「ねえ、何でオレ達別れたんだっけ?」
煩くて汚い酔っ払いだらけの店で向かい合わせに酒を飲みながら、カカシは少し俯いたまま上目使いに問い掛けた。
「最初から付き合ってもいなかったじゃないですか。」
目を合わせる事なく、イルカは事実だけを突き付けた。
「んー? そうか、そうだったね。」
でも、オレもあんたも死ぬまでお互いを求め続けるんだろうね。
肘をついて手のひらに顎を乗せたカカシは、ね?とイルカに同意を求めた。だが答えを聞く前に、今思い出したと言わんばかりにあっけらかんと言ったそれは。
「オレさ、女ができてちょうどひと月なんだ。」
イルカの身体が跳ねる。顔が強張り、握ったコップにひびが入った。
ぶるぶると震えながらも握る力は強まり、コップのひびは一周する。
カカシはゆっくりとその手をコップから剥がし、両手で包み込んだ。
「長い黒髪とくりっとした黒い目でさ。雰囲気があんたによく似ていたから、言い寄られて悪い気はしなかった。」
イルカにとって毒のような言葉を吐き続けるカカシだが、話しながらイルカの手のひらに愛してると何度も綴る。
手を引こうにもカカシの力は骨を砕く程強く、イルカは痛いと叫ばないように唇を噛み締めるだけで精一杯だ。
「でもねえ、勃たないんですよ。」
はあ、とわざとらしい溜め息を吐くと少しイルカの手を握る力も抜けた。だがまたすぐ力を籠める。
「あんたを思えば簡単なのに。ほら、今だって汁が出る位。」
流石に向い合わせでは卓の下は見えないから、カカシは腹を卓に押し当て前に出てイルカに近付く。
横幅はあるが奥行きのない卓の下、ガタイのいい男達の膝がずっと触れ合っている。イルカの片脚の膝に前へ出たカカシの股間が当たると、確かにそこは硬く盛り上がっていた。
イルカの顔が赤く染まる。
「さっきも任務帰りに会ってきたんです。でもね、やっぱり欲情なんかしないんです。」
淡々とその時の様子を語るカカシを、聞きたくないのにイルカは止められなかった。
「黒髪に黒い目、でも何かが足りない。…だからね、」
クナイで鼻の上に一文字の線を書いたんですよ。
甘い声が、一層甘くなる。
「そしたら、偽物のあんたがいたんです。」
イルカの背に走ったのは恐怖か、歓喜の予感か。
「偽物は要らないんです。」
イルカの耳に囁いたのは悪魔だろうか。そうだ、とびきり魅力的な、一生離れたくないと思わせるような。
「本物を、閉じ込めてしまおうと思って。いいでしょ?」
カカシが撫でたイルカの手首には、ぐるりと忍び言葉の呪印が浮かびやがて消えた。
言いたい事を言い終わり、カカシはイルカの返事を待つ。
今度はイルカが言葉を選びながら、カカシに爆弾を投げ付けた。
「俺は今日、アカデミーを辞めてきました。」
案の定、カカシはひと言も出ない。
「あんたに女ができて、ずっとそっちに行きっぱなしだと知っていましたから。」
続きを促すようにカカシは頷いた。さっき和らいだ顔が無表情に戻る。
「あんたを殺せるような禁術を、この半月練って身に付けて。」
ふっと哀しい笑顔になったイルカの目は、涙が溢れる寸前だった。
「一緒に死にたかったから。」
ぎゅうと目を瞑り涙が転げ落ちるままに、イルカは本心をさらけ出し。
それを聞いて恍惚の表情を浮かべたカカシは、やがてうっすらと笑って目を細めた。
―堕ちた。
さっと真面目な顔を作りイルカの両手を握ったカカシは、けじめだからと姿勢を正した。
「これから先を、オレと一緒に生きて下さい。」
驚き顔を上げたイルカはまたこみ上げる涙を堪え、吐息だけではいと答えた。
「手首の呪印はね、オレから逃げようと思った途端にそこから腐り出すんだ。」
あっという間に腐乱死体なんだよねえ。
イルカは嬉しいと大事そうに手首を擦っていたが、やがてお願いだからと狂気を孕んだ目を光らせた。
「ねえカカシさんもやって、お揃いにして。」
「いいよ、イルカの言う事には逆らえないよね。」
くすりと笑いお揃いなんて可愛いもんじゃないけどね、と思いながらカカシも自分の手首に呪印をつけた。
イルカは自分からカカシの腕の中に閉じ籠って、言われるままに二人で里の外れに引っ越した。カカシは少しずつ任務を減らしてまだ若いうちに忍びを引退した。
いつしかカカシもイルカも人々の記憶から消えてしまったのは、それが二人の願いだったから。
彼らの世界は二人だけで完結していたのだ。
