誰にも、ひとことも告げずにイルカが居なくなった。

それを知っていたのはアカデミーの一番目と二番目に偉い者だけ。
いや最近入ったばかりの新人が二人、上司と手続きについて話すのを小耳に挟んでいた。だが二人はそれを誰かに話していいものやら判らずに、イルカが姿を見せなくなって三日目あたりに騒ぐ職員室でそう言えば、と話し出したのだ。

今年のイルカは春先に、決定していた筈の担任を降りていた。度々火影に呼ばれていたから、機密なのだと皆は疑いもせずにイルカはまた頼られて、と一度噂に上り終わった。

だがその日、教科担任すら外れ補佐に付いていた新人が代わりに名を連ねていた職員室の掲示板を見た職員達は。
詰め寄られた上司達は、イルカに口止めされていたからと明後日の方を向いた。だが彼等もイルカの行方を知らない。

アパートには何も残されず、箪笥や棚の跡が畳に青く残っていただけで、それはいわゆる引越しなのか処分なのか判らぬまま。

カカシはゆっくりと風の国から一週間振りに帰還し、しかし埃さえ残らない部屋に呆然としてイルカのチャクラを窓の桟までも辿って探した。それがイルカが消えて四日目、紫陽花の花も色褪せ始めた頃だった。

美しい火影は決して口を割らずに、カカシの雷切を目をつむり正面から受けた。カカシは動かない火影に慌てて手のひらを逸らしたけれど、金色の長い髪を大層焦がして握るひと束程も短くした。焼け落ちた髪をちらと見下ろして、火影はふんと笑ったがカカシには何も言わない。それがイルカの意思だと言わんばかりに。

男同士でもまるで夫婦だと公認の二人に何が起きたのか、イルカの行方は火影以外は誰も一切知らない。
その火影はカカシに待てとだけ伝え、イルカの手紙を渡した。

突然居なくなってごめんなさい。私は元気です。だから貴方も元気でいてください。

そんな事ができるかとカカシは火影にわめき散らしたが、探す当てはなく任務も放棄しイルカの居ない部屋にこもった。夜も眠れない程に憔悴したが、不意に郵便受けにことりと音がしたのに気付いた。
イルカの手紙だった。

お願いだから元気でいてください。また手紙を書きますから。

まるでカカシがこの部屋に居ることを知っているかのような文章。たったそれだけが心の支えとなって、カカシは漸く忍びとして復活した。
もとよりイルカの部屋は解約されてはおらず、カカシは帰ってくるのだと安堵し、布団だけ持ち込み住み続けていた。

週に一度、イルカから手紙が届く。

お疲れ様でした。腕の怪我はきちんと治してくださいね。

何処かから見ているのだろうか、とカカシはイルカに恥じない毎日を過ごす。だが会いたい会いたいと募る想いに、豪雨にわざと打たれ涙を散らしたのも、鼻水さえ垂らし滝の下の淀みに潜ったのも数えきれない。

手紙が二十通になった。それらは畳に丁寧に並べられ、カカシは毎晩眺めてイルカを思い出す。
あぶらぜみからひぐらしに季節は移り鈴虫が窓の外で煩かったのもいつだったか、今は木枯らしに近いなぶるような風が窓枠を揺らしている。

かたん。
イルカの手紙だ。

待たせてごめんなさい。
帰ります。

イルカが帰る場所は此処だ。イルカの部屋であり、カカシ自身である。
手紙が着いてから暫しのちの帰還だろうと、カカシははやる気持ちを拳を握り、腰を据えて待つことにした。
だがその夜半にイルカは帰ってきた。玄関でただいまと言うなりカカシの手を握り、火影の元へ走った。訳もわからず付いていくカカシは、のちにイルカが報告する内容に驚き嬉しさに崩れ折れた。

イルカは単身火の国に直訴に行っていたのだ。
木ノ葉の隠れ里は火の国からの半独立国といえるが、法律など公的には従属せざるを得ない部分が多い。
拝み倒し書かせた火影からの嘆願書を携え、認められるまでは帰るつもりもなく、イルカはただ一人戦ってきたのだ。

では第一号に認定してください、とイルカは火影に腰を折る。よくやったな、と頷いた火影の頬にはまず見られない涙がぼたぼたと流れるままに落ちていた。


こうしてカカシとイルカは、木ノ葉の里における同性婚の第一号に認められた。


*****オマケもそのまま*****

カカッさん、何だか楽しそうですねえ。腰ふって踊ってるなんて(前後にふるのはなんか違うが)。

おーアオバ、判っちゃう? オレねえ今すんごくイイもんに嵌まってんだ。

はあ、何ですか。

ンフフゥ…それはね、イ・ル・カ・の、穴っ!…あぅ…

あー、カカッさん、風遁で消えた…。
(合掌)
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