なんて言えばいいのかな。
カカシはそれを言葉に表せなくて、昨日も一昨日もその前の日もそのまた前の日も、ずっと悩んでいた。
通算三ヶ月、まあよくもそれだけ毎日悩めるものだなぁと、周囲は呆れるばかりで誰も助けてやろうとはしなかった。
否、助けてやれなかった。カカシ自身が考えなければならない事だったからだ。
「カカシ先生、いい言葉が見つかったか?」
ナルトがにやりと笑って聞く。今日一日の締めの日課。
「んーそれがねえ…。」
それもお決まりの言葉。
任務が休みでも、修業が休みでも、夕方には必ずカカシはアカデミーの校庭の一本の楠の枝に座り考え込んでいる。だから部下の三人の子供達は、いやもうハタチを越えている元部下達は、誰かしらが心配して訪ねて来るのだ。
ナルトとサクラは勿論、遥か遠く里の外を巡回しているサスケでさえ定期報告を鷹に乗せて届けるのではなく里に戻って、カカシにいい言葉が見つかったかと聞く。
初めて師となったカカシには何度も命を助けられ、挫ける心も支えてもらった。だから今度は恩返しをしたい、と思わせる程に皆は心配でならないのだ。
「参考になればと随分聞き回ったんだけど、もう聞く相手がいなくなっちゃった。」
はああと盛大に肩を落とし項垂れる。もう中年に近い木ノ葉の鬼とさえ呼ばれた男が悩む姿は、失礼だけど笑いを誘う程幼く見えた。
今日こそは、と都合をつけてナルトとサクラとサスケが揃った。
「…今日見つけられなかったら、俺はこれから一年は帰れない任務で気になって失敗するかもしれん。下手をしたら大怪我をして、もしかしたら…。」
「いやよ縁起でもない! もしサスケ君がそんな事になったら先生も道連れよ! だから今日こそは!」
サクラがカカシの座る樹の下方を軽く殴ると、樹は根元から折れカカシはみっともなく地面に転がった。
「おいどうした、サクラ!」
アカデミーの職員室から顔を出したイルカが、サクラの大声と轟音に慌てて飛び出してくる。
「ああ六代目、また逃げ出していたんですね。」
埃だらけのまま地面に胡座をかき、カカシは口布をぐっと上に引き上げて目元さえ隠そうとしていた。
見つかった、と恥ずかしそうに大きな身体も縮め。
「私も教師なので、一日中六代目のお側には付いていられません。ですが監視をしないとお仕事をなさらない、というのは火影様としてはどうかと思いますよ。」
「だって、」
「はい、なんでしょう。」
イルカはカカシの正面に片膝を着いてしゃがみ込んだ。
「イルカ先生に、」
「はい。」
「オレの気持ちを、どう表せば伝えられるのかなって。」
「気持ち?」
「先生を愛していて、だからオレ達は、けけけ結婚はできないけど伴侶ですって皆に紹介して…その、死ぬまで一緒に同じ家に住んで…あ、表札は並べて掛けたいし、ってそれを上手く表せなくて悩んでいて。」
あ、言っちゃった。と真っ赤になってカカシが口を押さえると、イルカは両膝を着いて自分の額宛てを取りカカシの額にこつんと額を合わせた。
「ありがとうございます。そんなにカカシさんを悩ませてしまっていたんですね。でも俺は飾った嘘くさい言葉でなくて、カカシさんの言葉で聞けたからその方が嬉しいです。」
「ほんと?」
「ええ、ちゃんと伝わりましたから。こちらこそ、不束者ですが宜しくお願いいたします。」
手を取り見詰め合う彼らの、もしかしたら初めて見るかもしれない本当に幸せそうな笑顔。
ああこれで安心して任務に就ける、と当事者二人の後ろで三人の若者達は小さな安堵の息を吐いた。
そしてその後ろでは、あまたの見物人達が一部始終を見届けていたのだった。
