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ページを捲ると、同じ男女が続く。殆どは一人で写っているからお互いを撮り合ったのだろう。女はどれも綺麗に狙った構図だが、男の写真はことごとくおかしい。斜めに傾いていたりピンボケだったり。だが全ての写真の共通点は笑顔だという事だ。
色の褪せたカラー写真に変わったのは、女の腹がせり出してからだ。徐々に大きくなる腹の何枚かを経て、平らになった腹の上に寝る皺くちゃの新生児。
それからの写真はどれも同じようだが一つ一つが何かの記念らしい。表紙裏の一枚目から男の豪快な字が写真の下に必ず添えられて、それを読むだけでこの家族の歴史が解るというものだ。
写真の子どもは見るまに成長していく。
寝返り、ハイハイ、つかまり立ち、そして一人で立つ写真は一回りサイズが大きい。
次の写真は間隔が開き、三才位の子の顔の真ん中をよぎる一本の赤い傷はまだ新しい。少し強張った笑顔。
写真は笑顔が続いた。季節の節目や行事の記念は必ずあり、ごくたまに男や女が寄り添っていた。
だが写真は九才の夏で終わっていた。分厚いアルバムの残り数枚はただの紙だった。
暫くは誰も口を開かなかった。沈黙をイルカが破る。
「ありがとう、父さん母さん。」
ひりつく喉から絞り出した声は泣きそうに聞こえ、カカシはイルカを腕に囲う。
大丈夫、と言いながらイルカはカカシの胸に額を押し付け溜め息を吐いた。そして上げた顔は笑顔だったが、カカシだけには無理矢理作ったと解った。
明日もあるし帰ろうかね、とカカシがイルカの手を引いて立ち上がらせた。戸締まりをし、玄関の鍵を掛ける。子ども達はアルバムの余韻からか静かだ。
「じゃあ俺はサスケとサクラを送ります。また明日来ますね、お休みなさい。」
カカシは気を利かせ、イルカとナルトだけにしてやった。きっと写真が撮られなくなった後について話す事があるだろうと。
もう一度ゆっくり見たかっただろうに、イルカがアルバムを置いてきたのはナルトへの気遣いだと知れたからだ。続かない写真が語る意味を。
ナルトの誕生日はイルカの両親の命日。そして九尾に襲われた木ノ葉の里の人々の命日。
九尾を体に宿したからといって、ナルトのせいではないのに憎まれてきた。イルカは何故憎まないのか、と聞かれ続ける、今もまだ。
だってナルトは関係ないから、イルカはそう答え続ける。
「イルカ先生、オレが、」
バケモノだから、と続けるだろうと判り言わせたくないから、イルカはナルトの手をきつく握り締めた。
「いってえ、何すんだって。」
「ナルトが成長したのが嬉しくて、つい。」
「だろ、オレもうサスケに負けねえんだぜ。」
話を逸らせた事に安堵しイルカはナルトの自慢話を相槌で先を促し、それからそれからと聞いてやった。
お互いの家への分かれ道、ナルトは大きく手を振り走って消えた。
「ナルトにあなたの気持ちは届いてますから、大丈夫。」
暗闇から現れたカカシがイルカを抱いた。震えているのは泣くのを堪えているからだろう。さっきは子ども達の前で泣けなかったから、背中を叩いて泣けと促す。幸い周りは空き地と河川敷だ、誰も聞きやしない。
カカシの胸で堰を切ったように泣き出したイルカはごめんねごめんね、と言い続けた。何に対してかカカシは聞かない。聞かなくても解る、全てに対してだ。
「あなたが負う事ではないでしょう。」
だって、と言い出したイルカの口癖をカカシは唇で止めた。
一人で思い込んで完結するイルカが腹立たしく、自分を置き去りにされたカカシは深い口付けで存在を思い出させる。
それは単なる焼きもちだ。イルカの心の中心にいたい、自分だけを見て欲しい。
女々しいなあ、とカカシは夜空を見上げて瞬く星を見た。星を綺麗だと思えるのはイルカを愛したからだ。人の心を大切にする方法をイルカに教わったとカカシは感謝し、気付けた自分も大切にできるようになった。
だがそれはイルカが悲しむからであって、カカシはまだ自分自身を愛せてはいない。愛して甘やかして、自分なしではいられないようにしてやる、とイルカはカカシの腕の中で決意した。いつか死ぬ時にいい人生だったと思えたら、カカシは自分を愛せたと気付く筈だ。
「カカシさん、今日は泊まりますか。」
「でも今日の俺はあなたを寝かせられないかもしれないから。」
くすりとイルカが笑って明日も一緒でしょ、とカカシの腕にしがみつく。
「そうだよね、引っ越したら毎日一緒に寝て起きて、やだー新婚さんだあ。」
イルカが生家に戻る事を決めたのは、教員寮のアパートが古くて建て替えになるからだ。一度仮屋に引っ越して、新築であろうとまた引っ越し直すのは面倒だし、と。
カカシとの関係もそれではっきりするだろうかと思ったら、…したのだ。
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