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「…は、っう。」
ああやってしまった。と寝起きの脳味噌が素早く捉えた、下半身の違和感にイルカは脱力した。
「何で…だよ。」
むくりと身体を起こし、頭を掻き毟る。
夢精なんて何年ぶりか。
今見ていた夢の内容は忘れたが、白い大きな手の感触はリアルに残っている。思い出してまた熱くなり、イルカは風呂場に飛び込んだ。
今日も元気だ朝から一発、と同棲の楽しさを教えてくれる同僚が羨ましい。同じ一発がこれじゃあな。
シャワーが当たる局部は一度出してはいるが、直接な刺激を求めて張り詰めていた。竿を握り込み、親指でゆっくりと尖端を撫でると自然に腰が揺れてくる。片手を壁につき足を踏ん張って、握った手をそのままに腰を前後に振れば何となく突っ込んだ気になり、すぐに吐き出して暴れん坊は見る間にふにゃりと萎れた。
虚しいが、誰でもいいとまで切羽詰まってはいない。別にゲイじゃないけど、と思ったらカカシの顔が浮かんでどきっと胸が跳ねた。
夢の白い大きな手は、髪を結ってくれたカカシの手だ。そうだ、あの手が俺の身体を這って…。
何でだよ、とイルカはまた呟き浴槽の縁に腰掛けて項垂れた。

仕事にならない。頭の隅には常にカカシの白い手が蠢いている。
誰彼構わず手を見詰めてしまい、具合が悪いのかと心配されてしまった。
性欲は人並みだが何年も付き合う女性はできず、たまに勢いで、寂しい仲間達と抜いてくれるお店に行く。ただ本番は高額な別料金だから、皆自家発電と安酒に走ってまぎらわす。

「俺はゲイじゃないけどな。」
「それはオレらが良く知ってるさ。好きになったのが男だっただけなんだよな。」
独り言を拾われて、イルカは暇な受付で飛び上がらんばかりに驚いた。やべえ、洒落にならねえ位カカシ先生に毒されてる。
「そうなんだ、あの人本当にいい人だよ。」
つるりと言葉が出る。本当にそう思う、時々地雷を踏んでしまうのは自分が悪いからだ、理由は解らないが。
「もう半年だな、お前大丈夫か。」
イルカが空元気を続けているのは知られている。恋人ではなく友人として、なのだけれど誤解は本人に解いてもらえばいいとそのままに。

カカシが就いた任務は、大国の陰謀が明らかになった時点で公表された。
独立した小国の土地に珍しい金属資源が大量に発見された、とカカシが隊を組んで攻めいる準備を始めた直後に先行の諜報隊が情報を得てきた。大国が十年も静観していたのは、資源調査をしていたからだったのだ。
行方不明の忍びはその陰謀の諜報と思われたのではないか、と推測された。ならば何故生かしているのか、まだ里の生存反応の術は有効だ。
小国は皆殺しで乗っ取られまた大国に吸収されるらしい、と小国に伝えると木ノ葉の里に応戦と国民の救助を依頼するだけの資金はなかったが、大国を潰した後に資源を分ける契約を交わした。
先ずは国民を逃がすために一時避難の豪を作り避難経路を確保して、とそれだけで二ヶ月掛かってしまった。

里にも応援要請が届き、忍び達は沸き立った。
イルカは悩んだ。アカデミーからも志願者が出て、イルカは行かないのかと聞かれる。恋人のカカシのために、と。
イルカはカカシも認める実力があるが、当人には自覚がない。だから今回も足手まといになると危惧して、たたらを踏んでいた。
「イルカよ、迷わず行ってくるがよい。」
と火影から命令が出れば腹を括るしかない。武器と術の巻物だけを身に付け、撹乱部隊に就いた。あの特別上忍の教え子が隊長だ。
「私にトラップを教えてくれた先生がいてこそです。」
後押しが嬉しくない訳がないが、イルカは精一杯努めます、と余裕がなかった。
カカシが無事でいればいいとそれだけを願うあさましい自分が恥ずかしく、だが早く会いたくて。
会って、俺はどうするんだ?
イルカは答えを求めて歩き続けた。

既に情報部隊と感知部隊が配置され、イルカの撹乱部隊が位置に着いて二日。最終ラインの確認に、カカシと各隊の隊長がポイントに付く各々を回っていた。
「イルカ先生、何で此処にいるんですか。」
「任務に決まってるじゃないですか。」
半年振りの挨拶がこれじゃあ、と周囲が笑う。五分だけ二人きりにしてやるからと、小さなテントに押し込まれた。
カカシはふらふらとイルカに歩み寄り、凭れるように抱き着いた。ああ、髪は相変わらず森の香りだ。
時間がないのに話す事がありすぎて、言葉が出ない。
「一緒に帰りましょうね。」
「うん…、一緒に。」
カカシは抱き締めたイルカの首筋から顔が上げられない。
側にいる事が許されているなら死ぬまで友人でいい、とカカシは潤む目をぎゅっとつむった。
「カカシィ、次に行くぞぉ。」

じゃあ、終わったら。
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