まだ若いというより幼い幸の笑顔はほんの少し辛そうに見えて、カカシの胸がちくりと痛んだ。だが下手な慰めはいらないだろう、幸は強いし頭もいい。きっと父親を凌ぐ手腕で、火の国と木ノ葉の里を繋ぐ強固な橋を掛けてくれる。
ところでとカカシが畳に両手を着き、呪術の事は忘れるように幸に頭を下げた。幸は勿論ですと頷き、後は全て木ノ葉に任せられる事になった。
祠にあった邪神像は他国の、おそらく忍びの里のものだ。火の国をどうしようというのかはこれから調査するが、国主に知られず決着がつけばそれに越した事はない筈だ。カカシの判断に、きっと綱手も満足げに頷くだろう。
二人きりになると、カカシは巻物を弄びながらイルカにぼそりと切り出した。
「なんだかね、綱手様は解っていたのではと思うんですよ。」
「カカシさん?」
「色々と、ね。」
目を細めて笑う様子に首を捻りながら、イルカは前火影と現火影の共通点を見付けた気がした。
とにかく頭が回る。それはずる賢いとも言えるが、そうでもなければあれだけの忍び達を束ねられはしないのだ。今だってカカシは、イルカには解らないが綱手の思惑に感付いて喜んでいる。
「そうそう、オレ達と入れ替わりにその邪神像を調査に来る奴らの手筈を整えたから。」
「俺も、カカシさんと一緒に帰っていいんですか。」
呪術の餌食となった本人に、聞き取りをしなくていいのかと疑問に思ったが。
「ん、仔細はもう報告したし。綱手様が言うには、俺よりイルカ先生が帰らないと困るって。」
一切合切全部話したのか―と焦るイルカの、首の後ろに手を添え引き寄せたカカシはくすりと笑って耳に囁く。
「俺達の愛が勝ったんだ、って言っただけ。」
カカシの背に腕を回そうとしていたイルカは、頭が真っ白になって両腕を宙で止めた。
「嘘!」
カカシの胸を押しやって距離を取ったイルカは、おろおろと不審な動きをし部屋中に視線を動かした。くく、とカカシは喉の奥で笑う。
「落ち着いて。」
「え、だって、カカシさん、綱手様に、」
笑いながら、再度イルカを引寄せていとおしいと頬に唇を寄せた。
「知られて恥ずかしい事かな、愛し合ってるって。」
真剣に問い掛けるカカシに、イルカも顔を引き締めた。
「確かに障害は多いよね。人によっては、道を外したとか言うだろうね。」
同性だからって、何が悪いんだ。と吐き捨てるかのようなカカシを見詰める、イルカの胸は痛み苦しい。
だけど、とふにゃりと溶けたカカシの笑顔が正面に近付き手のひらで目を覆われた。
「イルカはオレを支えると言ってくれた。だからオレも、イルカを守る。」
唇に触れた柔らかな感触に、イルカは応えて口を開いた。
熱い。合わせた胸の鼓動が重なって、世界が二人だけになっていく。
暫くしてどちらからともなく唇を離したが、名残惜しくて身体は離せない。
カカシの胸に手を当て、鼓動を拾いながらイルカは言ってのけた。
「俺は、ただ守られるのは嫌です。火影としてのカカシさんの隣には立てませんけど、俺達の困難には一緒に立ち向かいたいんです。」
目を合わせきっぱりと言い放つイルカは、欲目抜きで輝いて見え更にカカシを蕩けさせた。できる事なら今すぐに、ここで想いを交わしたいけれど。
逸る気持ちを押し留め、ちらりと残りの巻物を見やってカカシはイルカの鎖骨の上の柔らかな皮膚に唇で印を付けた。
「これが消える前に、家に帰ろう。」
驚いたイルカはそこに手をやる。自分には見えないが、多分人目にはつくだろう。
火の国の中では、一般人に警戒させないように私服ですごしていた。首を見せるのは、自分も警戒していないと知らせる為だ。
それが裏目に出たと、一気に顔が熱くなったイルカは襟をかき合わせた。
「大丈夫、ぎりぎり見えないから。」
カカシにからかわれて真に受けて、ふとイルカは気付く。カカシは家に帰ろうと言った。その前には…。
「カカシさん、家って…どこにですか。それから俺を、呼び捨てにして…。」
「流石、聡いねえ。大丈夫、二人きりの時でしか言わないから。」
言わない訳ないけどね、とカカシは心でほくそ笑んだ。言ってしまえば公認だと、悪どいような正しいような。
「で、俺の家に住もうねって事。だってさ、別々に暮らしてイルカは寂しくならないかな?」
意地悪、と呟きながらイルカは熱い頬を手で冷やそうとした。けれどもう、指先まで熱くてまるで役に立ちはしない。どうやら頭も身体も、ショート寸前のようだ。
「…一人は、嫌です。けど…。」
素直に言えば、カカシは破顔した。だがイルカは、代々の火影の公邸に自分が住んではいけないような気がした。考え込んでいるとそれを見透かすように、カカシがある提案を持ち掛けてきた。
