挨拶回りといってもほぼ自営業の一般人の家々を訪ねるだけだが、綱手様の仰るように俺達は初代様と二代目様の面影があるようで、ご老体達が懐かしんでなかなか離してはくれずに日が暮れた。
忍びだけでなく誰にも尊敬された方々なんだと改めて知ると、なんだか緊張が恐怖に変わりそうだ。
明日に残らない程度の寝酒を飲めと俺に勧めながらカカシ先生も自分の分を買い、名残惜しくもまた明日と別れた。
舞いの前日。アカデミーは午前中で生徒を帰宅させた。午後からは出店の準備で人の出入りが多く、安全が確保できないという理由だ。
明日は出席だけ取ると解散になるから、その後の注意事項を記した保護者への手紙を渡す。その手紙を紙飛行機にして飛ばした子へ拳骨を落としている間に飛び出そうとした一団に怒鳴れば、隣の教室からも同じように怒鳴り声が聞こえて苦笑した。
職員室へ戻るとカカシ先生の元へと追い出された。午後は教師も力仕事を手伝うのだ、怪我をしては明日の本番で困るだろうと。そんなに柔じゃないんだが、好意はありがたく受け取る。
向かった上忍待機所が、常にない混みようだった事に驚いた。綱手様が緊急以外を明日の夜までぶった切ったんだ、とアスマ先生が豪快に笑い周りもつられて笑っていた。
「たまにはいいだろ、下忍の頃のような手伝いをするってのも。」
彼らは出店の手伝いが楽しみらしい。一応正式な依頼を、舞いの保存会とかいう名称の団体から受けているとか。報酬が参加費無料の打ち上げだと聞けば、昨日会ったイズモとコテツの遠い目にも納得できた。うわばみ達の準備ご苦労様。
カカシ先生が俺に気付いて手招きをする。寄っていくと隣に座らされた。
「今日はどうします? 練習したくても部屋は使われてるみたいだし。」
出店の食材が運び込まれ、部屋に結界を張って冷蔵庫代わりにするという話だ。確かに演習場で練習ってのもなんだかだ。
「最後の兄弟ごっこ、したいです。」
言ってからしまったと俯く。遊んでる訳にはいかないだろう。
「おう、どこにでも行ってこい。お前らは気持ちを休める事が大切だ。」
「今日は誰も文句言わねえよ。」
次々と肩や背中を叩かれ、カカシ先生が遠慮なくと立ち上がった。皆さんの心遣いが嬉しくてありがとうございますと俺は叫ぶように礼を言うと、照れを隠して速足になったカカシ先生の後を追った。
そうして何故か、二人で散歩してる。
時間をもて余して歩き続けるなんて、記憶の限りではなかった。色んな発見がある。
「あ、ラーメン屋。」
「また?」
「だって看板に新メニューって書いてあるから、食べたくなるのは仕方ないです。」
「はいはい、今度ゆっくり来ればいいでしょ。」
「カカシ先生、その定食屋から煮魚の匂いがします。魚、好きですよね。」
「うーん本当だ、いいかも。覚えといて下さい。」
はしゃぐ俺に食べ物ばかりと笑う。本当にカカシ先生がお兄ちゃんだったら、俺はいつまでも甘えて一生自立できないかも。
のんびりと歩きながら、カカシ先生がとんでもない事を口にした。
「オレね、死ぬ時は例え病院でも里の中がいいと思います。」
ひ、と俺の喉から変な声が出て、道の真ん中で立ち止まってしまった。いきなり現実に引き戻され、頭の中が真っ白になる。
「も…もしかしたら、病院じゃなくて…家の畳の上かもしれませんよ。うんと年をとって老衰で、家族に看取られながらなんてどうですか。」
「それいいですねえ。ボケてて任務に行くんだーって徘徊するかもしれないし、死にそうで死なない頑固爺になれたら面白いなぁ。」
ふっと空を見上げて呟くカカシ先生に、泣きそうだと自覚した顔は見せないように俺は少し先を歩いた。
火影岩を遠く正面に見る高台にカカシ先生を案内した。誰にも、本当に誰にも教えてない秘密の場所だ。
社はとうになく石の鳥居だけが残る神社の跡、鳥居すら木々に覆われ訪れる人は皆無。
地べたに腰を下ろした俺達は、無言で景色を眺めた。遥か彼方から威勢のいい声が聞こえるのは、校庭の準備の忍び達か。
いつの間にか眠っていたらしい。首が痛くて目を覚ませば、俺の頭はカカシ先生の肩に乗っていた。
あ、と慌てて離れると疲れてますねと柔らかく笑われた。
「カカシ先生も眠りますか?」
俺が冗談にぽんと自分の腿を叩くと、カカシ先生は素直に横になった。声も出せず口を開けたまま、俺の身体に緊張が走る。
「力抜いてよ、固い。」
「あ、はい。」
言われるままに息を吐けばうんと頷き、そのままカカシ先生は目を瞑ったようだった。
本当に眠ったのかは解らないが僅かに上下する肩が規則正しく、俺はぼうっとその様子を見ていた。
アカデミーの鐘の音が風に乗って届き、カカシ先生が身じろぎした。はっと我にかえり太陽を見上げて計算すると、ここへ来てから二時間はたっている。
ゆっくり起き上がったカカシ先生が、額宛てを取って目を擦り大きな欠伸をした。んん…俺なんかに全部見せて…いいのかなあ。
