20

カカシはふうんそうなんだ、と軽く流すように答えた。
「代々草忍なんでしょう? そのお友達は里を裏切ったのかな?」
「木ノ葉にあれだけの人数を送ったんですからそうじゃないかと思ってしまいましたが、三代目は連絡があったと俺を止めました。」
「止めた?」
カカシには話の流れに違和感のある言葉だと思えた。まるでイルカが関わっているかのような。
それを尋ねようと思ったところに、畳の下から床板を規則正しく叩く音がする。すっと立ち上がったイルカがその場所の畳の一方の長辺を思いきり踏むと、向こう側の長辺は直角まで持ち上がった。
続いて釘で打ち付けていない床板が数枚、下から伸びてきた人の手によって脇へとどかされ手拭いを巻いた頭が出てきた。
必ず反射的に飛びかかるだろうと読んでいたイルカが、カカシの右腕に全身で縋り付いていた。それでもやはり飛び掛かろうとしたカカシの力は強い。イルカは足を踏ん張り、敵ではありませんと叫んだ。
「白浜!」
続けて床から生えてきた男を振り向いた。
「うわ、懐かしい名前。」
笑いながら全身を現した男は、埃まみれのマントを脱ぐと丁寧に畳んで隅に置いた。
え、とカカシが固まる。白浜と呼ばれた男は白浜サギではない。それなのにイルカは何を言うのだろう、と二人を交互に見る。イルカはカカシを置き去りにしてその男と抱き合い、懐かしいなと嬉しそうに笑った。
「お前の兄ちゃん来るらしいよ。」
「えっ、サギ来るの?  うわぁ二十年振りかな、僕と似てるかな。」
どういう事かと呆然としているカカシにイルカが微笑みさっきの兄弟の話です、とにこりと目をたわませた。
同時とは偶然ではあるけど感動の兄弟の再会になって嬉しい事です、と平然としている。
そこへ塀の上からから小鳥の羽ばたきが聞こえた。
「カカシ、おれだ白浜サギだ。」
火影屋敷にはトラップが多い。勝手に入っては怪我どころか殺されかねないと、中からの解除を求めてきたのだ。因みに床下から現れたイルカの友人は、先に連絡が来ているので三代目にも報告済みである。
「では俺が外してきます。」
素早く中庭に降りて塀の内側に仕掛けられたトラップを解除し、塀の上の小鳥に向かってイルカは障子を開け放したままの部屋を指さした。
「もう大丈夫です、どうぞ。」
そのまま小鳥を見詰めていれば、音もなく大きな影が部屋へと飛び込んでいった。それを見送ってからイルカはトラップを掛け直し部屋へと戻る。
何故か大の男三人が突っ立ったまま見詰めあっていた。
「どうした? アオ。」
緊迫感の漂う中、一番声の掛けやすい昔の友人に尋ねるとアオと呼ばれた男がちろりと上目遣いでイルカに察しろと合図をした。
「イルカ先生、貴方が一番全てを理解しているようだ。説明をお願いする。」
カカシの硬い声に、やっちまったとイルカは呟いて俯いた。理解できたのは最近でそれも偶然なんだけど、信じてもらえるかどうか。
俺が首謀者じゃありませんよ、と投げやりに言えばアオがそれは僕ですと手を挙げた。
「どこから説明しましょうか。あ、僕はイルカとはアカデミーでずっと仲良くしていた波花アオと言います。」
丁寧に頭を下げてもカカシのむっとした顔は崩れない。
「君、どうして白浜サギと同じ顔してるの?」
そう尋ねられてアオはイルカを見る。言っていいんだよなと確認するアオに、イルカはうんと頷いた。
「まあ、双子なので。」
「先程カカシ先生にお話ししたた、離婚したご夫婦のお子さん達です。」
長くなりそうなので座りましょう、とイルカが促す。
仕切り直しで、とアオが身を乗り出した。
彼とサギは双子で、白浜は本来は草や諜報の一族であること。父親のいとこが長らく小さな忍び里の草であったものの、その地の水が合わないのを我慢し続けて任務を全うできそうにないほど衰弱した。どこにでも溶け込む事が必須の忍びではあるけれど、どんな薬も効かなかったという。草として落ち着いてから生まれたその息子はまだ幼く、一生をその里で終えるつもりだったから妻はそこで知り合った一般人だ。草としての任務は寝込んだいとこにはできないと一族は判断した。
そしてサギとアオの両親が表面上は離婚し、父と弟のアオが草として代わりに任務を引き継いだのだった。
いとこは療養として火の国に移住した。
「何故離婚までして親子二人で、って思いますよね。」
そこはイルカも聞いてはいなかった。カカシとともに頷く。
「忍びが水が合わないなんておかしいから毒を疑い、母とサギは僕らの交代要員として残したんですよ。」
「その妻と子は何もなく?」
「何もなく。」
カカシの疑問にアオは妻も疑わなくてはならない仕事ですからねえ、と微笑んだ。
医者に金を握らせて、療養先に火の国を勧めさせた。火の国なら木ノ葉の忍びしかいないから一家を見張るには都合がいいのだった。


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