無精髭の似合う男もいいな、と風呂上がりのイルカはタオルを腰に巻きながら洗面所の鏡に呟いた。
でも教師という職業上無理だよなあ、と思っているとふざけんな、といきなり後ろから結んだ髪の根本を鷲掴みにされぐおんぐおん振り回された。
「いてえ、やめろ。」
カカシはイルカの頭の中に浮かんだだろうアスマに嫉妬したのだ。それを追い出すために頭を振り回すなど、まるで駄々っ子だ。
カカシの身体に付いた湯の滴は拭かれないままに冷えながら滴り落ちていたが、構わず鏡の中のイルカを睨み付ける。
「熊みたいな髭でキスされたくないからね。毎日俺が剃ってやるんだから。」
「ははっ、あんたが任務の時はどうするんだ。」
いてえなぁと言いながらイルカがほつれた結い髪をほどくと、癖の付かないしなやかな髪はさらりと肩に落ちた。
カカシはうっとりと目を細めて、恭しくひと束を手に取り唇を寄せた。
「おまえは髪だけ気にしていろ。」
「あんたがいない時は髭はどうすればいいんだ、って聞いてるんだよ。」
カカシのあからさまな嫉妬を受け流しながら、イルカは自分で拭く気のないその身体をタオルで拭ってやる。
イルカの思考が自分に向いていないと機嫌が悪い。ただ子どものように拗ねているだけだと深い関係になってすぐに理解できたが、それはカカシが受ける任務に関係するのだと気付いたのは最近だ。だからといって下手に出るのは癪に触る。
「毎朝帰ってくるから必ず家にいるんだ。髪の手入れもしてやる。」
手櫛で梳かれながらカカシの足を拭くためにしゃがんだイルカは、驚いてたわごとを言う相手を見上げた。
女じゃないのに、とは言わない。イルカは固執するカカシに対して、髪も武器の一つにしているのだ。だが知らぬ振りを続け、邪魔だと思いながらも髪は切らない。
「飲みにも行かれないのかよ。」
「朝までに帰ればいいんだ。ただし、だからって調子に乗って浮気なんかしたら絞め殺す。」
立ち上がった自分の首に手を掛けた本気の様相の、カカシの手首を掴みにやりとイルカは笑う。
「あんたもな。敵をぶった切った後で、興奮して近くにいる奴に突っ込むんじゃねえぞ。」
「じゃあその時は帰ってくる。でも帰れないくらい遠かったらおまえが来い。」
「勿論だ、呼ばれなくても行ってやる。あんたに触る奴はたたっ切る。」
物騒な言葉の応酬に秘められた想い。
愛してる、だから同じだけ愛せ。
明日は相手が存在する保証はないから。
命懸けで愛してる事を、思い知れ。
イルカは腰に巻いたタオルを落とした。裸の胸と腰を隙間なく正面から突き合わせ、カカシの背筋を首から尾てい骨まで指一本でなぞる。
ぞろりと沸き上がる欲に、カカシは思いきりイルカの首に噛み付いた。
そしてそれが合図となり、二人は紫色の柔らかな時に沈み込んでいった。
遠く、ほうと梟の声が聞こえた。
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