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受付に入るイルカよりも精度の高い情報を携えて、教え子だった特別上忍が昼休みの食堂で同席させてと隣に座って聞いてきた。
「先生はいつまで待てるの? 約束って期限はないの?」
それはカカシが帰るあてのない任務なのか、優しい教え子は漏らせない機密をほんの少し会話に混ぜてくれた。イルカは胸の奥に湧いた絶望に気付いて、息を止めた。
「約束は無期限さ。」
声が震えてなければいいと思いながら、イルカはいつまでも待つと答える。
周囲も聞き耳をたてているから迂闊な事は言えない。
「俺は、あの人は必ず帰ると思っているから。」
その言葉は友人としてだが、真実だ。一番先に顔を見せてくれると信じている。
カカシが突然消えて、季節が一つ変わり掛けている。イルカは騒動の渦中に放り込まれたまま、淡々と一人で役柄を演じ続けているのだ。
最近は干渉も減ってはいるが、今度はカカシの崇拝者や恋い焦がれる者が情報を得ようとイルカをつけ狙う。連絡あるでしょ、と正面の切羽詰まった顔に、すみませんとあやふやに頭を下げて逃げ出した事もあった。

カカシ先生も何で俺を選んで、しかもバラした途端に黙って行っちゃうんですか。
イルカがフェイクだと知っているのはアスマとその恋人の紅だけだ。他にはカカシが信頼する数人が、二人は秘密の共有者だという所までを知っている。
イルカが酔ってアスマと紅に泣きついたのは昨日だ。教え子がどうやって此処に辿り着いたのか、忍びとしての成長が先に嬉しくそれから数秒遅れてたじろいだ。
こうした多くの人々の気遣いが、嬉しくて申し訳なくて尚更平静を装うお人好しは、だからカカシの想い人なのだ。例え一方通行でも、例え友人扱いでも。


カカシは遥か遠く、片道半月は掛かる辺境の山に籠っていた。
火の国との親交を望む国の内情を探り報告する、安全だと思われた任務の前任者が消えたから、捜索にカカシが出た。
地図にはない、存在自体が自己申告の国は、大国の片隅からクーデターで独立して漸く十年。元の親国は認めたように見えたが、実際は違ったのかもしれない――と一回目の報告があった。
定期の二回目の報告はなく、音信不通になったまま一ヶ月たった。

カカシが他里の忍びに狙われ始めた、というよりイルカに恋人の振りを依頼し公言した、あの日に狙われていると発覚したのだ。
カカシの恋人と認知されたイルカが襲撃されるのは回避したい。ならばお前が外に出てしまえば敵は付いて行くだろう、とこの件の調査を打診されたあの日、イルカに理由も言えないまま出立したのだった。
思った通り付いてきたそいつらは賞金稼ぎの抜け忍で、カカシは容赦なく動けない程の半殺しにして、見せしめに木の枝から逆さ釣りにして任地に向かったのだった。
「オレのあの人だったら秒殺だからね、オレで良かったね。」
案外沸点の低いイルカはこいつらなど簡単に殺してしまえる程の実力者で、多分カカシを狙っていると知ったら同胞として守るために容赦しないだろう、だけど。
「あの人の手を汚したくなかったからね。」
呟いたカカシは命乞いをする者達に振り返らなかった。頑張って抜け出してみなさいよ、と猛禽類の気配に笑いながら。

カカシは慎重に、その独立国に探りを入れた。とにかく仲間を無事に奪還しなければならないと、一日に数時間ずつしらみ潰しに建物に端から侵入した。
小さな国だが、二ヶ月掛けて最後に統率者の城に侵入するまで木ノ葉の仲間はいなかった。
平和な、忍びもいない国だ。侵入し聞いて驚いた、血で血を洗い武力を賞賛するような国からは確かに独立したくもなると、カカシは小国に同情した。

仲間が捕らえられて既に四ヶ月たち、もう殺されているのではないかとカカシは思いながら、しかし里に残された生命反応を示す術は有効だと連絡がある度に安堵していたこの三ヶ月だ。
一人で行くか、引き揚げて代わりに部隊を出してもらうか。
暫し一番高い木の上から大国を眺め、カカシは大きく頷いた。
自分は残り、部隊を呼ぼう。確か国境監視隊が二つ、二日の距離にいる筈だ。
忍犬を二頭ずつ、里に出しながらその二隊にも送り加勢を頼む。残り二頭は野良犬として大国を探らせに出した。

四日掛からず二隊からの承諾の返事が来た。
遅れて里からは、大国の国主の首を持ち帰れと。カカシを狙った抜け忍達はそこの差し金だと判明したらしい。
「狙われ損じゃなかったんだね、ある意味ラッキー。」
小汚ない野良犬に扮した二頭は、叩き殺そうと兵士が笑いながら追い掛け回したのだと言った。
「遠慮はいらんぞ。犬猫は全て殺されておった。」
敵討ちしてやるからと、カカシは震える二頭を抱き締めてやった。

イルカ先生、すぐ帰るからね。
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