ところでとカカシが畳に両手を着き、呪術の事は忘れるように幸に頭を下げた。幸は勿論ですと頷き、後は全て木ノ葉に任せられる事になった。
祠にあった邪神像は他国の、おそらく忍びの里のものだ。火の国をどうしようというのかはこれから調査するが、国主に知られず決着がつけばそれに越した事はない筈だ。カカシの判断に、きっと綱手も満足げに頷くだろう。
二人きりになると、カカシは巻物を弄びながらイルカにぼそりと切り出した。
「なんだかね、綱手様は解っていたのではと思うんですよ。」
「カカシさん?」
「色々と、ね。」
目を細めて笑う様子に首を捻りながら、イルカは前火影と現火影の共通点を見付けた気がした。
とにかく頭が回る。それはずる賢いとも言えるが、そうでもなければあれだけの忍び達を束ねられはしないのだ。今だってカカシは、イルカには解らないが綱手の思惑に感付いて喜んでいる。
「そうそう、オレ達と入れ替わりにその邪神像を調査に来る奴らの手筈を整えたから。」
「俺も、カカシさんと一緒に帰っていいんですか。」
呪術の餌食となった本人に、聞き取りをしなくていいのかと疑問に思ったが。
「ん、仔細はもう報告したし。綱手様が言うには、俺よりイルカ先生が帰らないと困るって。」
一切合切全部話したのか―と焦るイルカの、首の後ろに手を添え引き寄せたカカシはくすりと笑って耳に囁く。
「俺達の愛が勝ったんだ、って言っただけ。」
カカシの背に腕を回そうとしていたイルカは、頭が真っ白になって両腕を宙で止めた。
「嘘!」
カカシの胸を押しやって距離を取ったイルカは、おろおろと不審な動きをし部屋中に視線を動かした。くく、とカカシは喉の奥で笑う。
「落ち着いて。」
「え、だって、カカシさん、綱手様に、」
笑いながら、再度イルカを引寄せていとおしいと頬に唇を寄せた。
「知られて恥ずかしい事かな、愛し合ってるって。」
真剣に問い掛けるカカシに、イルカも顔を引き締めた。
「確かに障害は多いよね。人によっては、道を外したとか言うだろうね。」
同性だからって、何が悪いんだ。と吐き捨てるかのようなカカシを見詰める、イルカの胸は痛み苦しい。
だけど、とふにゃりと溶けたカカシの笑顔が正面に近付き手のひらで目を覆われた。
「イルカはオレを支えると言ってくれた。だからオレも、イルカを守る。」
唇に触れた柔らかな感触に、イルカは応えて口を開いた。
熱い。合わせた胸の鼓動が重なって、世界が二人だけになっていく。
暫くしてどちらからともなく唇を離したが、名残惜しくて身体は離せない。
カカシの胸に手を当て、鼓動を拾いながらイルカは言ってのけた。
「俺は、ただ守られるのは嫌です。火影としてのカカシさんの隣には立てませんけど、俺達の困難には一緒に立ち向かいたいんです。」
目を合わせきっぱりと言い放つイルカは、欲目抜きで輝いて見え更にカカシを蕩けさせた。できる事なら今すぐに、ここで想いを交わしたいけれど。
逸る気持ちを押し留め、ちらりと残りの巻物を見やってカカシはイルカの鎖骨の上の柔らかな皮膚に唇で印を付けた。
「これが消える前に、家に帰ろう。」
驚いたイルカはそこに手をやる。自分には見えないが、多分人目にはつくだろう。
火の国の中では、一般人に警戒させないように私服ですごしていた。首を見せるのは、自分も警戒していないと知らせる為だ。
それが裏目に出たと、一気に顔が熱くなったイルカは襟をかき合わせた。
「大丈夫、ぎりぎり見えないから。」
カカシにからかわれて真に受けて、ふとイルカは気付く。カカシは家に帰ろうと言った。その前には…。
「カカシさん、家って…どこにですか。それから俺を、呼び捨てにして…。」
「流石、聡いねえ。大丈夫、二人きりの時でしか言わないから。」
言わない訳ないけどね、とカカシは心でほくそ笑んだ。言ってしまえば公認だと、悪どいような正しいような。
「で、俺の家に住もうねって事。だってさ、別々に暮らしてイルカは寂しくならないかな?」
意地悪、と呟きながらイルカは熱い頬を手で冷やそうとした。けれどもう、指先まで熱くてまるで役に立ちはしない。どうやら頭も身体も、ショート寸前のようだ。
「…一人は、嫌です。けど…。」
素直に言えば、カカシは破顔した。だがイルカは、代々の火影の公邸に自分が住んではいけないような気がした。考え込んでいるとそれを見透かすように、カカシがある提案を持ち掛けてきた。
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