近寄ってクナイで打ち合う振りが暫く続く。カカシ先生の手が出れば俺が受ける、そしてその逆。
クナイは触れ合わず、寸止めだ。呼吸が合わなければ触れて金属の音がする。
「イルカ先生。」
「はい。」
至近距離で小さく声を掛けられた。これか、さっき言ってたのは。
お互いに一歩下がって離れ、また一歩前に出て肩が触れるとカカシ先生が話し出す。
「今日の夕飯はちょっといいものを食べませんか。」
「え? は?」
「奢りますよ。」
舞いに集中できないんだけど、カカシ先生はいったい何故今そんな事を言い出すんだ。でもこんな事で動じちゃいけない、動きながら考えろ。
「あ、じゃあ、鰻を。」
「おや遠慮がない。いいですよ。」
顔を隠す布の下でにこりと笑ったのが、頬の筋肉の動きで解った。カカシ先生はこれだけは譲れないと口布だけは着けているが、俺達の頭は兜に深く覆われ頬から顎も守られているから俺でさえ殆ど顔は見えず、支障がないと認められたのだ。
クナイの会話が終わり、俺達は距離を取る。
今度は刀。
前を向いて並び、左右対称の形で忍刀を振る。
「どう? 緊張は解けたでしょう。」
ああそうか、俺の為に。
「もう身体は勝手に動くようになってるんだから、話をしてたって大丈夫だと思いますよ。」
かえって動きが柔らかくなったように見えました、とカカシ先生の目が優しく笑った。
ありがとうございます、と俺が破顔したのは誰も気付かなかっただろうか。
最後に刀を天に突き上げ、ゆっくり刃を合わせて止まる。それで舞いは終わった。
カカシ先生は息も乱さず立ったままだが、俺は膝が崩れて舞台に座り込んでしまった。カカシ先生が腕を取って立たせてくれたから踏ん張って、礼をして袖へと戻った。
「すみません、やっぱり体力が落ちてました。悔しいなぁ。」
袖で鎧を解いてもらいながら漏らすと、教官が鍛練しろと重い声を出した。年のいかない生徒にもこうして脅しを掛ける人だった。
「先生、酷いです。」
「お前なぁ、相変わらずチャクラの配分を間違えてるぞ。それで疲労が早くて、よく木の上からまっ逆さまに落ちてただろうが。」
「え、そんなの忘れて下さいよ。恥ずかしい。」
何百人と教えてきただろう教官は今は完全に引退しているが、それでも何かと呼びつけられてアカデミーのご意見番と呼ばれていた。何の因果か俺は滅多に会えないが、今回はしょっちゅう会えて嬉しくてむず痒い思いを抱えている。
「いいなぁ…イルカ先生の子供の頃ってどれだけ聞いてても、オレ実際は見てる訳じゃないからよく解らないし。」
カカシ先生の拗ねたような言葉に、教官は笑いが抑えきれないようだった。
「何を言ってる。カカシ君はうみののいたずらを見たろ、そのまんまさ。」
綱手様がお話しになったんだろうそれを思い出し、俺は火照る頬を両手で押さえた。
「す、凄かった、です。」
腹筋を震わせた思い出し笑いのせいで、カカシ先生の言葉が途切れる。そんなに笑わなくたって。
「先生、この人はどうだったんですか。」
羞恥をすり替えようと腕組みしてカカシ先生を睨めば、教官はこっそりと耳打ちしてくれた。
「全然可愛げなくて、いつも教師を馬鹿にしてたよ。実際年上ばかりのクラスでも誰よりも優秀だったからね、仕方ないし。」
それでも、と片眉を上げて。
「印が結べなくて泣いてる子には教えてあげてたし、頼られれば面倒見は良かったね。」
わざと聞こえるように言っている。ちらりとカカシ先生を窺いにやりと笑った教官に、言い返せずに顰めっ面になった里の誇る上忍は見える部分が真っ赤になった事を知らないだろう。
教官はよく見ていてくれたんだ。人の気を引きたかった俺も、孤高を気取ったカカシ先生も、多分一生頭が上がらない。
演舞の日が近付いてくる。気付けば里全体は祭りのような雰囲気を醸し出していた。いや、祭りだ。
とうとう焼きそばやくじ引きの店やらも出る事になった。そういった出店の位置も決まり、校庭には協賛の提灯が吊るされている。
2階の職員室の窓から見下ろす校庭は、実技指導などできない程の祭り一色に染まっていた。生徒達も授業に集中できないし、と実技は教師一同相談の上で合同で奉納舞いの振り付けを教えている。
これほど差が出てくるとは思わなかった。全く振りを覚えられない子もいれば、大人の練習を見ていただけで完璧に舞える子もいた。
一日の終わり、舞台に興味を示し土足で走り回ったり悪さしないかと見張る為に、帰宅する生徒達を校庭で見送っていた。
「代わりに出てくれないかな。」
「ホントにな。」
隅では俺より上手く舞える子が覚えられない友達に舞って見せていたから思わず呟いたら、いつの間にか隣に立っていたゲンマさんが頷いた。
「あ、お疲れ様です。」
ゲンマさんが背中の荷物を地面に落とせば、重く鈍い音がした。半端ない装備品の数のようだ。
「オレよぉ、全体練習に一回しか出てねえし、小隊練習だって二回だぜ。本番無理だ。」