カカシはそれを言葉に表せなくて、昨日も一昨日もその前の日もそのまた前の日も、ずっと悩んでいた。
通算三ヶ月、まあよくもそれだけ毎日悩めるものだなぁと、周囲は呆れるばかりで誰も助けてやろうとはしなかった。
否、助けてやれなかった。カカシ自身が考えなければならない事だったからだ。
「カカシ先生、いい言葉が見つかったか?」
ナルトがにやりと笑って聞く。今日一日の締めの日課。
「んーそれがねえ…。」
それもお決まりの言葉。
任務が休みでも、修業が休みでも、夕方には必ずカカシはアカデミーの校庭の一本の楠の枝に座り考え込んでいる。だから部下の三人の子供達は、いやもうハタチを越えている元部下達は、誰かしらが心配して訪ねて来るのだ。
ナルトとサクラは勿論、遥か遠く里の外を巡回しているサスケでさえ定期報告を鷹に乗せて届けるのではなく里に戻って、カカシにいい言葉が見つかったかと聞く。
初めて師となったカカシには何度も命を助けられ、挫ける心も支えてもらった。だから今度は恩返しをしたい、と思わせる程に皆は心配でならないのだ。
「参考になればと随分聞き回ったんだけど、もう聞く相手がいなくなっちゃった。」
はああと盛大に肩を落とし項垂れる。もう中年に近い木ノ葉の鬼とさえ呼ばれた男が悩む姿は、失礼だけど笑いを誘う程幼く見えた。
今日こそは、と都合をつけてナルトとサクラとサスケが揃った。
「…今日見つけられなかったら、俺はこれから一年は帰れない任務で気になって失敗するかもしれん。下手をしたら大怪我をして、もしかしたら…。」
「いやよ縁起でもない! もしサスケ君がそんな事になったら先生も道連れよ! だから今日こそは!」
サクラがカカシの座る樹の下方を軽く殴ると、樹は根元から折れカカシはみっともなく地面に転がった。
「おいどうした、サクラ!」
アカデミーの職員室から顔を出したイルカが、サクラの大声と轟音に慌てて飛び出してくる。
「ああ六代目、また逃げ出していたんですね。」
埃だらけのまま地面に胡座をかき、カカシは口布をぐっと上に引き上げて目元さえ隠そうとしていた。
見つかった、と恥ずかしそうに大きな身体も縮め。
「私も教師なので、一日中六代目のお側には付いていられません。ですが監視をしないとお仕事をなさらない、というのは火影様としてはどうかと思いますよ。」
「だって、」
「はい、なんでしょう。」
イルカはカカシの正面に片膝を着いてしゃがみ込んだ。
「イルカ先生に、」
「はい。」
「オレの気持ちを、どう表せば伝えられるのかなって。」
「気持ち?」
「先生を愛していて、だからオレ達は、けけけ結婚はできないけど伴侶ですって皆に紹介して…その、死ぬまで一緒に同じ家に住んで…あ、表札は並べて掛けたいし、ってそれを上手く表せなくて悩んでいて。」
あ、言っちゃった。と真っ赤になってカカシが口を押さえると、イルカは両膝を着いて自分の額宛てを取りカカシの額にこつんと額を合わせた。
「ありがとうございます。そんなにカカシさんを悩ませてしまっていたんですね。でも俺は飾った嘘くさい言葉でなくて、カカシさんの言葉で聞けたからその方が嬉しいです。」
「ほんと?」
「ええ、ちゃんと伝わりましたから。こちらこそ、不束者ですが宜しくお願いいたします。」
手を取り見詰め合う彼らの、もしかしたら初めて見るかもしれない本当に幸せそうな笑顔。
ああこれで安心して任務に就ける、と当事者二人の後ろで三人の若者達は小さな安堵の息を吐いた。
そしてその後ろでは、あまたの見物人達が一部始終を見届けていたのだった。
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