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結局午後はサクラが二人のなれ初めの話を聞きたがり、カカシが答えナルトとサスケが時折突っ込む形で口は動くが手が止まり、夕方手元が見辛くなっても掃除は半分も終わらずイルカは頭を抱えた。
「任務としては完了してないんで払いたくないんですが、カカシさん。」
「はい、休日返上で俺やりますから。」
語尾の力が抜けて声が小さくなっていくが何故か嬉しそうだ。
その横で三人の子ども達も神妙な顔をし、お互いをちらちら見て頷いた。
「おれ達もやるってばよ。依頼人がイルカ先生だからって気ぃ抜いちゃったから、だから。」
「責任が取れなきゃこの額宛ても意味はないし、最後までやる。」
「違約金を払って当たり前なんです。先生ごめんなさい。」
その言葉にカカシの元で人間としても成長したとイルカは喜んで、いいよと笑って許しそうになる。
では明日も依頼続行ね、とカカシは解散を言い渡したが誰も帰らない。午後にはガスも通り台所で料理はできるようになったから、イルカは夕飯を食べるかと四人を誘う。
やったあ、とナルトがイルカの手を引き買い物へと急ぐその後を皆で追い掛けた。
はしゃぐ子らの後ろでカカシはイルカの手を握った。イルカの顔が熱くなる。
「ごめんね、俺は愛される事には慣れてなくて甘えちゃったね。」
「あなたを愛さない人はいませんよ。」
イルカはぎゅっと握り返した。でも一番愛してるのは誰だか解ってますよね、と無言で教える。
返すのは掠めるような口付け。
大人になる寸前の子ども達は気配で後ろを探りつつ話し掛けるタイミングを測っていたが、結局振り返る事ができなかった。
「まだ少し寒いから鍋にしたいね、今年最後の。何がいいと思う。」
八百屋でイルカが立ち止まる。あれやこれやと各自の希望に纏まらず、ごった煮になりそうだった。
荷物持ちがいる時にと、ついでに食器も沢山買い揃えた。
「えー、イルカってばこいつらの茶碗まで置くの。」
カカシが不満そうに言う。
「また来てもらいたいから。駄目ですか。」
「だって俺達の愛の巣じゃないの、邪魔されたくないよ。」
立ち止まった三人の目が下から見上げている。サクラの頬が赤くなって目が泳いだのは何を想像したのか。サスケも横を向いた。
「愛の巣って何だ。」
ナルトだけが解らなくてカカシに食い下がった。商店街の真ん中で大声を出すナルトに、イルカはカカシの背に隠れて周りを伺った。
「なあなあ、愛の巣ってどういう事だよ、カカシ先生、イルカ先生。」
ナルトはご丁寧に二人の名を連呼し、イルカの知り合いに全てを教えた。
この商店街はイルカの生家近くの繁華街に位置しているため今のアパートからは遠く、普段は利用しないが生まれた町だから何もない休みに時折訪れていた。
おむつを変えてくれた魚屋のおかみさんや、おぶってくれた肉屋のお爺ちゃんに会いに。
案の定人が集まってきた。
戻って来るんだね、仕事はどうするの、結婚するの、相手は誰、と質問が重なる。
恥ずかしさにイルカはカカシの腕にしがみついたが、それが全ての答えになったとは気付かなかった。
「支え合って一生添い遂げる覚悟でいます。皆さん、宜しくお願いいたします。」
怪しい風体のカカシが腰を深く折り、人々に一人ずつ頭を下げた。忍びでなくともカカシの事は知っているのだろう、ざわ、とどよめいたがすぐ拍手が起こった。真摯なカカシの態度に、人生の先輩達はイルカの伴侶として認めたのだ。
皆イルカの父であり母であり、大事な家族だと思っているから、イルカに相応しくなければ上忍のカカシでさえその場で殴り倒すような人達だ。
祝福され、イルカは泣きながら笑っていた。

台所でも思い出すのか時々包丁の手が止まる。その度にカカシはイルカの側で何かを囁き、イルカは頷いていた。
会話を聞こうとは思わず三人の子どもは黙々とできる範囲の片付けをしていたが、サスケが古新聞の棚から見付けた物を珍しく興奮した様子で引っ張り出した。
「イルカ先生、アルバムだ。」
途端にわあっと声が上がり、興味津々の目が表紙に注がれた。流石に勝手に開けられないと、イルカを待つ。
「食べてからにしよう。」
自分も覚えていないアルバムだから開くには覚悟がいると、イルカは表紙を撫でてそれを脇に置いた。

いざとなるとやはり怖い。記憶に朧気な両親はどんな顔をしているのだろう。自分はどんな顔をしているのだろう。
アルバムといえば昔は紙に直接糊で貼っていた。黄ばみを通り越し、茶色になった台紙は母の手紙と同様にぱり、と水分の抜けた音をたてた。
厚紙を捲ると一枚目に、白黒で若い男女がこの家の玄関前に立っていた。
どちらも今のイルカより少し年上のようだ。そしてどちらも、イルカにどことなく似ている。
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