21

「あんたの目でコピーして使うのよ。」
カカシは夜の言葉に目を剥いた。写輪眼でもコピーできない術はあり、それも火影が自ら作り出した術だから他の誰にも使えないと端から思い込んでいたのだ。
だが考えれば解る簡単な事。コピーできない―正確には術式をコピーしても使えない―のは、血継限界の術だけだ。
術をコピーできれば掛けるも解くも自在、但し発動できるか否かは術者の力量に寄る。
「今までの実績を見てもカカシなら使えるって、爺様のお墨付きよ。」
流石は火影の後継者と噂されるだけあるわね、といつもは辛辣な夜の誉め言葉が擽ったい。
「つまりは。」
ちょっと整理させてくれ、とカカシは髪を掻き毟りながらソファの背に身体を預けた。
先生のお母さんの呪縛術がほどけ怨霊が妖怪として現れても、元の術者が亡くなっていて印の構成がどこにも記録されていないから同じ術を掛け直せないって事だよな。
だから三代目が封印術を上掛けしたがそれも三代目が亡くなればいつか、一年後か十年後かは不明だがほどけるのだろう。
そっくり同じケースではないがナルトに掛けられた九尾の封印は今までに何度かほどけかけ、その度に掛け直しているんだ。夜に対しての危惧は、決してお門違いなんかじゃない。
「その封印術が、爺様の考えたものだからあんたにもできるって話。」
それを確認に行っていた。カカシに覚悟があればと火影は言う。
あんたしかいないの、と真剣な目が揺れる。碧に光りまた蒼に変わる目が、忘れるなと怨霊の存在を誇示するがごとく。
オレならできると三代目が言ってくれるのなら、ただ夜とイルカ先生を見守るでなくオレがこの手で直接二人を守れる。
「コハリ様は、元々イルカにあたしを口寄せとして継承させるつもりでいたの。イルカが忍びになる為にアカデミーに通い出した頃、チャクラの質がコハリ様とよく似ていると判明してあたしを息子に託そうと決めたわ。だから最初に掛けた軸となる術の間にイルカのチャクラを編み込んで、口寄せの土台を作っておいたの。」
「それで、口寄せするとイルカ先生は憑依の状態になるのか。」
掬うように抱きかかえ、柔らかな身体を撫でてやると夜は小さくにゃあと頷いた。
「爺様はコハリ様の呪縛術を真似て、封印術に爺様のチャクラを編み込んだわ。数年前のあの当時は、イルカを守れる者が爺様しかいなかったから。」
まだカカシが上忍師になれず、イルカに出会えていない頃。
「爺様が自分の寿命を考え、いつか誰かが代わりに封印術にチャクラを編み込んでくれればと話してくれた事があるの。」
そうして見付けた、カカシ。
「でもそれは、あんたもイルカも一生涯をお互いに縛り付ける事になる。編み込んだチャクラを安定化させる為に、できる限り近くにいなきゃならないんだから。」
至近距離にいるだけで自然にチャクラはイルカに送られ、また夜へと送られる。だからイルカは、いつも三代目の側で雑用をこなしているのだ。
そう言って弱々しく項垂れる夜を、カカシはまじまじと見詰めた。
こっそりと写輪眼で見た夜の身体には、循環している生体エネルギーに脈打ちながらうねる何かが混じっている。残念ながらオレにはそれ以上は解らないがおそらくこれが怨霊で、術がほどけ抜け出す機会を虎視眈々と窺っているのだ。
「巻き込んでごめんなさい。」
無言のカカシを夜は拒否と取った。
違うんだ。あの人がオレに縛り付けられるって事が、かわいそうなんだ。
でもあの夢が、夢でなくもしも現実になったらオレは。
カカシは腕の夜をソファに降ろして窓辺に立った。夕陽に照らされていたカーテンの向こうの外界が、見る間に紫から藍色に変化していく。
一日の終わりを焦らすようにゆっくりと夕暮れが町を覆うが、綺麗だと目を奪われていると瞬間一気に闇になる。
イルカとの心地よい時間がこんな風にばっさり切られてなくなるのかもしれない、と思うだけでカカシは手足の先が冷えていく気がした。
毎日でも会いたいと思った。会えて話して、側にいる心地よさを手離したくないと思った。心の澄みきった綺麗な人。
イルカ先生を泣かせたくはない。
カカシは大きく息を吸った。はあと吐き出して、追い付かない頭を勢いよく振る。ずきずきと痛み始めたこめかみを押さえて俯いた。
「夜、イルカ先生は夜が消滅する道を選んだって知らないんでしょ?」
「ええ。」
「オレが封印術を会得したらそれは無効にできる?」
「できてもしない。だって爺様だろうとあんただろうと、絶対に抑えていられる保障はないもの。怨霊はあたしと一緒に消してやるわ。」
「でも、夜の消滅は避けられるかもしれないと先に答えを用意すればイルカ先生は安心するね。」
「…少しはね。」
カカシは黙って暗闇を見ていた。
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