一
これから恋人の時間が始まる。
よし、とカカシは気合いを入れた。
玄関を出るといつもの十字路に向かう。何かを考えるほどの時間もなく、すぐに其処へ着いた。
カカシの歩いてきた道から見て右側の、舗装もされていない細い砂利道をイルカが歩いてくる。尻尾のような高く括られた髪が右へ左へ規則正しく揺れて、それはイルカの性格を表すかのように清々しい。
「おはよう。」
「おはようございます。」
既に二人とも任務の顔をしている。そう、カカシがイルカに依頼した任務なのだ。
――恋人の振りをしてほしい。
ちょっと今月は厳しいんです、とイルカを食事に誘った時に断られ、奢るからと目の前に餌をぶら下げた。
聞いてみれば内勤仲間の結婚出産、そして教え子達が一気に中忍やらそれ以上に昇格し、お祝いに貯金にすら手をつけなければならなかったのだという。
「流石に下忍には贈りませんよ、多い年には両手両足以上の合格者が出ますから。」
とはいうものの、一年でも担任になった子には情が移るらしい。
きっと隣のクラスだとて情はあるんだろうね、とカカシはなかばあきれ気味に聞いていた。
何か内職しようかなぁ、と薄汚れた食堂のテーブルに頭を乗せて、とろんと酔った目でカカシに縋った…ように見えたから。
カカシは内職ではないが、と簡単な小遣い稼ぎをまた餌にしたら、案の定イルカは簡単に食い付いた。
「あのね、できれば恋人の振りを、いや男相手じゃ嫌だろうけど付き合って欲しいの。」
「いいですよー、何処に付き合えばいいんですか?」
睡魔と酔いにずれた答えを返すイルカを揺さぶって、聞いてるかと起こしてみたが揺さぶられて吐き気をもよおしたらしく立ち上がる。
行ってきまーす、とイルカは千鳥足でトイレに向かうが行ったままなかなか帰らない。
あくびが出る程待っていれば狭い通路に座り込んで眠ったイルカをどかせろと、店の従業員がカカシに指で指し示し初めて気付いた。
自分とさほど変わらぬ体格が眠り込んでは背負えもせず、カカシは仕方無しにイルカを肩に担いで店を出た。
イルカの家に行くべきか。しかしただ眠っているだけとはいえ、放置して帰るのも気が引ける。
といってそれがカカシが部屋にいる理由になるのか、イルカは起きたら放っておいてよかったのに、と恐縮してしまうだろう。
だがカカシはイルカに片想いの真っ最中で、二人きりのこの時間を自ら手放す気にはならなかった。朝まで見ているだけでいいから、一緒にいたい。
纏まらない思考のまま二人の家の岐路に立つ。犬の遠吠えがあちこちから聞こえそれも闇に溶けて消える頃、カカシは意を決して自分の家に歩き出した。
「やっぱ、こっちが自然か。」
日付も変わろうという時間にすれ違う人はなく、カカシは思いきってイルカを両腕に抱え直した。いわゆる姫抱っこだ。
くたくたのイルカの頭を胸に寄り掛からせると、間近に顔がよく見えた。案外髭は薄く、一日の終わりにも目立たない。逆に濃い睫毛は女の子のようにくるりと巻いている。
意外な発見につい立ち止まってしまい、イルカの寝言にはっと我に返ってカカシは歩き出した。
もう、カカ、です、と切れ切れに聞こえて、先程の酒宴の続きを夢に見ているのかと顔が緩む。
上忍にしては質素なアパートにカカシは住んでいた。すぐに引っ越せるように、周りを巻き込まないように、辺りは公園で十世帯は入るアパートに上忍が五人しかいない。しかも五人とも二世帯分の家賃を払って上下で借り上げていた。殆どが空き部屋を倉庫代わりにしていたが、カカシは荷物が極端に少なくその部屋は埃を被ったままだ。
誰に見られる事もなくイルカを運び込む。やましい気持ちから、胸の鼓動がせわしない。
カカシはゆっくりとベッドにイルカを下ろした。ベストと額宛てを取り去り、髪を纏めるゴム紐をほどくと、イルカが無意識にほうと息をついた。
ベッドの端に腰掛けて寝顔を見詰める。安らいだ表情が、いとおしい。
まさか男に恋をするとは思わなかった。居心地の良さの理由が判らないままに誘い続けて、気が付けばイルカが他の誰かに笑い掛ける事に嫉妬して、カカシは己れの劣情を知った。
劣情だ。性欲だ。
僅かに残る酔いが下半身に集まり、カカシは熱の籠るそれを取り出して片手を添えた。もう片方の手でイルカの頬を撫で、唇をなぞる。首から下へと撫でると、布一枚の下の胸板は体温と鼓動をカカシの手のひらに伝えた。
膨らんだ欲を堪えきれず、カカシはゆっくりしごきだした。高まる、そして上り詰める。
荒い息と卑猥な水音が深夜の薄暗い部屋に響き、やがて鎮まった。
カカシは白い粘液を握り込んで、まだ足りないと風呂場に向かった。
これから恋人の時間が始まる。
よし、とカカシは気合いを入れた。
