25

縄目が難しい顔で受信機の音声スイッチを弄る。
結界内のチャクラを外へ放出しないようにと、鳥飼が見えない壁に片手の手のひらを当てた。使役の鳥がチャクラを漏らさない術を応用し、この四人から自然に漏れる微量のチャクラを結界に吸い取らせて結界そのものを維持させているらしい。
チャクラを吸い取った結界が忍びに気付かれない原理は説明されてもオレには理解できなかったけど、これもまた鳥飼が教師に戻れない理由だという事は理解した。
オレの傍らでは、イルカ先生が望遠鏡で前回作った集落の地図と現地を照らし合わせている。
「イルカ、地理は解った?」
「はい、大まかには。親戚で集まる集落が村を作るなんて珍しいですよね。昔はもっと人口が多くて、集落一つで村だったんでしょう。」
「集落で?」
「家の戸数に対して、開けた土地が広すぎるんです。だから家があっただろう更地と、隣り合わせで田畑だったらしい荒れ地があるのに気付きました。」
「隊長、イルカの観察力には定評があるんです。見誤る確率の方が低いんですよ。」
改めて近くの集落を見るとイルカ先生の言うとおりで、鳥飼が彼に全幅の信頼を寄せている理由も解った。
「それが何?」
「人口が減少した理由です。家が一軒潰れるのは、そこの人間が全員亡くなったか引っ越したかですよね。ああ、よその家に統合―婿とか嫁とかでいなくなる事もありますか。」
「イルカ、結論だけ言え。」
よく解らない話が長くなるかと、眉を潜めたところに鳥飼が突っ込んでくれた。
「皆、出てっちゃったんでしょう。閉鎖されているといっても生活の為には完全じゃない。情報は少しずつ入ってくるから、外に興味が向くのは仕方ないんです。」
うん、と頷きながらもまだ結論に辿り着かないのかと焦れてくる。と、微笑んでいたイルカ先生の表情がすうと一切消えた。
「今、村には安定を求める者だけが残っているんです。だから梅木の目的は、一生ここで暮らす事だと思います。」
「は?」
「だから、成りすました人物が死んだか逃げたか元からいないかは知りませんけど、そのまま長男として生きるつもりじゃないでしょうか。」
それはオレ達五人が最初に考えていた事だ。梅木が幻術を使うからと思考が難しい方向へ流れていったオレ達は、その可能性をすっかり忘れていた。
あ、と縄目が口を開けたままオレを見た。眉尻が下がって、申し訳なさそうな目は手元の機械に落ちる。
「通信機はもしもを考えて一方通行なので…、こちらからはどうにもなりません。」
「そこは仕方ないよね。うーん…、あの二人が思い出してくれたらそっちの視点から探れるんだけど。」
無理だよなあ、と皆の顔が暗くなった。
無言のまま、無線機が拾う声を聞き続ける。そんなに遠くはないが、感度が悪すぎる。
『…何か…ったか。変わりはな…か。』
『…にあり…ん。あ…ござ…ま…。』
雲海と村人の会話だと、かろうじて理解できる程度だった。
幾らなんでもこれは、と言いたいのを抑える。どうせ何かあっても手出しはできないから、聞かなくてもいいような気になるのはオレだけではないようだ。鳥飼も望遠鏡を取り出した。
「帰ったらうちの鳥達で即時通信できないか、開発してみます。」
記憶を記録し伝達するところまでは実現可能だが、通信機や電話のような機能を生物に求める事は不可能ではないか。それでも次の為にと、研究する姿勢が里を発展させるのだ。
「隊長、動き出しました。集落を回るようです。」
簡単には梅木には近付けないかもしれないが、さて彼らはどうするのだろう。
やがて数時間後に、雲海も貸家も何事もなく戻ってきた。オレ達四人には村での様子が解らないので一旦里に帰るか、それともこのまま村の側で報告をするかと雲海達に委ねる。
二人は里でやる事はないと、村の近くの宿屋での宿泊を提案してきた。例の閑散期で休業中の一軒を丸ごと貸しきれば、金に釣られて詮索もなく落ち着く事ができた。
「梅木は何がしたいのか解らん。大きな反乱を企むようには思えねえが…。村人達は嫁取りの事しか頭になく、火の国から祝いの品でも取れないかと言ってきた。」
雲海が報告しながら畳に大の字に手足を伸ばした。あんたでも気疲れするのかと笑うと、こう見えて繊細なんだよとのそりと起き上がる。なあそうだよなと雲海が貸家の肩を叩くと、貸家はひきつった笑いを見せた。
「まあその、せんだん様は、彼らの結婚を楽しそうにかき回しておられましたが…。」
貸家の次第に小さくなる声に、雲海はボロを出さないかと誘導してたんだと胸を張った。貸家の苦労がなんとなく解ったが、案外いい組み合わせだったかもしれない。
続く梅木の様子についての報告を、オレ達は黙ってじっと聞く。貸家は雲海の後ろで梅木だけを観察していたと言う。
「こちらはチャクラを封じているので感知できず絶対とは言えませんが…何もおかしいところはなく、梅木はただの村人にしか見えませんでした。」

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