ達の胸が痛む。
「お前は抜け忍だ。全ては私が決める。」
綱手様が厳しい声で梅木を断罪した。
でも、とかしかし、とか綱手様に声が掛かる。それを綱手様は、黙れと一刀両断に切り捨てた。
「梅木カヤ、地下牢でもう一度詳細を聞き取る。村の方はどうなったか、帰ってきたらうみのに報告させるから待っていろ。」
弾かれたように梅木の身体がぴくりと震えた。イルカ先生の名に苦しげな表情になると、頭を抱えてぼそぼそと呟き出した。ごめんイルカ、ごめんイルカ、と繰り返しているのだ。
そのまま梅木は地下牢に連れて行かれた。その後に続くように、壁際の幹部達も無言のままさっさと立ち去っていった。
残されたのは任務にあたったオレ達四人。綱手様にぎろりと睨まれ、思わず反射で背中を伸ばし踵を揃えてしまう。それににやりと笑った綱手様は、一人ずつ肩を叩いてオレ達を労った。
「これで任務は終了だ。お疲れ様、解散。」
ふわっと緩んだ空気の中、鳥飼が執務机を挟んで椅子の背に凭れて欠伸をする綱手様に問い掛けた。
「綱手様は、梅木をどう思われますか。」
「抜け忍だ。」
「そうではなく。」
「ただの抜け忍だ。」
強い口調で言いきると、綱手様は椅子を回して外の景色に目をやった。鳥飼の呼び掛けにも返事をしない。
先に部屋を出て扉を開けたまま待っていると、鳥飼は諦めて部屋を出てきた。お疲れ様と言い合うと、縄目は地下牢での梅木の聞き取りに立ち会いたいと走っていった。
「若いからって無理するなよー。」
「ありがとうございます!」
足音が消えて鳥飼と二人だけになる。歩き出したオレの後を遅れて付いてくる事を確認すると、オレは独り言だよと前置きして話し始めた。
「梅木は人を殺めてないし、里に迷惑も掛けちゃいないからね。恩赦の請求できるかもねえ。」
立ち止まってゆっくり振り向くと、そこに鳥飼はいなかった。彼もやはりお人好しだ。
「両親は妹に精密検査を受けさせた。成長したから手術で治る可能性が出てきたかもしれない、とお前を騙して。」
思い出したのだろう、梅木が憎しみを籠めて叫んだ。
「俺の大事な妹の臓器を売って、自分達の借金を返す為にな!」
部屋の空気が揺れ、誰もが息を飲んだ。
一日を迎える為に動き出した明るい里の中で、この部屋だけが取り残されている。
「だが、それはできなかったのだな。」
綱手様の言葉に、梅木は真っ赤な目で綱手様を睨んだ。
「ずっと小康状態ではあったんだ。だけどそう長くはないと知って、だからあいつらは、妹の死を看取ってすぐ臓器を売ろうと闇のルートを見付けていた。」
はっと思い当たる。いつだったか大きな違法医療組織を叩く任務があった。
「思い出したか、はたけカカシ。あれは俺が炙り出したものだ。」
「出所の不明なタレコミを調べたらば、ぞろぞろと出てきたのは何十人もの子供の誘拐だった件だったな。」
梅木から視線を逸らして、ゆっくりと目を瞑った。誘拐された子供達の末路を思い出して、つんと目の奥が痛む。
誰一人として生きて親元へ戻った者はいなかった。切り刻まれた無惨な死体が転がる洞窟。―そこはごみ捨て場だった。
「下手をすれば妹も生きたまま売られていただろうが、そうならなかったのは妹が健康体でなかったからだ。医療設備がなければ生きられない、だが組織に設備はない。ならば契約をしておいて、死後すぐに提供を受けた方が楽だ。」
売る方も買う方も馬鹿だ―。イビキの声が聞こえて振り向けば、いつの間にか壁際に各部署の幹部が並んでいた。
梅木は彼らに聞かせるように、ゆっくりと続きを話し出した。
「あいつらが本当に妹を慈しんでくれるのか、手のひらを返したような態度に少し疑問だった。だから火の国へ三人で戻った後を調べたんだ。そうしたら。」
そして計画を知ったのだろう。タレコミは計画を阻止する為だったのだ。
「俺は妹を取り返した。あいつらがどうなるかなんて関係ない、妹がいればいい。」
「…やがて、二人が首を括ったという連絡が来たんだな。」
他人事ながら辛い。
借金に追われて逃げ場を失って、梅木の両親はとうとう自ら命を絶った。
ぼろぼろになった梅木の心は、それでも妹によってどうにか支えられていた。それなのに、妹が亡くなればもう梅木は生きる理由がない。
その後は惰性で生きていただけだ。
「村の男にも小さな妹がいたな。お前はその子をお前の妹に重ね合わせたんだろう?」
梅木はオレと目を合わせると、すいと視線を天井に流した。
「可愛いんだ。健康で、一日中走り回ってどこにでも行ってしまう。かくれんぼが大好きで、なかなか捕まってくれない。」
梅木は微笑んで目を瞑り、ぽろぽろと涙を溢し始めた。
「あの子に、あんちゃんが死んだなんて言わないで下さいませんか。嫁になる筈の娘にも、できれば悲しい思いはさせたくないんです。」
次第に嗚咽が大きくなる。聞いているオレ達の胸が痛む。
「お前は抜け忍だ。全ては私が決める。」
綱手様が厳しい声で梅木を断罪した。
でも、とかしかし、とか綱手様に声が掛かる。それを綱手様は、黙れと一刀両断に切り捨てた。
「梅木カヤ、地下牢でもう一度詳細を聞き取る。村の方はどうなったか、帰ってきたらうみのに報告させるから待っていろ。」
弾かれたように梅木の身体がぴくりと震えた。イルカ先生の名に苦しげな表情になると、頭を抱えてぼそぼそと呟き出した。ごめんイルカ、ごめんイルカ、と繰り返しているのだ。
そのまま梅木は地下牢に連れて行かれた。その後に続くように、壁際の幹部達も無言のままさっさと立ち去っていった。
残されたのは任務にあたったオレ達四人。綱手様にぎろりと睨まれ、思わず反射で背中を伸ばし踵を揃えてしまう。それににやりと笑った綱手様は、一人ずつ肩を叩いてオレ達を労った。
「これで任務は終了だ。お疲れ様、解散。」
ふわっと緩んだ空気の中、鳥飼が執務机を挟んで椅子の背に凭れて欠伸をする綱手様に問い掛けた。
「綱手様は、梅木をどう思われますか。」
「抜け忍だ。」
「そうではなく。」
「ただの抜け忍だ。」
強い口調で言いきると、綱手様は椅子を回して外の景色に目をやった。鳥飼の呼び掛けにも返事をしない。
先に部屋を出て扉を開けたまま待っていると、鳥飼は諦めて部屋を出てきた。お疲れ様と言い合うと、縄目は地下牢での梅木の聞き取りに立ち会いたいと走っていった。
「若いからって無理するなよー。」
「ありがとうございます!」
足音が消えて鳥飼と二人だけになる。歩き出したオレの後を遅れて付いてくる事を確認すると、オレは独り言だよと前置きして話し始めた。
「梅木は人を殺めてないし、里に迷惑も掛けちゃいないからね。恩赦の請求できるかもねえ。」
立ち止まってゆっくり振り向くと、そこに鳥飼はいなかった。彼もやはりお人好しだ。
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