滑らかな頬の線、痩せこけているわけでも太っているわけでもなく程よい肉付きの綺麗な肌。
イルカの指が辿るカカシの顔は、今イルカが見ているカカシの顔だと理解できた。幻術ではない。
「……あ……、もう、」
もういいですからと言おうとしたが更に手を引かれて、イルカの指先がカカシの唇に触れた。その唇が開いてイルカの人差し指を緩く噛む。
「ひぃ!」
咄嗟に手を引っ込めようとしたが、手首を掴まれていてどうにもならない。そっと握っている筈なのにカカシの手はビクともしなかった。
「ね? ちゃんと貴方の目に見えているオレの顔でしょ?」
戯れの成功に小さく笑みを作ると、カカシはイルカの手を離した。
「ふざ、ふざけすぎです。」
イルカは俯いて座卓の下に隠した腕をそっと擦る。まだ握られているような、カカシの手の平の温度が残ったままだ。何故か胸が苦しい。
「まあまあ、この顔を信じてもらう為なんだものしょうがないでしょ。」
かつての教え子達は上忍師のカカシの元で修業についているが、マイペースで困るとしょっちゅうぼやいていた。確かにそうだな、とイルカは上目遣いでちろりとカカシを盗み見た。
肘を着いて手の平に顎を乗せ、目を細めてイルカを見ていた。ぱちりと音がするくらいはっきりと視線がかち合った。
いやなんで見てんだよ、俺をからかうの楽しいのか。ともう一度俯けば、からかってごめんねと自覚のある負い目からか優しい言葉が降ってきた。
「はい……。」
この空気はなんだどうすればいいんだとイルカは焦る。訳がわからなくて、乾いた喉を潤す為にすっかりぬるんだ麦茶を一気に煽った。かなり喉が渇いていたことを知った。
けれどなんだか空気が息苦しく思うのはイルカだけか、カカシはざわざわと木々を揺らす風の音に窓の外を見ていた。
そこへととと、と走る足音が近付いてきて襖の向こうから声が掛かる。
イルカを攫った研究員二人が確保されたらしい。そのボスの情報も得られたので、すぐに火影の元に参じてほしいという話だった。
「了解。十分、いやそんなにかからない。」
カカシの返事にイルカが無言で二人の忍服をハンガーから外すと、投げてという仕草にカカシの分一式をふわりと宙に投げ上げた。交差してイルカの手に飛んでくるのは脱いだ着物だ。
着替えて二人が玄関を出るまでに三分、ヤニ臭い執務室に到着したのはそれから三分後だった。
「で、ご説明を。」
「お前は挨拶もろくにできんのか。お呼びに応じて急ぎ参りました、と言うのに一分も掛からんわ。」
はは、と三代目が機嫌よく笑う。事件の先が見えたのだろうとカカシもイルカもつられて笑顔になった。
イルカの証言通りに少年に変化していた二人の研究員達は、堂々と盛り場の茶店に入ったところを捕縛された。
犬塚の忍犬に匂いを辿られたというおそまつさだ。
「その二人に直接指示をしていた、ボスと呼ばれる男も居場所の見当がついたようだ。ただ、」
三代目の表情が困惑に変わる。
居場所が解って良かったのではないかとカカシが問うたが、火影は今度はううと唸った。
「わざと知られるように行動しているとしか思えんのだよ。捕まえてくれと言っているようなものだ。」
カカシとイルカは顔を見合わせた。確かに今までの彼ら一団の行動は、綿密な計画の元に成り立ってはいなかった。最初は統率が取れていたが、次第に我こそはと命令のない待機の合間にカカシの首を狙ったり民家に押し入ろうとしたり。
そうして簡単に捕まってしまった。
今日の飯も喰えない、金に困った抜け忍や資格を剥奪された素行不良の元忍びばかりだ。盗賊の一団をそのまま雇ったという話もある。
「俺も、捕まった時には三代目やカカシ先生の情報を抜かれるのではと覚悟をしていたんですけど……。」
何がしたかったのか、あの時は無傷でいられた事に安堵し冷静になれなかったが漸く今全体を俯瞰して見られる。
「三代目、盗賊や抜け忍は確か討伐の依頼が来ていたと思うんですけど。」
「あれね、近隣の村や宿場町から頼まれてたの。」
既に上忍にも話が通っていたのかとイルカは驚く。それではまるで討伐に出る任務が、危険を伴いはするが忍びの隠れ里に向こうからやって来たようなものだ。
カカシも逮捕者リストを捲り、おかしいと呟いた。
半年程前に見た、草からの要観察者リストと殆どの氏名が被る。この逮捕者達は、草の潜んでいる小さな隠れ里で暮らしていたのではなかったか。
「その隠れ里がな、忍びのなり手が減っておってな。忍びを辞めて一般人になる者が増え、忍び達の子供もなかなか生まれない。」
過疎の里と呼ばれ、任務の依頼など農家の手伝い位しかない。若者達が家族を養う為に犯罪に手を染めたのは、彼らの論理では仕方がなかったのかもしれない。
「怪我人はいても死者は出ていないんですよね。」
「そうじゃ、木ノ葉の忍びは最強じゃ。」