忍びだけでなく誰にも尊敬された方々なんだと改めて知ると、なんだか緊張が恐怖に変わりそうだ。
明日に残らない程度の寝酒を飲めと俺に勧めながらカカシ先生も自分の分を買い、名残惜しくもまた明日と別れた。
舞いの前日。アカデミーは午前中で生徒を帰宅させた。午後からは出店の準備で人の出入りが多く、安全が確保できないという理由だ。
明日は出席だけ取ると解散になるから、その後の注意事項を記した保護者への手紙を渡す。その手紙を紙飛行機にして飛ばした子へ拳骨を落としている間に飛び出そうとした一団に怒鳴れば、隣の教室からも同じように怒鳴り声が聞こえて苦笑した。
職員室へ戻るとカカシ先生の元へと追い出された。午後は教師も力仕事を手伝うのだ、怪我をしては明日の本番で困るだろうと。そんなに柔じゃないんだが、好意はありがたく受け取る。
向かった上忍待機所が、常にない混みようだった事に驚いた。綱手様が緊急以外を明日の夜までぶった切ったんだ、とアスマ先生が豪快に笑い周りもつられて笑っていた。
「たまにはいいだろ、下忍の頃のような手伝いをするってのも。」
彼らは出店の手伝いが楽しみらしい。一応正式な依頼を、舞いの保存会とかいう名称の団体から受けているとか。報酬が参加費無料の打ち上げだと聞けば、昨日会ったイズモとコテツの遠い目にも納得できた。うわばみ達の準備ご苦労様。
カカシ先生が俺に気付いて手招きをする。寄っていくと隣に座らされた。
「今日はどうします? 練習したくても部屋は使われてるみたいだし。」
出店の食材が運び込まれ、部屋に結界を張って冷蔵庫代わりにするという話だ。確かに演習場で練習ってのもなんだかだ。
「最後の兄弟ごっこ、したいです。」
言ってからしまったと俯く。遊んでる訳にはいかないだろう。
「おう、どこにでも行ってこい。お前らは気持ちを休める事が大切だ。」
「今日は誰も文句言わねえよ。」
次々と肩や背中を叩かれ、カカシ先生が遠慮なくと立ち上がった。皆さんの心遣いが嬉しくてありがとうございますと俺は叫ぶように礼を言うと、照れを隠して速足になったカカシ先生の後を追った。
そうして何故か、二人で散歩してる。
時間をもて余して歩き続けるなんて、記憶の限りではなかった。色んな発見がある。
「あ、ラーメン屋。」
「また?」
「だって看板に新メニューって書いてあるから、食べたくなるのは仕方ないです。」
「はいはい、今度ゆっくり来ればいいでしょ。」
「カカシ先生、その定食屋から煮魚の匂いがします。魚、好きですよね。」
「うーん本当だ、いいかも。覚えといて下さい。」
はしゃぐ俺に食べ物ばかりと笑う。本当にカカシ先生がお兄ちゃんだったら、俺はいつまでも甘えて一生自立できないかも。
のんびりと歩きながら、カカシ先生がとんでもない事を口にした。
「オレね、死ぬ時は例え病院でも里の中がいいと思います。」
ひ、と俺の喉から変な声が出て、道の真ん中で立ち止まってしまった。いきなり現実に引き戻され、頭の中が真っ白になる。
「も…もしかしたら、病院じゃなくて…家の畳の上かもしれませんよ。うんと年をとって老衰で、家族に看取られながらなんてどうですか。」
「それいいですねえ。ボケてて任務に行くんだーって徘徊するかもしれないし、死にそうで死なない頑固爺になれたら面白いなぁ。」
ふっと空を見上げて呟くカカシ先生に、泣きそうだと自覚した顔は見せないように俺は少し先を歩いた。
火影岩を遠く正面に見る高台にカカシ先生を案内した。誰にも、本当に誰にも教えてない秘密の場所だ。
社はとうになく石の鳥居だけが残る神社の跡、鳥居すら木々に覆われ訪れる人は皆無。
地べたに腰を下ろした俺達は、無言で景色を眺めた。遥か彼方から威勢のいい声が聞こえるのは、校庭の準備の忍び達か。
いつの間にか眠っていたらしい。首が痛くて目を覚ませば、俺の頭はカカシ先生の肩に乗っていた。
あ、と慌てて離れると疲れてますねと柔らかく笑われた。
「カカシ先生も眠りますか?」
俺が冗談にぽんと自分の腿を叩くと、カカシ先生は素直に横になった。声も出せず口を開けたまま、俺の身体に緊張が走る。
「力抜いてよ、固い。」
「あ、はい。」
言われるままに息を吐けばうんと頷き、そのままカカシ先生は目を瞑ったようだった。
本当に眠ったのかは解らないが僅かに上下する肩が規則正しく、俺はぼうっとその様子を見ていた。
アカデミーの鐘の音が風に乗って届き、カカシ先生が身じろぎした。はっと我にかえり太陽を見上げて計算すると、ここへ来てから二時間はたっている。
ゆっくり起き上がったカカシ先生が、額宛てを取って目を擦り大きな欠伸をした。んん…俺なんかに全部見せて…いいのかなあ。
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