忍びのくせして顔から倒れてしまうのか、と思った瞬間に視界が反転し俺は空を見ていた。すんでのところで抱き留められたらしい。
「ごめん。」
カカシさんの言葉と共に手を引っ張られ、ほっとして地面に足を着けて立った。カカシさんは俯き、上目使いでぼそぼそと言い訳を始める。
「…ちょっと、…動揺して。先生の手がオレの手を掴んでるのが見えたら、びっくりしたんだ。ごめんなさい。」
「それだけの事で?」
さっきは強引に欲を見せ付けてきたくせに。慣れた仕草に少しムカついたのに、なんで今度は十代の若造みたいに初な反応を見せるんだろう。
俺の不機嫌な顔を窺うカカシさんは、ほんの少し脅えているようにも見えた。
「カッコ悪いね…。夢中で先生を口説いたけど、思い返すと物凄く恥ずかしくなってさ。」
本気だから素が出てしまう、隠せない、と真剣な声に勝手に胸の鼓動が速まっていった。聞いている俺も、羞恥に全身からじわりと汗が滲む。
そういえば、さっき言い淀んだカカシさんの言葉って。
「あの、もしかして…カカシさんは、俺の手を握って歩きたいんですか。」
ぴくりと眉が動き不自然に顔を背けるから、それが答えなんだろう。信じられない、カカシさんがそんな事でこれ程悩んでいるなんて。
さりげなく表情を窺うと、とても嘘をつくようには見えない緊張の仕方だった。俺の緊張を全部肩代わりしてくれたのかなと思うと、気持ちが海底から空の彼方にまで一気に浮上した。
「じゃあ今からそうしましょう。」
カカシさんの目の前に手を出すと、まるでガラスにでも触るかのように怖々と握って、ありがとうと顔を染めたままぎこちなく笑った。そしてほうと大きな息を吐くと、カカシさんは嬉しそうに握った俺の手を持ち上げて頬擦りした。
「イルカ先生が存在するだけで世界が輝いてる。イルカ先生がオレを見ただけで生きてるって実感する。イルカ先生が笑うところをずっと見ていたいから、この里はオレが守る。」
キザったらしいとも思えるけれど、やっぱりこの人は凄い。この里を守るなんて、簡単に言っちゃうんだもんな。人生の経験値が俺とは天と地程違うからなぁ…いやでも、俺だって。
「何十年経ってもそう言ってもらえるように、俺も頑張ります。」
あっ失敗した。カカシさんのようにカッコつけようとしたが、上手い言葉が出なくてアカデミーの生徒みたいな宣言になってしまった。何を頑張るんだ、俺は。
カカシさんもそう思ったらしく、笑いながら首を傾げた。
「何を頑張るんですか?」
いや何をって、ただ一つしかないけど。
「貴方を全力で愛する事です。」
胸を張って即答すると、カカシさんは俺の手に音をたてて口付けた。…驚きすぎて絶句した。
さあ行きましょうと手を引かれ、一部始終を見ていただろう人々の視線を背中に受けながら歩き始める。
明日、俺は始業前に受付に入る予定だ。色々考えるとちょっと鬱になりそうだな。大丈夫、怖いものなんか、多分…ない。
俺をアパートの前まで送ってくれたカカシさんは不満そうに、実はこれから待機に入りますと口を尖らせ非常に不細工な顔を作った。
初めて知ったのだが、カカシさんは相当独占欲が強いらしい。とにかくただ側にいたいのだと、駄々っ子が目の前で拗ねていた。
「演舞の練習の時、イルカ先生とずっと一緒だったじゃない。続けてその後も任務で朝昼晩一緒にいたからね、離れてる事の方がおかしいんだって思えてきて。」
そうだった。演舞の練習が始まったのはどのくらい前だったっけ。ほんのひと月ふた月だった気がするけど、カカシさんとはもっと長く一緒にいるように思えてなんだか変だ。
「カカシさん、教官が翼の話をしたじゃないですか。覚えてます?」
握られている片手を離す気はないようだから、空いた手をひらひらと宙に泳がせる。
「ああ、ほんの少しだけ息が合わなくて困っていた時の?」
思い出したその苦労さえ懐かしくなり、二人同時に微笑みが出た。
二羽の鳥が並んで飛ぶのではなく、一羽の鳥の左右の翼になれと言われた。あの意味を、今の俺達に当て嵌めてみませんか。そう言ってみると、カカシさんも頷いてくれた。
「一心同体になる事はなかなか難しいけど、そのくらい相手を思いやって空気を読んで阿吽の呼吸になればいい。…とオレは解釈するけどね。」
やはり立場の違いが考察にも表れていた。
「俺はちょっと違うんです。空気を読まなくても、自然に阿吽の呼吸になりたいって思いました。」
カカシさんは上で束ねる最高位の隊長、俺は下でその命令を待つその他大勢の一人。自然に染み付いた思考にそういう考え方もあったのかと、お互いに驚く。
演舞の時は二人とも同等の演者だったから、息を合わせる事ができたのではないか。格差が今はっきりと俺に突き付けられたわけだ。解りきってるから卑屈にはならないけどさ、溜め息位つかせてくれ。
