12

にいと笑った悪だくみの表情さえ、誰もが見とれる程の男前ではないか。左目を隠していても整っていると解ったが、隠す物が一切ない顔は羨望の先の嫉妬を飛び越えてただ鑑賞していたいとイルカはぼうっとしていた。
写輪眼が発動しっぱなしなので、と額宛てを巻いてしまうと見慣れた顔になってほっとする。
「でも、さっきの変化では左目も開いてましたよね。」
「おや、イルカ先生でも解りませんでしたか。部分的に幻術を掛けて目を瞑ってたんですけど。」
「あーなるほど。教師としては、全く気付けなかった事が悔しいです。」
それは冗談、イルカごときに見破られる訳はないと知っている。
その幻術は強力だが長時間は保てないと、肩を回してカカシは疲労を告白した。だから微量でもチャクラを食い続ける写輪眼を抑える為に、カカシの額宛てには封印の術が仕込まれている。
「そんなの、俺が知っていい事じゃないでしょう…。」
こめかみに指を当てたイルカは顔色をなくし、小さな溜め息と共に言葉が消えていった。
「オレの事も全部知らないと、オレに何かあった時に対処できないからです。」
「カカシ先生に何かあった時に対処って、どういう意味ですか。」
「オレが貴方の一番近くにいるって事は、貴方もオレの一番近くにいるって事でしょ。」
カカシはイルカの隣に座り、固く握った拳の上に自分の手を重ねた。
「夜の頼みを受けます。」
見開かれたイルカの真っ黒な目が、じっとカカシの右目を見た。
「駄目です。」
イルカはカカシの手を払い、身体を捩って反対側を向いた。
「何故?」
カカシの問いに答えられない。
「オレが夜に頼まれたから、嫌々承諾したと思うの?」
カカシが立ち上がり、イルカの顔を覗き込んできた事が気配で解っても顔が上げられない。
「違うんですか。」
声が尖ったが、そんな理由なら関わらないで欲しいとイルカは唇を噛んだ。
「まあ最初は、なんでオレなんだと断る気だったんですけど。」
どう言ったらいいのか、とカカシは言葉を探し。
「直感です。」
頭に浮かんだ言葉を素直に口に出した。
「そんな。」
「呆れました? でもきっと夜もそうだと思うけど。」
くすりと笑ったカカシが、イルカの顔を覗き込む。
「忍びの勘ってあるでしょう。経験から導き出された法則があるって、生徒達にも教えてない?」
「法則って…。」
「まあこの場合は、偶然の連続による結果が必然だと思われるという事です。」
いい加減な事を、と言おうとしてイルカは口をつぐんだ。
勘は大切だ。自分も理論だけで生き抜いてきた訳ではない。でも。
カカシ先生がそう言ってくれたからといって、遠慮なくと自分に縛り付けていいとは思わない。
「忘れて下さい。カカシ先生なら、夜の事を口外しないと思っていますから。」
「うーん、イルカ先生は気を回しすぎだなあ。」
冷蔵庫から缶ビールを取り出し弁当の蓋を開けながら、どうしたもんだかとカカシは溜め息混じりに呟いた。
「じゃあ取り敢えず、お試しで貴方に関わらせて下さい。」
「お試し?」
「はい、オレがやめたいと言うまで。」
食べましょ、と促されてイルカも弁当の蓋を開けた。混ぜご飯の山を向こう側に向けて、おかずの側を引き寄せる。
「なんなの、子供のような事して。」
嫌いなものを遠ざけるイルカにカカシは大笑いし、伸ばした箸で混ぜご飯を崩して食べ始めた。
「あ、すみません…。」
俯いたイルカの耳が赤いのは、自分でも子供のようだと承知しているからだ。
「それなら全部交換しましょう。少し齧ったけど許して下さい。」
さっさと弁当を入れ替え、カカシは混ぜご飯を美味しそうに食べる。
イルカの手元の弁当は、カカシにひと齧りされた南瓜や鮭が綺麗な歯形を見せていた。
「いただきます。」
冷めた天ぷらの衣がばりぱりと音をたてる。油でべちゃりと崩れる事もなく、いい弁当屋だなあとイルカは夢中でかぶり付いた。
「話の続きですけど、イルカ先生がオレを嫌う訳じゃないならどうか試して下さい。荷が重くて下ろしたくなっても、試した結果なら夜は納得してくれるでしょう。」
「いえ夜は関係なく、カカシ先生が嫌なら…。」
箸を置き目を伏せたイルカと、夢で縋ったイルカの姿が重なった。
現実では、何があっても助けてなんて言わないだろう。イルカと夜に入れ込むだろうと思った、ゆうべの予感が当たった事がカカシには不快ではなかった。
「イルカ先生と夜が動く時に、オレが見守ればいいだけでしょ。暗部ではよくやったから、大した事ないですって。」
「あ…そう、ですか。」
具体的に言えばなんだそうかと、イルカはあからさまな安堵の表情を見せた。
さあて、毎日一緒にいる為の理由を考えなきゃ。
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