第二部の開始とともにまた歓声に包まれ、気持ちよくて癖になりそうだと皆の興奮は治まらない。
俺とカカシ先生は移動の時間も惜しくて袖奥で着替える事になっていたから、次々に袖に流れ込みながら控え室に跳ぶ群舞を見届けた。
床に広げられたきらびやかな衣装の前に立つと、あっという間にアンダーウェアの上に着けていたものを全て剥ぎ取られた。俺の胴体、両肩、両脚に、各々一人ずつ一斉に飛び掛かって装着していく。最後に兜を被せられ、背中を叩かれて舞台へと送り出された。その間何秒だったろうか、水を一口含んで飲み込むのが精一杯だったような気がする。
向こうの袖のカカシ先生も似たような状況だったようで、舞台で顔を合わせて漸くはあと息をついたくらいだ。
「着替え、早かったねえ。」
「何されてたか解りませんでした。」
小声でこっそり笑い、舞い始める。午前中の練習よりカカシ先生の動きがいいような気がした。
完璧だなと自惚れるのは、カカシ先生が完璧だから相乗効果で俺も綺麗に舞えてると思えるからだ。
「あ、」
「どうしました?」
「教官が。」
舞台正面の遥か向こうの楠の枝に教官が立って、目が合った俺に手を振って笑ってる。俺の視線を辿ったカカシ先生とも目が合ったんだろう、両手をぶんぶん振って大きく丸を作った。
それだけで俺の背が伸び、指先にも力がみなぎった。同じくカカシ先生の気配も変わり、俺達は高揚したまま演舞を終えた。
舞台の際まで踏み出し、俺とカカシ先生は手を繋いで観客に深々と頭を下げる。
観客総立ちで拍手と歓声が沸き上がる中俺達は控え室に跳んだが、床に崩れ落ちて差し出された水を飲む間もなく挨拶だと声が掛かった。
カカシ先生に腕を引かれて立ち上がり、全員で舞台へと跳ぶ。だがもう安堵で気が抜けて整列なんぞできずに、舞台上ではそこかしこでぶつかった者達が転んで笑われる始末だった。
突然カカシ先生と俺にマイクが渡される。聞いてないです、という切羽詰まった俺の声がマイクから流れてどっと沸いた。俺はただ、ありがとうございましたとしか言えなかった。頭が真っ白のままだったんだ。
代わりにカカシ先生がぼそぼそと、考え考えだがどれだけ皆が頑張ったかを伝えてくれた。胡散臭くて怖いと思われ勝ちな忍びに、これで一般人も親近感を覚えたんじゃないだろうか。ていうか、カカシ先生が格好いいと熱烈なファンが急増した気がする。
衣装をときながら仲間達と慰労会の話をした。俺とカカシ先生はお偉いさん方の方に顔を出してから参加すると伝えると、ご苦労さんと同情の目をされた。ご老体の酒のつまみにされると解ってくれてるからだ。
カカシ先生と連れ立ち、地域の集会場に向かった。
朝から宴会が催されてるとかで、隅ではいびきをかいて寝ている人もいた。大丈夫なのかと聞けばこれが祭りの醍醐味さと一升瓶を振り回してるから、余計な心配らしい。
案の定帰れない。俺は話の腰を折るのが苦手だ。
何度もそろそろと言い出すが、綺麗に無視される。酔っぱらいは人の言葉を聞きゃしないんだ。
やがてカカシ先生が自分は任務があると立ち上がり、ついでに俺にも適当な理由をつけてくれた。
ほっとして外に出れば、暗闇に複数の人影を見付けて驚いた。
「本当にこれから任務なんですよ。じゃあ。」
歩き出す後ろ姿にお気をつけて、と言うのが精一杯だった。余韻に浸る間もなく日常に戻ってしまうなんて。
カカシ先生が消えて、俺は酔ってもいないのに膝の力が抜けて地面に座り込んだ。
うん…もう少し話したかったんだけど。
イルカ先生の目が引き留めるように見えたのは、オレがそう思ってるから。…気のせいだったのかもな。
「隊長、火影様から今夜は無理をするなとの伝言です。」
「そう、気遣いありがたいねえ。で、どこまで逃げたのかは掴んだ?」
「それが…。我々に気付いたのか、ここで一旦途切れました。」
広げた地図の逃走経路の赤い筋を指で辿ると、先日オレが見付けた山道の痕跡からはそう進んでいなかった。点在する集落のどれかに紛れたか、街道の宿屋か。
抜け忍としての追尾対象者は梅木カヤ、特別中忍の男で二十五才。幻術と変化に特化し、専門は諜報だ。
「夜のうちに宿屋を探してみようか。」
「ええ、客はなく宿屋として機能していないようでしたし。」
空き部屋ばかりなら、暗闇に潜伏しているかもしれないから。
梅木がそんな安易な行動を取る訳はないと思うが、当たれる所は全て当たるのだ。
お願いだから宿屋にいてくれ。そして抵抗せずに捕まってくれたら、もしかしたら…。
「いや、無理な話か。」
「何か?」
何でもない、と首を振り皆を従えてひと気のない真っ暗な街道を走った。
やはり宿屋には一人も客はいない。閑散期らしく休業中という看板が掛かり、母屋に家族が集っているだけだ。
潜り込んだ客室全てに、僅かなチャクラの痕跡すらない。追尾専門のオレ達がどれだけ探っても、忍びの気配は全くなかった。
安堵と落胆に胸が痛む。