「ごめん。」
カカシさんの言葉と共に手を引っ張られ、ほっとして地面に足を着けて立った。カカシさんは俯き、上目使いでぼそぼそと言い訳を始める。
「…ちょっと、…動揺して。先生の手がオレの手を掴んでるのが見えたら、びっくりしたんだ。ごめんなさい。」
「それだけの事で?」
さっきは強引に欲を見せ付けてきたくせに。慣れた仕草に少しムカついたのに、なんで今度は十代の若造みたいに初な反応を見せるんだろう。
俺の不機嫌な顔を窺うカカシさんは、ほんの少し脅えているようにも見えた。
「カッコ悪いね…。夢中で先生を口説いたけど、思い返すと物凄く恥ずかしくなってさ。」
本気だから素が出てしまう、隠せない、と真剣な声に勝手に胸の鼓動が速まっていった。聞いている俺も、羞恥に全身からじわりと汗が滲む。
そういえば、さっき言い淀んだカカシさんの言葉って。
「あの、もしかして…カカシさんは、俺の手を握って歩きたいんですか。」
ぴくりと眉が動き不自然に顔を背けるから、それが答えなんだろう。信じられない、カカシさんがそんな事でこれ程悩んでいるなんて。
さりげなく表情を窺うと、とても嘘をつくようには見えない緊張の仕方だった。俺の緊張を全部肩代わりしてくれたのかなと思うと、気持ちが海底から空の彼方にまで一気に浮上した。
「じゃあ今からそうしましょう。」
カカシさんの目の前に手を出すと、まるでガラスにでも触るかのように怖々と握って、ありがとうと顔を染めたままぎこちなく笑った。そしてほうと大きな息を吐くと、カカシさんは嬉しそうに握った俺の手を持ち上げて頬擦りした。
「イルカ先生が存在するだけで世界が輝いてる。イルカ先生がオレを見ただけで生きてるって実感する。イルカ先生が笑うところをずっと見ていたいから、この里はオレが守る。」
キザったらしいとも思えるけれど、やっぱりこの人は凄い。この里を守るなんて、簡単に言っちゃうんだもんな。人生の経験値が俺とは天と地程違うからなぁ…いやでも、俺だって。
「何十年経ってもそう言ってもらえるように、俺も頑張ります。」
あっ失敗した。カカシさんのようにカッコつけようとしたが、上手い言葉が出なくてアカデミーの生徒みたいな宣言になってしまった。何を頑張るんだ、俺は。
カカシさんもそう思ったらしく、笑いながら首を傾げた。
「何を頑張るんですか?」
いや何をって、ただ一つしかないけど。
「貴方を全力で愛する事です。」
胸を張って即答すると、カカシさんは俺の手に音をたてて口付けた。…驚きすぎて絶句した。
さあ行きましょうと手を引かれ、一部始終を見ていただろう人々の視線を背中に受けながら歩き始める。
明日、俺は始業前に受付に入る予定だ。色々考えるとちょっと鬱になりそうだな。大丈夫、怖いものなんか、多分…ない。
俺をアパートの前まで送ってくれたカカシさんは不満そうに、実はこれから待機に入りますと口を尖らせ非常に不細工な顔を作った。
初めて知ったのだが、カカシさんは相当独占欲が強いらしい。とにかくただ側にいたいのだと、駄々っ子が目の前で拗ねていた。
「演舞の練習の時、イルカ先生とずっと一緒だったじゃない。続けてその後も任務で朝昼晩一緒にいたからね、離れてる事の方がおかしいんだって思えてきて。」
そうだった。演舞の練習が始まったのはどのくらい前だったっけ。ほんのひと月ふた月だった気がするけど、カカシさんとはもっと長く一緒にいるように思えてなんだか変だ。
「カカシさん、教官が翼の話をしたじゃないですか。覚えてます?」
握られている片手を離す気はないようだから、空いた手をひらひらと宙に泳がせる。
「ああ、ほんの少しだけ息が合わなくて困っていた時の?」
思い出したその苦労さえ懐かしくなり、二人同時に微笑みが出た。
二羽の鳥が並んで飛ぶのではなく、一羽の鳥の左右の翼になれと言われた。あの意味を、今の俺達に当て嵌めてみませんか。そう言ってみると、カカシさんも頷いてくれた。
「一心同体になる事はなかなか難しいけど、そのくらい相手を思いやって空気を読んで阿吽の呼吸になればいい。…とオレは解釈するけどね。」
やはり立場の違いが考察にも表れていた。
「俺はちょっと違うんです。空気を読まなくても、自然に阿吽の呼吸になりたいって思いました。」
カカシさんは上で束ねる最高位の隊長、俺は下でその命令を待つその他大勢の一人。自然に染み付いた思考にそういう考え方もあったのかと、お互いに驚く。
演舞の時は二人とも同等の演者だったから、息を合わせる事ができたのではないか。格差が今はっきりと俺に突き付けられたわけだ。解りきってるから卑屈にはならないけどさ、溜め息位つかせてくれ。
スポンサードリンク