煙草の匂いがしたと思ったが、一瞬後それは毒だったと気付いた。
向精神薬の一種で暗部がよく使うもの。精神が高ぶることに因って身体能力も上がるというそれがキツイのか、受付で片目だけ晒したその顔は、いつもより白かった。
夜の暗闇で二人きりで対峙していて、この人を救ってあげたいなどとおこがましい事を考えてしまったから。
引き出しから粉の入った缶を取り出す。蓋を開けて差し出して、これは中和するための薬です、指につけて舐めて下さいと言うと。普段は水薬として渡されるものだから、元は粉だとは知らなかったらしい。
此処には高ぶった侭来て暴れ狂う者もいるから常備しているのだと説明すれば、ああと納得する。
粉を舐めた方が早く効きます、と微笑めば手が汚れているので舐めさせてくれと、低く囁かれて顔が赤くなるのが解った。
震える手を押さえつつ、薬指に適量を掬いどうぞ、と口元に持って行く。ぺろりと指を舐められて、舌のざらつきに体の奥底が舐められたように熱くなる。
舐め終わったと思えば、手首を掴まれて更に薬指を丹念に舐められた。指の根元まで熱い口の中でしゃぶられて。
あなたが俺にとって薬なんだ、と顔をさらけ出して見詰められて、動けない。
あなたは毒だ、と掠れた声しか出せなかった。
じゃあ中和しましょう、と深く口づけられて、二人夜に溶けた。
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