煩くて汚い酔っ払いだらけの店で向かい合わせに酒を飲みながら、カカシは少し俯いたまま上目使いに問い掛けた。
「最初から付き合ってもいなかったじゃないですか。」
目を合わせる事なく、イルカは事実だけを突き付けた。
「んー? そうか、そうだったね。」
でも、オレもあんたも死ぬまでお互いを求め続けるんだろうね。
肘をついて手のひらに顎を乗せたカカシは、ね?とイルカに同意を求めた。だが答えを聞く前に、今思い出したと言わんばかりにあっけらかんと言ったそれは。
「オレさ、女ができてちょうどひと月なんだ。」
イルカの身体が跳ねる。顔が強張り、握ったコップにひびが入った。
ぶるぶると震えながらも握る力は強まり、コップのひびは一周する。
カカシはゆっくりとその手をコップから剥がし、両手で包み込んだ。
「長い黒髪とくりっとした黒い目でさ。雰囲気があんたによく似ていたから、言い寄られて悪い気はしなかった。」
イルカにとって毒のような言葉を吐き続けるカカシだが、話しながらイルカの手のひらに愛してると何度も綴る。
手を引こうにもカカシの力は骨を砕く程強く、イルカは痛いと叫ばないように唇を噛み締めるだけで精一杯だ。
「でもねえ、勃たないんですよ。」
はあ、とわざとらしい溜め息を吐くと少しイルカの手を握る力も抜けた。だがまたすぐ力を籠める。
「あんたを思えば簡単なのに。ほら、今だって汁が出る位。」
流石に向い合わせでは卓の下は見えないから、カカシは腹を卓に押し当て前に出てイルカに近付く。
横幅はあるが奥行きのない卓の下、ガタイのいい男達の膝がずっと触れ合っている。イルカの片脚の膝に前へ出たカカシの股間が当たると、確かにそこは硬く盛り上がっていた。
イルカの顔が赤く染まる。
「さっきも任務帰りに会ってきたんです。でもね、やっぱり欲情なんかしないんです。」
淡々とその時の様子を語るカカシを、聞きたくないのにイルカは止められなかった。
「黒髪に黒い目、でも何かが足りない。…だからね、」
クナイで鼻の上に一文字の線を書いたんですよ。
甘い声が、一層甘くなる。
「そしたら、偽物のあんたがいたんです。」
イルカの背に走ったのは恐怖か、歓喜の予感か。
「偽物は要らないんです。」
イルカの耳に囁いたのは悪魔だろうか。そうだ、とびきり魅力的な、一生離れたくないと思わせるような。
「本物を、閉じ込めてしまおうと思って。いいでしょ?」
カカシが撫でたイルカの手首には、ぐるりと忍び言葉の呪印が浮かびやがて消えた。
言いたい事を言い終わり、カカシはイルカの返事を待つ。
今度はイルカが言葉を選びながら、カカシに爆弾を投げ付けた。
「俺は今日、アカデミーを辞めてきました。」
案の定、カカシはひと言も出ない。
「あんたに女ができて、ずっとそっちに行きっぱなしだと知っていましたから。」
続きを促すようにカカシは頷いた。さっき和らいだ顔が無表情に戻る。
「あんたを殺せるような禁術を、この半月練って身に付けて。」
ふっと哀しい笑顔になったイルカの目は、涙が溢れる寸前だった。
「一緒に死にたかったから。」
ぎゅうと目を瞑り涙が転げ落ちるままに、イルカは本心をさらけ出し。
それを聞いて恍惚の表情を浮かべたカカシは、やがてうっすらと笑って目を細めた。
―堕ちた。
さっと真面目な顔を作りイルカの両手を握ったカカシは、けじめだからと姿勢を正した。
「これから先を、オレと一緒に生きて下さい。」
驚き顔を上げたイルカはまたこみ上げる涙を堪え、吐息だけではいと答えた。
「手首の呪印はね、オレから逃げようと思った途端にそこから腐り出すんだ。」
あっという間に腐乱死体なんだよねえ。
イルカは嬉しいと大事そうに手首を擦っていたが、やがてお願いだからと狂気を孕んだ目を光らせた。
「ねえカカシさんもやって、お揃いにして。」
「いいよ、イルカの言う事には逆らえないよね。」
くすりと笑いお揃いなんて可愛いもんじゃないけどね、と思いながらカカシも自分の手首に呪印をつけた。
イルカは自分からカカシの腕の中に閉じ籠って、言われるままに二人で里の外れに引っ越した。カカシは少しずつ任務を減らしてまだ若いうちに忍びを引退した。
いつしかカカシもイルカも人々の記憶から消えてしまったのは、それが二人の願いだったから。
彼らの世界は二人だけで完結していたのだ。
スポンサードリンク