クナイは触れ合わず、寸止めだ。呼吸が合わなければ触れて金属の音がする。
「イルカ先生。」
「はい。」
至近距離で小さく声を掛けられた。これか、さっき言ってたのは。
お互いに一歩下がって離れ、また一歩前に出て肩が触れるとカカシ先生が話し出す。
「今日の夕飯はちょっといいものを食べませんか。」
「え? は?」
「奢りますよ。」
舞いに集中できないんだけど、カカシ先生はいったい何故今そんな事を言い出すんだ。でもこんな事で動じちゃいけない、動きながら考えろ。
「あ、じゃあ、鰻を。」
「おや遠慮がない。いいですよ。」
顔を隠す布の下でにこりと笑ったのが、頬の筋肉の動きで解った。カカシ先生はこれだけは譲れないと口布だけは着けているが、俺達の頭は兜に深く覆われ頬から顎も守られているから俺でさえ殆ど顔は見えず、支障がないと認められたのだ。
クナイの会話が終わり、俺達は距離を取る。
今度は刀。
前を向いて並び、左右対称の形で忍刀を振る。
「どう? 緊張は解けたでしょう。」
ああそうか、俺の為に。
「もう身体は勝手に動くようになってるんだから、話をしてたって大丈夫だと思いますよ。」
かえって動きが柔らかくなったように見えました、とカカシ先生の目が優しく笑った。
ありがとうございます、と俺が破顔したのは誰も気付かなかっただろうか。
最後に刀を天に突き上げ、ゆっくり刃を合わせて止まる。それで舞いは終わった。
カカシ先生は息も乱さず立ったままだが、俺は膝が崩れて舞台に座り込んでしまった。カカシ先生が腕を取って立たせてくれたから踏ん張って、礼をして袖へと戻った。
「すみません、やっぱり体力が落ちてました。悔しいなぁ。」
袖で鎧を解いてもらいながら漏らすと、教官が鍛練しろと重い声を出した。年のいかない生徒にもこうして脅しを掛ける人だった。
「先生、酷いです。」
「お前なぁ、相変わらずチャクラの配分を間違えてるぞ。それで疲労が早くて、よく木の上からまっ逆さまに落ちてただろうが。」
「え、そんなの忘れて下さいよ。恥ずかしい。」
何百人と教えてきただろう教官は今は完全に引退しているが、それでも何かと呼びつけられてアカデミーのご意見番と呼ばれていた。何の因果か俺は滅多に会えないが、今回はしょっちゅう会えて嬉しくてむず痒い思いを抱えている。
「いいなぁ…イルカ先生の子供の頃ってどれだけ聞いてても、オレ実際は見てる訳じゃないからよく解らないし。」
カカシ先生の拗ねたような言葉に、教官は笑いが抑えきれないようだった。
「何を言ってる。カカシ君はうみののいたずらを見たろ、そのまんまさ。」
綱手様がお話しになったんだろうそれを思い出し、俺は火照る頬を両手で押さえた。
「す、凄かった、です。」
腹筋を震わせた思い出し笑いのせいで、カカシ先生の言葉が途切れる。そんなに笑わなくたって。
「先生、この人はどうだったんですか。」
羞恥をすり替えようと腕組みしてカカシ先生を睨めば、教官はこっそりと耳打ちしてくれた。
「全然可愛げなくて、いつも教師を馬鹿にしてたよ。実際年上ばかりのクラスでも誰よりも優秀だったからね、仕方ないし。」
それでも、と片眉を上げて。
「印が結べなくて泣いてる子には教えてあげてたし、頼られれば面倒見は良かったね。」
わざと聞こえるように言っている。ちらりとカカシ先生を窺いにやりと笑った教官に、言い返せずに顰めっ面になった里の誇る上忍は見える部分が真っ赤になった事を知らないだろう。
教官はよく見ていてくれたんだ。人の気を引きたかった俺も、孤高を気取ったカカシ先生も、多分一生頭が上がらない。
演舞の日が近付いてくる。気付けば里全体は祭りのような雰囲気を醸し出していた。いや、祭りだ。
とうとう焼きそばやくじ引きの店やらも出る事になった。そういった出店の位置も決まり、校庭には協賛の提灯が吊るされている。
2階の職員室の窓から見下ろす校庭は、実技指導などできない程の祭り一色に染まっていた。生徒達も授業に集中できないし、と実技は教師一同相談の上で合同で奉納舞いの振り付けを教えている。
これほど差が出てくるとは思わなかった。全く振りを覚えられない子もいれば、大人の練習を見ていただけで完璧に舞える子もいた。
一日の終わり、舞台に興味を示し土足で走り回ったり悪さしないかと見張る為に、帰宅する生徒達を校庭で見送っていた。
「代わりに出てくれないかな。」
「ホントにな。」
隅では俺より上手く舞える子が覚えられない友達に舞って見せていたから思わず呟いたら、いつの間にか隣に立っていたゲンマさんが頷いた。
「あ、お疲れ様です。」
ゲンマさんが背中の荷物を地面に落とせば、重く鈍い音がした。半端ない装備品の数のようだ。
「オレよぉ、全体練習に一回しか出てねえし、小隊練習だって二回だぜ。本番無理だ。」
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