重ねて尋ねられる。
「言えない?」
イルカは俯いた顔を更に俯け、意地でも言わないと唇を引き結んだ。
「うん、三代目の前じゃ言えなかったでしょうね。」
なるべく穏やかにとカカシは言葉を選んだ。
なんとなく想像がつき、気色ばむイルカを連れて引き下がった。イルカにとってあまり心地よいものではないのだろうが、自分のチャクラが馴染むという感覚を知っておきたい。
だってこれからずっと、貴方の側にオレはいるのでしょう?
軽い気持ちで立ち上がったカカシは、テーブル越しにイルカの上半身を包むように腕を回した。逃れようと腰を浮かし掛けたイルカの身体からは力が抜け、ぐらりと傾いでカカシの肩口に頭を預ける体勢になってしまった。
「…駄目、離れて。」
拒絶の言葉が喘ぐような息遣いに変わる。
「確かに…きついね…。溶けて混じり合う感じ、これ、薬じゃないのに…。」
カカシも浅い息継ぎを繰り返し、言葉が途切れがちになった。抱き締めていては苦しいままだと解っているのに、どうしてもイルカの身体を離せない。
これは、快感だ。
男として経験したもの、それよりも深く身体も心も支配されそうで。坑がえない。
が、ふっと意識が現実に引き戻される。ぐいと頭をもたげて腕を突っぱね、イルカがどうにかカカシから逃げたからだ。その唇は強く噛み締めた為に切れ、真っ赤な血が滲んでいた。
「強いんですね、イルカ先生。オレの方が感覚の耐性がある筈なのに。」
テーブルに伏して息を整えながら、カカシは降参と小さく手を上げた。イルカは両腕を後ろに着いて身体を支え、虚ろな目で天井を見ている。カカシの声が聞こえているのかは解らない。
「唇、噛みました?」
今度は少し大きな声のカカシの呼び掛けに、イルカはふぁあと鼻から抜けた声と共に身体を起こした。今気付いたとばかりに親指で唇の血を拭い、その指先に舌を伸ばしてゆっくりと舐める。一連の仕草に官能的な刺激を受けたカカシは頬の熱を自覚し、首元に下ろしてあった口布を上げた。身体が反応しかけ、思いきり腕をつねって痛みで気を逸らせた事は気付かれてはならない。
「…体力が戻りきっていないんだから、カカシ先生が耐えられないのは仕方ないですよ。」
声が震えていないだろうか、朦朧としていた間に変な事は言わなかっただろうか。イルカはちらりとカカシを見て視線を外す。
「三代目のチャクラは、俺を優しく包んでくれてたんです。」
親代わりとしての愛情からだろう、労るようにくるんでくれていた。
それがいきなり替わって、イルカの内側を手でぐちゃぐちゃとかき回すような苦痛が襲った。しかし痛みはなく、次第に身体が熱くなっていく。
実習から解放されて緊張がとけ、疲労を実感しながら帰宅しようと歩いていたところだった。
三代目のチャクラが抜けて、別の人物のチャクラが身の内に入り込んだ事が解る。一気に身体中を巡り、貧血に似た感覚に襲われ道端でしゃがみこみそうになった。イルカは耐えて三代目の元へと震える脚を運ぶ。
じわじわと一体化していくチャクラは良く知ったものだ。何故どうして。
カカシが部屋の中にいてかつて掛けてもらった術の巻物を手にしていたところを見たら、熱い身体とは逆に頭が冷えた。
どうしよう、どうしたらこの人から逃れられる。
平然としていたカカシはチャクラを送る方だから、イルカの異変の元が自分だと気付かないのだろう。いやまさかこれ程精神エネルギーが一体化するとは、多分誰も思っていなかった筈だ。
また三代目に術者を変更してもらえないだろうかと努めて冷静に事を運ぼうとしたが、反してカカシはきっぱりと術者になるとイルカに告げた。その意志を覆すだけの理由を思い付かない。困るんです、と繰り返すしかなかったのだ。
「ここに来るまで手を繋いでたけど…それはどうでした?」
申し訳なさそうにカカシがイルカの顔を覗く。何もと否定すればほっと息を吐いたその表情に、イルカの方が申し訳ないと目を伏せた。
「触れる面積なんでしょうか、温かく感じただけです。」
自分の手のひらを見て顔を上げたカカシが口を開く前に、イルカは駄目ですと言って後ずさりを始めた。
「もう試さないで下さい。」
泣きそうな顔にカカシは力なく笑った。
「今はしませんよ。でもオレのチャクラに慣れてきたらこんな事はなくなるだろうから、そのうちまた触らせて下さい。」
触らせてって、と呟いたイルカの顔はずっと赤いままだ。その頬に手を出し掛けたカカシは、慌てて引っ込め背中に隠す。
「イルカ先生に無断で術者交替したのは謝ります。だけどね、もしもだけど、貴方が夜を失った時の事を考えるとオレも辛い。それからこれももしもだけど、貴方を失うかもしれないと思ったら。」
黙り込んだカカシに、ええとイルカは頷いた。
「俺も命を取られる可能性ですよね。ないとは言えませんが、俺は三代目の封印術を信じているので全く心配していません。」
微笑むイルカは澄んだ目をしていた。
「言えない?」
イルカは俯いた顔を更に俯け、意地でも言わないと唇を引き結んだ。
「うん、三代目の前じゃ言えなかったでしょうね。」
なるべく穏やかにとカカシは言葉を選んだ。
なんとなく想像がつき、気色ばむイルカを連れて引き下がった。イルカにとってあまり心地よいものではないのだろうが、自分のチャクラが馴染むという感覚を知っておきたい。
だってこれからずっと、貴方の側にオレはいるのでしょう?
