「イルカ先生、髪やらせて。」
「はいどうぞ。」
久し振りねえ、とカカシは女子推薦のマイナスイオンが発生するヘアブラシをぶんぶん振り回しながら、自分の前に丸椅子を置いて待った。
「イルカ先生、また生徒の居残りに付き合ってたんでしょ?」
髪を鋤く振りをしながらその耳に顔を近付け、偉いよねえと誉めた後にオレ以外に無駄な体力使うんじゃないよと頬を撫でる。
「カッ!」
思わず振り向いて大声で相手を叱ろうとしたイルカは、落ち着けとひと息ついて小さく溢した。いつもながら人に誤解されるような言動だ。
「こっちは夜のシゴトだから大丈夫だと思ってつい。カカシさんに迷惑掛けますね、すみません。」
忍びとして上位の暗部の中ですらカカシは更に上位の実力者で、イルカは足を引っ張るだけでろくな働きができない自覚はある。
だからアカデミー教師としてもまだ一年のひよっこが、何故火影命令とはいえ此処にいるのか半年たっても理解できない。
戦闘には足手まといだと招集の度に皆に言い聞かせていたが、そんな訳ないだろと大笑いして誰もイルカの話をまともに聞いてはくれない。何をもってそう確信するのか、何故かと聞くイルカには教えなーいとまた笑う。
いつまで面を被るのだろう、と髪をカカシに任せながらイルカは手に持つ白い動物面を見詰める。
「はい、できた。」
通常は天辺に括られた髪を、暗部では他の髪型にさせられる。
カカシの趣味だ。
暗部配属の初日から、初対面でヘアブラシを握りモジモジと、髪を弄らせてと天下のカカシに小首を傾げて懇願されたら、誰が断れるだろうか。
イルカの髪は下ろすと肩甲骨に掛かるが、真上近くに結っているのでそれほど長くは見えないだけだ。弄り甲斐があるとカカシは喜ぶ。
先ず初日に髪型に拘りはないから好きにさせたら、両耳の後ろで三つ編みにされた。これは嫌だ、と口に出せなかったのはカカシがあまりにも嬉しそうに笑ったからだ。
それ以来、暗部の任務の前には儀式とさせている。
「今日は編み込みね。」
左右のこめかみから編まれた三つ編みは、首の後ろに一つに流された。
「本当に器用ですよねえ。」
手鏡で両サイドを見て、イルカは感嘆のため息を吐いた。
「彼女にやってあげればいいのに。」
仕上げを確認する為にイルカの前に回ったカカシはその言葉に怒り、笑顔を引っ込めた。
「女はめんどくさい。」
ああまたやっちゃった。イルカは目だけで天を仰いだ。薄暗い煤けた天井を、こうして何回見上げたか。
カカシが腕に女をぶら下げて歩くのを見る度に言ってみるのだが、毎回同じ言葉が返される。
「勝手に付いてきて、勝手にその気になって。」
カカシは振り払わないが相手にもしない、それはイルカも知っている。
「オレはあんたがいい。」
「…。はあ。」
どういう意味だよ。
毎回締め括りに言われて、最初のうちはイルカをからかって遊んでいると思ったがしごく真面目な顔で言われる内に、それは無いと思うようになった。
ただ、近すぎるのだ。異性同士だったら確実に恋仲と疑われる程にべったりと。
既に成長も終えた男のくせに綺麗としか表現できない顔をイルカの正面に曝け出し、更には唇が触れんばかりに近付く。イルカだけに。
片やイルカは野暮ったい男で、唯一の自慢が黒くしなやかな髪だ。何が楽しくてカカシが自分に絡むのか謎で仕方ない。
お守りしてくれて助かるわ、と周りに言われて逆ですと笑い返すのも日常。そしてやはり何故か二人で組まされる。
カカシの癖もほぼ理解できた。ころころ変わる機嫌を上手に舵取りする自分を、イルカはたまに誉めたくなる。
今夜は編み込みが崩れる前に終わらせたいと、イルカは樹の上でそっと髪を撫でた。
行くぞ、と隣のカカシの指が動いた。左斜め後ろのイルカは付かず離れずの距離を保ち、カカシのフォローに回る。
まだまだ未熟だがイルカも忍者養成学校の教師だ、優秀な故に少年期から自己流で技を磨いたカカシの癖が、熟練の手練れには見抜かれ命取りになると心配した。
カカシは言い辛そうに指摘したイルカを、余計なお世話だと怒ることなくだったら何とかしてと後ろを任せ、ずっと信頼してくれている。
「これが理由か?」
敵の手裏剣を無意識に苦もなくかわしながら、イルカは突然自分が暗部に居る理由に思い当たった。
通り名を使うと聞いていた暗部で、イルカが初めからアカデミー教師だと明かされていたのはカカシの為か。ならばと腑に落ちる。
多分自分でなくて、他の教師でも良かったのだろう。だけど、偶然でも何でも此処でこうしてカカシと居られる幸運に感謝だ。
この気持ちの名前は何なのか、教師であれど正解は見つからないが当分はそれでいいとイルカには思えた。
「はいどうぞ。」