玄関を出るといつもの十字路に向かう。何かを考えるほどの時間もなく、すぐに其処へ着いた。
カカシの歩いてきた道から見て右側の、舗装もされていない細い砂利道をイルカが歩いてくる。尻尾のような高く括られた髪が右へ左へ規則正しく揺れて、それはイルカの性格を表すかのように清々しい。
「おはよう。」
「おはようございます。」
既に二人とも任務の顔をしている。そう、カカシがイルカに依頼した任務なのだ。
――恋人の振りをしてほしい。
ちょっと今月は厳しいんです、とイルカを食事に誘った時に断られ、奢るからと目の前に餌をぶら下げた。
聞いてみれば内勤仲間の結婚出産、そして教え子達が一気に中忍やらそれ以上に昇格し、お祝いに貯金にすら手をつけなければならなかったのだという。
「流石に下忍には贈りませんよ、多い年には両手両足以上の合格者が出ますから。」
とはいうものの、一年でも担任になった子には情が移るらしい。
きっと隣のクラスだとて情はあるんだろうね、とカカシはなかばあきれ気味に聞いていた。
何か内職しようかなぁ、と薄汚れた食堂のテーブルに頭を乗せて、とろんと酔った目でカカシに縋った…ように見えたから。
カカシは内職ではないが、と簡単な小遣い稼ぎをまた餌にしたら、案の定イルカは簡単に食い付いた。
「あのね、できれば恋人の振りを、いや男相手じゃ嫌だろうけど付き合って欲しいの。」
「いいですよー、何処に付き合えばいいんですか?」
睡魔と酔いにずれた答えを返すイルカを揺さぶって、聞いてるかと起こしてみたが揺さぶられて吐き気をもよおしたらしく立ち上がる。
行ってきまーす、とイルカは千鳥足でトイレに向かうが行ったままなかなか帰らない。
あくびが出る程待っていれば狭い通路に座り込んで眠ったイルカをどかせろと、店の従業員がカカシに指で指し示し初めて気付いた。
自分とさほど変わらぬ体格が眠り込んでは背負えもせず、カカシは仕方無しにイルカを肩に担いで店を出た。
イルカの家に行くべきか。しかしただ眠っているだけとはいえ、放置して帰るのも気が引ける。
といってそれがカカシが部屋にいる理由になるのか、イルカは起きたら放っておいてよかったのに、と恐縮してしまうだろう。
だがカカシはイルカに片想いの真っ最中で、二人きりのこの時間を自ら手放す気にはならなかった。朝まで見ているだけでいいから、一緒にいたい。
纏まらない思考のまま二人の家の岐路に立つ。犬の遠吠えがあちこちから聞こえそれも闇に溶けて消える頃、カカシは意を決して自分の家に歩き出した。
「やっぱ、こっちが自然か。」
日付も変わろうという時間にすれ違う人はなく、カカシは思いきってイルカを両腕に抱え直した。いわゆる姫抱っこだ。
くたくたのイルカの頭を胸に寄り掛からせると、間近に顔がよく見えた。案外髭は薄く、一日の終わりにも目立たない。逆に濃い睫毛は女の子のようにくるりと巻いている。
意外な発見につい立ち止まってしまい、イルカの寝言にはっと我に返ってカカシは歩き出した。
もう、カカ、です、と切れ切れに聞こえて、先程の酒宴の続きを夢に見ているのかと顔が緩む。
上忍にしては質素なアパートにカカシは住んでいた。すぐに引っ越せるように、周りを巻き込まないように、辺りは公園で十世帯は入るアパートに上忍が五人しかいない。しかも五人とも二世帯分の家賃を払って上下で借り上げていた。殆どが空き部屋を倉庫代わりにしていたが、カカシは荷物が極端に少なくその部屋は埃を被ったままだ。
誰に見られる事もなくイルカを運び込む。やましい気持ちから、胸の鼓動がせわしない。
カカシはゆっくりとベッドにイルカを下ろした。ベストと額宛てを取り去り、髪を纏めるゴム紐をほどくと、イルカが無意識にほうと息をついた。
ベッドの端に腰掛けて寝顔を見詰める。安らいだ表情が、いとおしい。
まさか男に恋をするとは思わなかった。居心地の良さの理由が判らないままに誘い続けて、気が付けばイルカが他の誰かに笑い掛ける事に嫉妬して、カカシは己れの劣情を知った。
劣情だ。性欲だ。
僅かに残る酔いが下半身に集まり、カカシは熱の籠るそれを取り出して片手を添えた。もう片方の手でイルカの頬を撫で、唇をなぞる。首から下へと撫でると、布一枚の下の胸板は体温と鼓動をカカシの手のひらに伝えた。
膨らんだ欲を堪えきれず、カカシはゆっくりしごきだした。高まる、そして上り詰める。
荒い息と卑猥な水音が深夜の薄暗い部屋に響き、やがて鎮まった。
カカシは白い粘液を握り込んで、まだ足りないと風呂場に向かった。
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