18

18 月齢十六
眩しさに目が覚めた時、此処は何処かとオレは部屋の中を見渡してしまった。いつもの病院ではないがオレの部屋でもない。あまり寝起きは良くないのでそれ以上の思考は無理だったか、天井の節目で目が止まる。
いいやもう一度眠るかと目を閉じようとすると、いきなり視界一杯に人の顔が現れた。
寝ぼけた頭では追い付かないまま、唇を塞がれる温かな感触にオレもつい返してしまう。ああイルカだと、それだけで確認出来る。徐々に覚醒する頭の中で昨夜の事が思い出された。手を伸ばしイルカを抱き締めればまだ素肌のままだ。あれだけきっちりしているイルカが昨夜のまま何も着けずにいるなんて、と浮かんだ愚かな考えは片隅に追いやり、もう一度と滑らかな肌に手を滑らせ背中から腰へと下ろして、尻の間から指を差し込む。
あっ、と小さな声に尻の筋肉が締まりオレの指を挟んだまま腰をずらそうとする。
その腰に片手を回し動きを封じると、尻の間の指を前へと滑らせ膣へと挿入する。まだ明け方までの名残でくちゅりと音をさせて指は飲み込まれた。
高い声を上げてのけ反ったイルカの喉に噛み付き、オレは肩口を強く吸った。痛い、とイルカが身をよじる。その体のあちこちにオレの付けた痕が花のように散らばっている様は彫刻のように美しく、飾っておきたい程だ。
オレは充血して腫れている陰部を労る事が出来ず、何度言ったかしれないごめんと云うひと言でまたイルカに愛撫を始めたのだった。
ゆっくりと高く昇った太陽の日差しを受けて開けっ放しのカーテンを引く事も無く、オレ達は昨夜よりも深く心も体も繋がった。まだ痛むであろう膣道はそれでもオレへの気持ちを示すように濡れてくる。
熱くたぎるオレの体の先端が、まだ欲しいと締め付けるイルカの中に更に熱い精液を吐き出す。
こんなに性欲は無かった筈だがと思うが、求めて止まないイルカだからこそだろう。
まだ膣で達するには程遠いようだが、体は正直に反応する。女はまず五感から攻めればイケるのだからと愛撫の手はやめない。オレだけ満足したんじゃ男としては最低だし、と思ったところで手が止まった。あー今までずっと女にそんなのした事無かったっけ、と思い当たり、相手がどうなったか確認もせずに一人で終わりにしていたのだと反省はしたが。
オレにはイルカだけ、と過去は捨て目の前の肢体に噛り付き、乳首と陰核への刺激だけでとにかくイカせようと集中する。オレの体だけに馴染んでもらおうね、と笑った自分がやっぱりオカシイ。
快感の波の去った後、汗と髪を額に貼付けたままのイルカがそろりと目を開けた。オレの胸に手を当てて、左寄りの心臓の上にずらして止めた。躊躇いがちにこれは、とその手がオレの胸をなぞる。見ればそれは薄く紅く浮かび上がっている、蝶の形。
引かれるように体を起こしてイルカの背中を見れば、同じように紅く背中一面に浮かび上がっているではないか。
何故だ、と呟くとイルカは僅かに目を上げ、オレの顔を見た。
そして術を掛けましたか、と静かな声で表情も無く言うと目を伏せ、胸の蝶に唇を寄せたイルカはゆっくり体を起こし、オレの頭を抱き込んで涙を落とした。震えている。声を出すのを堪えているが、涙は零れ続けた。何が、と言おうと口を開くとイルカが先に、これは禁術ですねとオレに念を押すように言った。
契りの術と俗に言うが、実は契りと契り返しの術とで対になっていてそれらの総称として契りの術と言い、オレが使ったのは契り返しの方だった事。契りのそれは、掛けた者が死ぬと掛けられた者は後を追って必ず死ぬのだとは、オレも知らなかった。あまりにも簡単に人の命を弄ぶことになりいわば殺人だと認識されて、印は記録されず忘れ去られた筈だとイルカは言った。
何故オレが知っているのかと問うイルカに、暗部に居た頃この術の開発者の尋問で偶然聞いたのだと答え、では貴女は何故この術を知っているのかと返せば、愛し合う者達の想いの呪詛なのだと言われて成る程と納得した。悪い方の意味ではない使い方もあるのだと初めて知ったのだが、呪詛も念も言霊も、オレには理解出来ない。
イルカが涙をぽろぽろ流し始め、体は力無く崩れ落ちた。何故私に術を掛けたのかと、しゃくり上げながらオレの胸に顔を埋め蝶を撫でる。
そんなに嫌だったのかと眉をしかめれば、嬉しいのだと笑ってオレに口付けた。私の事だけを考えてくれるのが嬉しい。
そして自分が何かで死んだ後、貴方がが他の誰かと一緒になる事があったらと思うだけで死んでしまいたいと思っていたと、微笑んでまたオレに口付けた。
日射しは真上に近い。もうすぐお昼ですけど、お腹鳴ってますよねと笑われて。そうしてオレ達は休日を過ごすべく起き上がったのだった。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。