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20 月齢十八
翌日イルカは火影からカカシの任務を聞いた。
かなり危険で時間が掛かる事。
それは以前ある任務でカカシに殺された里の者の報復で、どちらかと云えば私怨に近いものだという。詳しい事は告げる訳にはいかなかったが火影はイルカに、決して一人になるなと言い渡した。カカシが居ない間にお前が襲われる可能性は高い。既にお前達の関係は何処の里にも知れ渡っているのだから、と。
一応カカシはお前にお守りを付けた様だが、こちらも暗部を付けよう。
イルカは同僚の家に泊めてもらうかと考えながら、火影の言葉にうなづいた。

受付の仕事もまた今日から入る事となり、顔を覗かせたイルカにその場に居た仲間や知り合いがわっと群がって、すぐ大騒ぎとなった。
久し振り、元気そうだ、と頭や体を叩かれて痛い痛いとそれでも楽しそうに笑うイルカに、あの違和感は感じられない。そして仲間達は、イルカの居なかった理由を聞かない。
今日のイルカの受付のシフトは昼から夕方まで。三交替制の中番と呼ばれる時間帯だったので人は多く、特に火影に言われたような危険も無いかと思われた。夜は帰宅し一人になってしまうがカカシはあの大きな忍犬を置いてってくれたから、正直言うと自分には危険を感じない。かえって自分と共に居る友人達の方が巻き添えをくって危ないかもしれないから、食事に誘う事も出来ないかなと思い直した。
ベストの裏の隠しポケットに入れておいた紙切れをそっと取り出して開いてみる。それはカカシから渡された忍犬の呼び出し用の札だった。イルカにしか反応しないように、二人の血で書かれた特別な札は、簡単な印一つで急いで呼び出せる。
あの子が居ればいいよね、とイルカは真っ直ぐ自宅へ帰る事を決めた。
そうこうする内に上がり迄あと僅かとなり、アカデミーの職員や受付の早番の者達が集まり、イルカを食事に誘う。カカシが任務で居ないのを知っているから、寂しくないようにとの好意から出たものだから、イルカは断れなかった。皆で送るとまで言われてはうなづくしかない。
カカシは忍犬を置いていってくれたし、イルカのアパートに結界を張ってくれたし、暗部の人もいるし。
にっこり笑って仲間達と繰り出したのは定食屋で、流石に今日は皆酒を飲む気はなかったのだ。
そしてまた少し削れた丸い月が夜道を明るく照ら す中、巨大な忍犬と共にイルカは自宅へ帰り着いたのだった。

満月でもないのに、こんなに冴え渡った夜気の中では光は隅々までよく照らす。オレは隠れて待つのは嫌いではないが、イルカの事を思うと居ても立ってもいられない。
オレのせいでイルカが襲われでもしたら、何かあったら―。
イルカはオレのものだと誇示した浅はかな自分に嫌気がさす。オレの女だと知れた途端にオレの弱点であるイルカを狙うのは、卑怯ではあるが当然でもあるのだから。何故それを考えなかったのか、もう少し早く手を打っておかなかったのか。
手を打つ。そう、イルカを閉じ込めておく事。誰にも触れさせない、見ることも許さない。オレだけのモノ。部屋に張って来た結界は強力で、イルカ以外の人間には死をもたらすもの。だから誰も入れないようにって言っては来たけれど、一人ぼっちは寂しいからねぇ、忍犬で我慢してくれるかなあ。犬はとても好きらしいから、それはオレも嬉しいけど。
おっと集中集中、と深呼吸して辺りの気配を探る。オレを指名するなんて人気者は辛いねえとうそぶいてみる。オレはただ命令に従っただけの話なんだが、相手にそれは関係ない。オレという目標を、オレを殺すという目的を作らなければ怒りや悲しみといった感情のやり場はないのは承知している。八つ当たりや逆恨みだと当人達も解っていて、それでも今もオレを狙う。
そうだ、来い。オレだけを狙え。
―まず一人目の喉元を掻き切って血飛沫を飛ばす―
オレは正当防衛と称して殺人が出来るのだから、こんな嬉しい事はない。
イルカを抱くことが出来ないならば代わりにお前達の血でオレを気持ち良くさせてもらおう。
―二人目は眉間に千本を突き刺し即死―
だがしかし、これではオレの方が八つ当たりだと言われても仕方ないか。まあこのままじゃ割に合わないんだからね、オレが。
さあお待ちかねの大将が怨みつらみの口上を奉りながらやって来た。成る程凄い殺気を感じるが、オレがお前なんかに殺られると思うなよ。
―横の三人目は幻術か、ならばそのまま返す―
面を着けていてもこの髪が光ってオレだって判るだろう、そうさわざわざ教えてやってんだから、オレが此処に居るって事を。
―そして最後に何だか知らないが、叫びながら正面から来る奴。全身から血が噴き出しても向かって来るなら、向き合ってやろう、写輪眼のカカシとして―

ああ無傷の幸運を月に感謝。
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