俺とカカシ先生は移動の時間も惜しくて袖奥で着替える事になっていたから、次々に袖に流れ込みながら控え室に跳ぶ群舞を見届けた。
床に広げられたきらびやかな衣装の前に立つと、あっという間にアンダーウェアの上に着けていたものを全て剥ぎ取られた。俺の胴体、両肩、両脚に、各々一人ずつ一斉に飛び掛かって装着していく。最後に兜を被せられ、背中を叩かれて舞台へと送り出された。その間何秒だったろうか、水を一口含んで飲み込むのが精一杯だったような気がする。
向こうの袖のカカシ先生も似たような状況だったようで、舞台で顔を合わせて漸くはあと息をついたくらいだ。
「着替え、早かったねえ。」
「何されてたか解りませんでした。」
小声でこっそり笑い、舞い始める。午前中の練習よりカカシ先生の動きがいいような気がした。
完璧だなと自惚れるのは、カカシ先生が完璧だから相乗効果で俺も綺麗に舞えてると思えるからだ。
「あ、」
「どうしました?」
「教官が。」
舞台正面の遥か向こうの楠の枝に教官が立って、目が合った俺に手を振って笑ってる。俺の視線を辿ったカカシ先生とも目が合ったんだろう、両手をぶんぶん振って大きく丸を作った。
それだけで俺の背が伸び、指先にも力がみなぎった。同じくカカシ先生の気配も変わり、俺達は高揚したまま演舞を終えた。
舞台の際まで踏み出し、俺とカカシ先生は手を繋いで観客に深々と頭を下げる。
観客総立ちで拍手と歓声が沸き上がる中俺達は控え室に跳んだが、床に崩れ落ちて差し出された水を飲む間もなく挨拶だと声が掛かった。
カカシ先生に腕を引かれて立ち上がり、全員で舞台へと跳ぶ。だがもう安堵で気が抜けて整列なんぞできずに、舞台上ではそこかしこでぶつかった者達が転んで笑われる始末だった。
突然カカシ先生と俺にマイクが渡される。聞いてないです、という切羽詰まった俺の声がマイクから流れてどっと沸いた。俺はただ、ありがとうございましたとしか言えなかった。頭が真っ白のままだったんだ。
代わりにカカシ先生がぼそぼそと、考え考えだがどれだけ皆が頑張ったかを伝えてくれた。胡散臭くて怖いと思われ勝ちな忍びに、これで一般人も親近感を覚えたんじゃないだろうか。ていうか、カカシ先生が格好いいと熱烈なファンが急増した気がする。
衣装をときながら仲間達と慰労会の話をした。俺とカカシ先生はお偉いさん方の方に顔を出してから参加すると伝えると、ご苦労さんと同情の目をされた。ご老体の酒のつまみにされると解ってくれてるからだ。
カカシ先生と連れ立ち、地域の集会場に向かった。
朝から宴会が催されてるとかで、隅ではいびきをかいて寝ている人もいた。大丈夫なのかと聞けばこれが祭りの醍醐味さと一升瓶を振り回してるから、余計な心配らしい。
案の定帰れない。俺は話の腰を折るのが苦手だ。
何度もそろそろと言い出すが、綺麗に無視される。酔っぱらいは人の言葉を聞きゃしないんだ。
やがてカカシ先生が自分は任務があると立ち上がり、ついでに俺にも適当な理由をつけてくれた。
ほっとして外に出れば、暗闇に複数の人影を見付けて驚いた。
「本当にこれから任務なんですよ。じゃあ。」
歩き出す後ろ姿にお気をつけて、と言うのが精一杯だった。余韻に浸る間もなく日常に戻ってしまうなんて。
カカシ先生が消えて、俺は酔ってもいないのに膝の力が抜けて地面に座り込んだ。
うん…もう少し話したかったんだけど。
イルカ先生の目が引き留めるように見えたのは、オレがそう思ってるから。…気のせいだったのかもな。
「隊長、火影様から今夜は無理をするなとの伝言です。」
「そう、気遣いありがたいねえ。で、どこまで逃げたのかは掴んだ?」
「それが…。我々に気付いたのか、ここで一旦途切れました。」
広げた地図の逃走経路の赤い筋を指で辿ると、先日オレが見付けた山道の痕跡からはそう進んでいなかった。点在する集落のどれかに紛れたか、街道の宿屋か。
抜け忍としての追尾対象者は梅木カヤ、特別中忍の男で二十五才。幻術と変化に特化し、専門は諜報だ。
「夜のうちに宿屋を探してみようか。」
「ええ、客はなく宿屋として機能していないようでしたし。」
空き部屋ばかりなら、暗闇に潜伏しているかもしれないから。
梅木がそんな安易な行動を取る訳はないと思うが、当たれる所は全て当たるのだ。
お願いだから宿屋にいてくれ。そして抵抗せずに捕まってくれたら、もしかしたら…。
「いや、無理な話か。」
「何か?」
何でもない、と首を振り皆を従えてひと気のない真っ暗な街道を走った。
やはり宿屋には一人も客はいない。閑散期らしく休業中という看板が掛かり、母屋に家族が集っているだけだ。
潜り込んだ客室全てに、僅かなチャクラの痕跡すらない。追尾専門のオレ達がどれだけ探っても、忍びの気配は全くなかった。
安堵と落胆に胸が痛む。
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