そうかな、結婚式が夢の最終地点だと誰か話してはいなかったか。女はそれからの日常に夢はないから、綺麗な衣装を着けて主役になる日を思い続けるとか。
ああ…紅が髭とでは無理な話だと怒っていたっけ。
「大体な、男が家を建てたい理由は一国一城の主になるっていう見栄だろ? 立派に見えるかどうかと自分の部屋を作る事しか考えない。おれんちだって嫁さんが全部決めたけどな、やっとこさもらえた小さな忍具部屋でもおれは満足してるぞ。」
オレより年長の上忍師はそう言って、ちょっとだけ哀しそうに笑った。…今は勿論だが過去にもそんな相手はいなかったから、オレには全くもって解らない。
「でもまあその娘が家に興味がないってのは、ちょっと不自然な気はするわな。」
村長が家にも結婚式にも、一切口出しをしていない点もおかしいと言う。
「村長がそいつを認めたからじゃないの?」
「おれの嫁の親父さんは、十年経ってても孫三人を連れていつでも帰ってこいと言ってるさ。」
口だけにせよ娘の可愛さは別もんなんだよ、と前途ある若者の結婚への夢をぶち壊すような話だ。
「そんなもんですかね…。で数日のうちに大工が入るという話でしたが、僕らが入ったこの二日で村長と長男は一度も接触してませんよね。」
やはり実感がなく解らないらしい若い奴は、疑問たっぷりの顔で首を傾げてオレを見た。
別に段取りができていれば会う必要はないだろう、村長だってそんなに暇とも思えない。だが三人共に引っ掛かるものがあるのだから。
「ちょっと方法を変える必要あり?」
「ああ、明日は分散しねえと情報が取れねえな。」
上忍師の男も同じ事を考えていたのだ。
翌日。若い奴には村長の家を見張らせ、オレは昨日長男と接触した村の大工の三人を再度洗い出す。上忍師は今日新たに長男の元を訪れる者を待ったが結局婚約した村長の娘だけで、身体がなまると集合した途端に長い愚痴を溢した。
真っ暗な村の外の集合場所で、ビデオ班の二人を待った。慌てるように木の枝を渡って走ってくる彼らが見える。
「撮れました。音声は聞きづらいけど画像には自信があります。」
労って休憩を取りながら、綱手様への報告事項を纏め確認する。順調に帰還できて到着は深夜。明日は朝からイルカ先生にビデオを見てもらわなければならない。その旨を鳥飼に告げると、すぐに夜目の利く一羽を飛ばしてくれた。
思いの外早く、日が変わる前に里に到着できた。大門の見張り番が綱手様から預かっていた伝言は、何時でも良いからそのまま来いというものだった。
執務室の煌々とした明かりの下で壁際の椅子に腰掛けて俯いている人を見付け、オレは一歩後ずさってしまった。
「…イルカ…先生。」
イルカ先生はちらとオレ達を見、また俯くとぎゅうと口を結んで覚悟を決めたように顔を上げた。
「イルカには話しておいた。大丈夫だ、しっかりしている。」
綱手様の表情からは何も判らない。その言葉を信じるだけだ。
「…お願いします。」
また下を向いたイルカ先生から、抑揚のない小さな声が溢れた。本当に大丈夫なんだろうか。
運び込まれていた大きなモニターにビデオカメラを繋ぐ。手元で操作できるという機械の箱を握ったイビキの部下が、撮影時の状況を説明しながら画像を流して止めてを繰り返した。
時折画面の焦点がずれたりボケたりするのは仕方ない。いかに本人に見付からずに撮影するか、チャクラを練らずに木の枝に乗っているだけでも大変だった事だろう。
「裏の井戸で水を汲み、身体を拭きます。」
一旦止められる。長男がシャツを脱いでこちらに背中を見せていた。
「うみの中忍、梅木の体格や傷はどうなんでしょう。」
誘導にならないように曖昧な言葉を選んでいる。
イルカ先生はじっと画面を見詰めているだけだ。
「これでは判断できないとみなして宜しいですか。」
男は手元のノートに画面の隅の時間を写し書きすると、次へ進もうとした。
「待って下さい、もう少し。」
イルカ先生の声がその手を止める。
「…左の肩、ちょっと背中の方にほくろが二つ。」
身を乗り出した綱手様が目を細めた。
「遠くて判らんな。」
カチカチと機械を弄り、肩の部分が大写しになっていく。だが光の加減で暗くほくろは見えない。
「進めます。身体の向きが変われば多分、」
見えるかも、と言葉を続けながらコマ送りで先を進める。
「あ。」
何人かの指が差したところで画面が止まった。
「ほくろが二つ!」
「その下に縫った傷がある。イルカ先生、この傷は?」
「知りません…。俺もずっと会ってないので。」
ほうと皆の吐いた息が重なった。
「あ…後は…、左利きなので腕の筋肉の付き方が違うと言ってました。」
しかし意識的に右を鍛えればそれも変わってしまう。他には何かないのか。
「これだけではなあ…体格もある程度どうにでもなるしな。」
綱手様が先へと促した。長男が井戸から表の戸口へ移動し、画面もぶれながら後を追う。止まった画面の真ん中にまた長男が映る。