久し振りねえ、とカカシは女子推薦のマイナスイオンが発生するヘアブラシをぶんぶん振り回しながら、自分の前に丸椅子を置いて待った。
「イルカ先生、また生徒の居残りに付き合ってたんでしょ?」
髪を鋤く振りをしながらその耳に顔を近付け、偉いよねえと誉めた後にオレ以外に無駄な体力使うんじゃないよと頬を撫でる。
「カッ!」
思わず振り向いて大声で相手を叱ろうとしたイルカは、落ち着けとひと息ついて小さく溢した。いつもながら人に誤解されるような言動だ。
「こっちは夜のシゴトだから大丈夫だと思ってつい。カカシさんに迷惑掛けますね、すみません。」
忍びとして上位の暗部の中ですらカカシは更に上位の実力者で、イルカは足を引っ張るだけでろくな働きができない自覚はある。
だからアカデミー教師としてもまだ一年のひよっこが、何故火影命令とはいえ此処にいるのか半年たっても理解できない。
戦闘には足手まといだと招集の度に皆に言い聞かせていたが、そんな訳ないだろと大笑いして誰もイルカの話をまともに聞いてはくれない。何をもってそう確信するのか、何故かと聞くイルカには教えなーいとまた笑う。
いつまで面を被るのだろう、と髪をカカシに任せながらイルカは手に持つ白い動物面を見詰める。
「はい、できた。」
通常は天辺に括られた髪を、暗部では他の髪型にさせられる。
カカシの趣味だ。
暗部配属の初日から、初対面でヘアブラシを握りモジモジと、髪を弄らせてと天下のカカシに小首を傾げて懇願されたら、誰が断れるだろうか。
イルカの髪は下ろすと肩甲骨に掛かるが、真上近くに結っているのでそれほど長くは見えないだけだ。弄り甲斐があるとカカシは喜ぶ。
先ず初日に髪型に拘りはないから好きにさせたら、両耳の後ろで三つ編みにされた。これは嫌だ、と口に出せなかったのはカカシがあまりにも嬉しそうに笑ったからだ。
それ以来、暗部の任務の前には儀式とさせている。
「今日は編み込みね。」
左右のこめかみから編まれた三つ編みは、首の後ろに一つに流された。
「本当に器用ですよねえ。」
手鏡で両サイドを見て、イルカは感嘆のため息を吐いた。
「彼女にやってあげればいいのに。」
仕上げを確認する為にイルカの前に回ったカカシはその言葉に怒り、笑顔を引っ込めた。
「女はめんどくさい。」
ああまたやっちゃった。イルカは目だけで天を仰いだ。薄暗い煤けた天井を、こうして何回見上げたか。
カカシが腕に女をぶら下げて歩くのを見る度に言ってみるのだが、毎回同じ言葉が返される。
「勝手に付いてきて、勝手にその気になって。」
カカシは振り払わないが相手にもしない、それはイルカも知っている。
「オレはあんたがいい。」
「…。はあ。」
どういう意味だよ。
毎回締め括りに言われて、最初のうちはイルカをからかって遊んでいると思ったがしごく真面目な顔で言われる内に、それは無いと思うようになった。
ただ、近すぎるのだ。異性同士だったら確実に恋仲と疑われる程にべったりと。
既に成長も終えた男のくせに綺麗としか表現できない顔をイルカの正面に曝け出し、更には唇が触れんばかりに近付く。イルカだけに。
片やイルカは野暮ったい男で、唯一の自慢が黒くしなやかな髪だ。何が楽しくてカカシが自分に絡むのか謎で仕方ない。
お守りしてくれて助かるわ、と周りに言われて逆ですと笑い返すのも日常。そしてやはり何故か二人で組まされる。
カカシの癖もほぼ理解できた。ころころ変わる機嫌を上手に舵取りする自分を、イルカはたまに誉めたくなる。
今夜は編み込みが崩れる前に終わらせたいと、イルカは樹の上でそっと髪を撫でた。
行くぞ、と隣のカカシの指が動いた。左斜め後ろのイルカは付かず離れずの距離を保ち、カカシのフォローに回る。
まだまだ未熟だがイルカも忍者養成学校の教師だ、優秀な故に少年期から自己流で技を磨いたカカシの癖が、熟練の手練れには見抜かれ命取りになると心配した。
カカシは言い辛そうに指摘したイルカを、余計なお世話だと怒ることなくだったら何とかしてと後ろを任せ、ずっと信頼してくれている。
「これが理由か?」
敵の手裏剣を無意識に苦もなくかわしながら、イルカは突然自分が暗部に居る理由に思い当たった。
通り名を使うと聞いていた暗部で、イルカが初めからアカデミー教師だと明かされていたのはカカシの為か。ならばと腑に落ちる。
多分自分でなくて、他の教師でも良かったのだろう。だけど、偶然でも何でも此処でこうしてカカシと居られる幸運に感謝だ。
この気持ちの名前は何なのか、教師であれど正解は見つからないが当分はそれでいいとイルカには思えた。
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