―昼間から時間を気にせず買い物だなんて、こんな贅沢ないよねえ―。

時折肩がぶつかる位に寄り添って歩きながら、口布の下で笑い呟いた。
カカシの右手には、洗剤やラップの入ったビニール袋。左手には、十二ロールのトイレットペーパー。
隣のイルカは沢山の惣菜を左手に下げ、右腕に有名洋菓子店の箱を抱えていた。
「せんせ、石につまづかないでよ。」
「失礼な。そこまでおっちょこちょいじゃないですっ。」
日用品やおかずを持って向かう先は、上忍にしては質素なカカシのアパートだ。どこからどう誰が見ても、同性だが恋人同士にしか見えない。
「でもさ、今年の冬はあったかいから楽だよね。」
「子供達を連れての任務が?」
「そう。冬場に畑を耕すとか猫探しなんか、チャクラの循環であったまってても風は痛いじゃない。」
イルカの顔を覗き込みながら、切々とカカシは訴える。ほんとにねえ、とイルカも早朝の出勤を思い大きく頷いた。
「明日から寒気団が、木ノ葉の里の上空に留まるそうですよ。大雪になるという話です。」
「そりゃ困るなぁ。」
二人は空を見上げて、遠くから灰色の雲が迫りつつある事を確認した。何となく速足になったイルカの後を、カカシは大股で付いていく。
ほっこり暖かなひなたも、近付く雲により徐々に陰り始めた。
「そういや小春日和って、晩秋に使う言葉なんですって。」
「まあせんせ、物知りね。」
「はっはっは。」
ふんぞり返って殿様のようにのしのしと歩きながら、笑顔のイルカがカカシを振り返る。
「寒かったら、あっためてあげますよ。」
「じゃあ、報告に行ったらその場でもいい?」
またイルカの隣に収まって、カカシは身体をぴたりと寄せた。
「電気毛布を用意しておきます。」
「つれないねえ…。せんせがあっためてよ。」
「俺は非常に高値で取り引きされてますが。」
「確かに陸地の木ノ葉じゃ、海に住むイルカの水槽と海水を維持するのは大変だよねえ。」
「水槽って、」
二階への階段を昇り部屋の鍵を開けたカカシは、何を言い出すんだと戸惑うイルカを促し先に入れた。買ってきた物を台所のテーブルに置き、イルカの手からも取り上げて置いてやる。
「陸育ちのイルカはこの部屋では飼えないんでしょうかね、物知りのせんせ。」
「んー広さはぎりぎりですが、居心地は良さそうですし。」
イルカはぐるりと大袈裟に、家中を見回してひょいと首を傾げた。
「餌は充分すぎる程与えられそうですね。」
テーブルの上の洋菓子店の箱は、イルカには年に一度位しか手が出せないものだ。今日はバレンタインデーだから二人で食べようと、カカシがチョコケーキを買ってくれた。自分はつつくだけなのに。
「後は、世話の仕方じゃないですかね。」
「飼育員の腕の見せどころですか。きっと誠実で、限りなく無償の愛を捧げられる男でしょう。」
「その飼育員の名前は?」
「はたけカカシと申します。」
両手を広げ、片膝を床に着いて頭を下げる。
「ああ、聞いたことがあります。随分犬達をてなづけられたとか。」
「ですから自信はあります。」
カカシはその姿勢のまま、イルカに向けて手を伸ばした。
「解りました。陸育ちのうみのイルカの、世話をお願い致します。」
イルカは一歩前へ出て、カカシの手のひらにそっと手を重ねた。
満足そうに立ち上がったカカシは、その手を引いて胸にイルカの身体を受け止めた。
「カカシさん、なんでこんな話になったんでしたっけ。」
「さあ?」
「…いいですけどね。」

水槽の外には飼育員の名前と共に、飼育生物の名前が掲げられるものらしい。
と早速カカシは表札を作ったそうな。
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