ああ…紅が髭とでは無理な話だと怒っていたっけ。
「大体な、男が家を建てたい理由は一国一城の主になるっていう見栄だろ? 立派に見えるかどうかと自分の部屋を作る事しか考えない。おれんちだって嫁さんが全部決めたけどな、やっとこさもらえた小さな忍具部屋でもおれは満足してるぞ。」
オレより年長の上忍師はそう言って、ちょっとだけ哀しそうに笑った。…今は勿論だが過去にもそんな相手はいなかったから、オレには全くもって解らない。
「でもまあその娘が家に興味がないってのは、ちょっと不自然な気はするわな。」
村長が家にも結婚式にも、一切口出しをしていない点もおかしいと言う。
「村長がそいつを認めたからじゃないの?」
「おれの嫁の親父さんは、十年経ってても孫三人を連れていつでも帰ってこいと言ってるさ。」
口だけにせよ娘の可愛さは別もんなんだよ、と前途ある若者の結婚への夢をぶち壊すような話だ。
「そんなもんですかね…。で数日のうちに大工が入るという話でしたが、僕らが入ったこの二日で村長と長男は一度も接触してませんよね。」
やはり実感がなく解らないらしい若い奴は、疑問たっぷりの顔で首を傾げてオレを見た。
別に段取りができていれば会う必要はないだろう、村長だってそんなに暇とも思えない。だが三人共に引っ掛かるものがあるのだから。
「ちょっと方法を変える必要あり?」
「ああ、明日は分散しねえと情報が取れねえな。」
上忍師の男も同じ事を考えていたのだ。
翌日。若い奴には村長の家を見張らせ、オレは昨日長男と接触した村の大工の三人を再度洗い出す。上忍師は今日新たに長男の元を訪れる者を待ったが結局婚約した村長の娘だけで、身体がなまると集合した途端に長い愚痴を溢した。
真っ暗な村の外の集合場所で、ビデオ班の二人を待った。慌てるように木の枝を渡って走ってくる彼らが見える。
「撮れました。音声は聞きづらいけど画像には自信があります。」
労って休憩を取りながら、綱手様への報告事項を纏め確認する。順調に帰還できて到着は深夜。明日は朝からイルカ先生にビデオを見てもらわなければならない。その旨を鳥飼に告げると、すぐに夜目の利く一羽を飛ばしてくれた。
思いの外早く、日が変わる前に里に到着できた。大門の見張り番が綱手様から預かっていた伝言は、何時でも良いからそのまま来いというものだった。
執務室の煌々とした明かりの下で壁際の椅子に腰掛けて俯いている人を見付け、オレは一歩後ずさってしまった。
「…イルカ…先生。」
イルカ先生はちらとオレ達を見、また俯くとぎゅうと口を結んで覚悟を決めたように顔を上げた。
「イルカには話しておいた。大丈夫だ、しっかりしている。」
綱手様の表情からは何も判らない。その言葉を信じるだけだ。
「…お願いします。」
また下を向いたイルカ先生から、抑揚のない小さな声が溢れた。本当に大丈夫なんだろうか。
運び込まれていた大きなモニターにビデオカメラを繋ぐ。手元で操作できるという機械の箱を握ったイビキの部下が、撮影時の状況を説明しながら画像を流して止めてを繰り返した。
時折画面の焦点がずれたりボケたりするのは仕方ない。いかに本人に見付からずに撮影するか、チャクラを練らずに木の枝に乗っているだけでも大変だった事だろう。
「裏の井戸で水を汲み、身体を拭きます。」
一旦止められる。長男がシャツを脱いでこちらに背中を見せていた。
「うみの中忍、梅木の体格や傷はどうなんでしょう。」
誘導にならないように曖昧な言葉を選んでいる。
イルカ先生はじっと画面を見詰めているだけだ。
「これでは判断できないとみなして宜しいですか。」
男は手元のノートに画面の隅の時間を写し書きすると、次へ進もうとした。
「待って下さい、もう少し。」
イルカ先生の声がその手を止める。
「…左の肩、ちょっと背中の方にほくろが二つ。」
身を乗り出した綱手様が目を細めた。
「遠くて判らんな。」
カチカチと機械を弄り、肩の部分が大写しになっていく。だが光の加減で暗くほくろは見えない。
「進めます。身体の向きが変われば多分、」
見えるかも、と言葉を続けながらコマ送りで先を進める。
「あ。」
何人かの指が差したところで画面が止まった。
「ほくろが二つ!」
「その下に縫った傷がある。イルカ先生、この傷は?」
「知りません…。俺もずっと会ってないので。」
ほうと皆の吐いた息が重なった。
「あ…後は…、左利きなので腕の筋肉の付き方が違うと言ってました。」
しかし意識的に右を鍛えればそれも変わってしまう。他には何かないのか。
「これだけではなあ…体格もある程度どうにでもなるしな。」
綱手様が先へと促した。長男が井戸から表の戸口へ移動し、画面もぶれながら後を追う。止まった画面の真ん中にまた長男が映る。
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