軽い気持ちで立ち上がったカカシは、テーブル越しにイルカの上半身を包むように腕を回した。逃れようと腰を浮かし掛けたイルカの身体からは力が抜け、ぐらりと傾いでカカシの肩口に頭を預ける体勢になってしまった。
「…駄目、離れて。」
拒絶の言葉が喘ぐような息遣いに変わる。
「確かに…きついね…。溶けて混じり合う感じ、これ、薬じゃないのに…。」
カカシも浅い息継ぎを繰り返し、言葉が途切れがちになった。抱き締めていては苦しいままだと解っているのに、どうしてもイルカの身体を離せない。
これは、快感だ。
男として経験したもの、それよりも深く身体も心も支配されそうで。坑がえない。
が、ふっと意識が現実に引き戻される。ぐいと頭をもたげて腕を突っぱね、イルカがどうにかカカシから逃げたからだ。その唇は強く噛み締めた為に切れ、真っ赤な血が滲んでいた。
「強いんですね、イルカ先生。オレの方が感覚の耐性がある筈なのに。」
テーブルに伏して息を整えながら、カカシは降参と小さく手を上げた。イルカは両腕を後ろに着いて身体を支え、虚ろな目で天井を見ている。カカシの声が聞こえているのかは解らない。
「唇、噛みました?」
今度は少し大きな声のカカシの呼び掛けに、イルカはふぁあと鼻から抜けた声と共に身体を起こした。今気付いたとばかりに親指で唇の血を拭い、その指先に舌を伸ばしてゆっくりと舐める。一連の仕草に官能的な刺激を受けたカカシは頬の熱を自覚し、首元に下ろしてあった口布を上げた。身体が反応しかけ、思いきり腕をつねって痛みで気を逸らせた事は気付かれてはならない。
「…体力が戻りきっていないんだから、カカシ先生が耐えられないのは仕方ないですよ。」
声が震えていないだろうか、朦朧としていた間に変な事は言わなかっただろうか。イルカはちらりとカカシを見て視線を外す。
「三代目のチャクラは、俺を優しく包んでくれてたんです。」
親代わりとしての愛情からだろう、労るようにくるんでくれていた。
それがいきなり替わって、イルカの内側を手でぐちゃぐちゃとかき回すような苦痛が襲った。しかし痛みはなく、次第に身体が熱くなっていく。
実習から解放されて緊張がとけ、疲労を実感しながら帰宅しようと歩いていたところだった。
三代目のチャクラが抜けて、別の人物のチャクラが身の内に入り込んだ事が解る。一気に身体中を巡り、貧血に似た感覚に襲われ道端でしゃがみこみそうになった。イルカは耐えて三代目の元へと震える脚を運ぶ。
じわじわと一体化していくチャクラは良く知ったものだ。何故どうして。
カカシが部屋の中にいてかつて掛けてもらった術の巻物を手にしていたところを見たら、熱い身体とは逆に頭が冷えた。
どうしよう、どうしたらこの人から逃れられる。
平然としていたカカシはチャクラを送る方だから、イルカの異変の元が自分だと気付かないのだろう。いやまさかこれ程精神エネルギーが一体化するとは、多分誰も思っていなかった筈だ。
また三代目に術者を変更してもらえないだろうかと努めて冷静に事を運ぼうとしたが、反してカカシはきっぱりと術者になるとイルカに告げた。その意志を覆すだけの理由を思い付かない。困るんです、と繰り返すしかなかったのだ。
「ここに来るまで手を繋いでたけど…それはどうでした?」
申し訳なさそうにカカシがイルカの顔を覗く。何もと否定すればほっと息を吐いたその表情に、イルカの方が申し訳ないと目を伏せた。
「触れる面積なんでしょうか、温かく感じただけです。」
自分の手のひらを見て顔を上げたカカシが口を開く前に、イルカは駄目ですと言って後ずさりを始めた。
「もう試さないで下さい。」
泣きそうな顔にカカシは力なく笑った。
「今はしませんよ。でもオレのチャクラに慣れてきたらこんな事はなくなるだろうから、そのうちまた触らせて下さい。」
触らせてって、と呟いたイルカの顔はずっと赤いままだ。その頬に手を出し掛けたカカシは、慌てて引っ込め背中に隠す。
「イルカ先生に無断で術者交替したのは謝ります。だけどね、もしもだけど、貴方が夜を失った時の事を考えるとオレも辛い。それからこれももしもだけど、貴方を失うかもしれないと思ったら。」
黙り込んだカカシに、ええとイルカは頷いた。
「俺も命を取られる可能性ですよね。ないとは言えませんが、俺は三代目の封印術を信じているので全く心配していません。」
微笑むイルカは澄んだ目をしていた。
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