イルカの指が辿るカカシの顔は、今イルカが見ているカカシの顔だと理解できた。幻術ではない。
「……あ……、もう、」
もういいですからと言おうとしたが更に手を引かれて、イルカの指先がカカシの唇に触れた。その唇が開いてイルカの人差し指を緩く噛む。
「ひぃ!」
咄嗟に手を引っ込めようとしたが、手首を掴まれていてどうにもならない。そっと握っている筈なのにカカシの手はビクともしなかった。
「ね? ちゃんと貴方の目に見えているオレの顔でしょ?」
戯れの成功に小さく笑みを作ると、カカシはイルカの手を離した。
「ふざ、ふざけすぎです。」
イルカは俯いて座卓の下に隠した腕をそっと擦る。まだ握られているような、カカシの手の平の温度が残ったままだ。何故か胸が苦しい。
「まあまあ、この顔を信じてもらう為なんだものしょうがないでしょ。」
かつての教え子達は上忍師のカカシの元で修業についているが、マイペースで困るとしょっちゅうぼやいていた。確かにそうだな、とイルカは上目遣いでちろりとカカシを盗み見た。
肘を着いて手の平に顎を乗せ、目を細めてイルカを見ていた。ぱちりと音がするくらいはっきりと視線がかち合った。
いやなんで見てんだよ、俺をからかうの楽しいのか。ともう一度俯けば、からかってごめんねと自覚のある負い目からか優しい言葉が降ってきた。
「はい……。」
この空気はなんだどうすればいいんだとイルカは焦る。訳がわからなくて、乾いた喉を潤す為にすっかりぬるんだ麦茶を一気に煽った。かなり喉が渇いていたことを知った。
けれどなんだか空気が息苦しく思うのはイルカだけか、カカシはざわざわと木々を揺らす風の音に窓の外を見ていた。
そこへととと、と走る足音が近付いてきて襖の向こうから声が掛かる。
イルカを攫った研究員二人が確保されたらしい。そのボスの情報も得られたので、すぐに火影の元に参じてほしいという話だった。
「了解。十分、いやそんなにかからない。」
カカシの返事にイルカが無言で二人の忍服をハンガーから外すと、投げてという仕草にカカシの分一式をふわりと宙に投げ上げた。交差してイルカの手に飛んでくるのは脱いだ着物だ。
着替えて二人が玄関を出るまでに三分、ヤニ臭い執務室に到着したのはそれから三分後だった。
「で、ご説明を。」
「お前は挨拶もろくにできんのか。お呼びに応じて急ぎ参りました、と言うのに一分も掛からんわ。」
はは、と三代目が機嫌よく笑う。事件の先が見えたのだろうとカカシもイルカもつられて笑顔になった。
イルカの証言通りに少年に変化していた二人の研究員達は、堂々と盛り場の茶店に入ったところを捕縛された。
犬塚の忍犬に匂いを辿られたというおそまつさだ。
「その二人に直接指示をしていた、ボスと呼ばれる男も居場所の見当がついたようだ。ただ、」
三代目の表情が困惑に変わる。
居場所が解って良かったのではないかとカカシが問うたが、火影は今度はううと唸った。
「わざと知られるように行動しているとしか思えんのだよ。捕まえてくれと言っているようなものだ。」
カカシとイルカは顔を見合わせた。確かに今までの彼ら一団の行動は、綿密な計画の元に成り立ってはいなかった。最初は統率が取れていたが、次第に我こそはと命令のない待機の合間にカカシの首を狙ったり民家に押し入ろうとしたり。
そうして簡単に捕まってしまった。
今日の飯も喰えない、金に困った抜け忍や資格を剥奪された素行不良の元忍びばかりだ。盗賊の一団をそのまま雇ったという話もある。
「俺も、捕まった時には三代目やカカシ先生の情報を抜かれるのではと覚悟をしていたんですけど……。」
何がしたかったのか、あの時は無傷でいられた事に安堵し冷静になれなかったが漸く今全体を俯瞰して見られる。
「三代目、盗賊や抜け忍は確か討伐の依頼が来ていたと思うんですけど。」
「あれね、近隣の村や宿場町から頼まれてたの。」
既に上忍にも話が通っていたのかとイルカは驚く。それではまるで討伐に出る任務が、危険を伴いはするが忍びの隠れ里に向こうからやって来たようなものだ。
カカシも逮捕者リストを捲り、おかしいと呟いた。
半年程前に見た、草からの要観察者リストと殆どの氏名が被る。この逮捕者達は、草の潜んでいる小さな隠れ里で暮らしていたのではなかったか。
「その隠れ里がな、忍びのなり手が減っておってな。忍びを辞めて一般人になる者が増え、忍び達の子供もなかなか生まれない。」
過疎の里と呼ばれ、任務の依頼など農家の手伝い位しかない。若者達が家族を養う為に犯罪に手を染めたのは、彼らの論理では仕方がなかったのかもしれない。
「怪我人はいても死者は出ていないんですよね。」
「そうじゃ、木ノ葉の忍びは最強じゃ。」
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