「火影様に嘘なんか吐きませんよ。」
それがいつだったか忘れるくらい、ずっと前のひとつめの嘘。
ふたつめもいつだったか、もう覚えていないけど。
そうして一つ一つ彼は俺の嘘を信じていく。

これでいくつめだ。
度毎に俺も傷つきながら、それでも嘘を吐き続ける。
もう、いいかな。
俺が限界だから。流れ出した血は失血死に値するほどだから。
「ね、せんせ?」
テーブルの向こうから酒を注ごうと、徳利を持った綺麗な手を伸ばしてくる。俺は遠慮なく盃を差し出して、お願いしますと笑い返す。
「明日、休みなんだよね。今夜はゆっくりできるでしょ。」
「すみません、明日はちょっと…朝から休日出勤で。」
優しいあんたがかわいそうになる。俺の嘘を全て信じて、頑張ってねなんて眉を下げて。
残念そうな顔に俺の方が泣き出す寸前。
嘘です。休日出勤なんかありません。
明日は何も予定がありません。
でも今夜はもう帰りたいんだ。…本音を言えば帰りたくないけど、あんたといるのは心地好すぎて気を許したらいつぽろりと溢すか解らない。
好きですってあんたが好きで好きで堪らないって、泣いて喚いてあんたを困らせる事になる。
今だって全部腹の中をぶちまけそうで、俺は自分が怖くて堪らない。

この先もずっと嘘を吐き通す俺を、どうか許して。
もうすぐ里を発つまで、いや発ってからもだ。
あんたが目の前にいなければ嘘も吐きやすい。他の誰かを好きになった振りをして、あんたに迷惑を掛けないようにと。
あんたに、迷惑は掛けられない。


「ね、せんせ?」
はい、と笑う顔がぎこちないよ。
ずっと先生が怯えている事は知ってる。それはオレに沢山嘘をついてるからだって事も知ってる。
でもさ、数えきれない沢山の嘘は全部オレの為にって、先生が勝手に決め付けてるんじゃないのかな。
明日も休日出勤だなんて、なあんも仕事がないのにどこへ行くの。おおかた図書館にでも籠るつもりなんでしょう。
嘘が下手だね。
まあオレもそれらの嘘にそうなんだーって、笑って付き合うくらいだから相当の嘘吐きだけど。

ねえ、もしも。
もしも。
もうオレに嘘を吐かなくていいようになったら、先生は。

「せんせ、オレね、火影やめるの。」


だから、もういいよ。
我慢しなくていいんだよ。


嘘じゃないって。


おいで。
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