四日目
さてそろそろ上手く進まないじゃないかとお怒りの方も出てくると思われますが、この本だけに頼らずあなたなりの努力は怠っていませんよね。
ひとつ確認しておきます。
あなたはお相手のどこを好きになったのでしょうか。
外見だとしたら、顔は加齢で皺やたるみが出てくるし体型も簡単に太ったり痩せたりしますよ。
…とまあ夢を壊しますが、好きになった理由は裏返せば嫌いになる理由でもあるのです。
いや大丈夫、自分はあの人の心に惹かれたからとあなたは思います。けれど。
その『心』が一番厄介なのです。取り扱いはガラス細工並みに優しくお願いします。
そしてお相手の心があなたに向いていれば良し、向いていなくても本当に好きなら何にも負けず想いを貫き振り向かせる位の気概を持ちましょう。
優しく、ですよ。
では今日のお約束のお時間を楽しくすごし帰宅した後に、今一度このページを読み返してください。
お約束ができなかったというあなたは慌てずまた明日、挑戦です。
「約束なんてその内に、で終わってるしなぁ。」
一昨日、カカシはイルカとの約束は取りつけたが日にちを決めず別れてしまい、昨日はまともに話もできず(部下達の策略で)、そのままひと晩任務に出ていたのだ。
「昨日の課題も全然できてない…。」
カカシはエロ本の内側に開いたハウツー本を読みながら反省する。
夕暮れの金色の陽は一日の終わりを知らせ、今からじゃ誘っても予定がありそうで無理だよなぁとカカシの足は止まりがちだ。
それでも報告しなければ任務は終わらないから、無理矢理忍びの顔を作る。
うーん、と伸びをしてきっちり気持ちの切り替え。明日こそ誘おう、うん、どこがいいかな。
「カカシ先生お帰りなさい。」
こぼれる笑顔にどきりと胸が跳ねる。
「あ、はい。」
動揺に誘いの言葉は何も言えないまま提出し、あっさりと報告書は受理された。もう帰るしかないときびすを返したカカシを、イルカが呼び止める。
「あの。」
振り返ると椅子から腰を浮かし、カカシに手を伸ばしたイルカがいた。
「はい。」
とカカシは思わずその手を取ってしまった。犬のお手を受ける飼い主の図だ。
あ、と二人は口を開けたまま止まった。
「イ…ルカ先生、何でしょうか。」
頑張ってみたよ、男として、カッコ付けてみたから誰か誉めて。とカカシは踏ん張ってにっこり笑ってみた。
「これからのご予定は何か…ありますか。」
ほんのりと染まるイルカの頬に、カカシの目は開かれたまま釘付けだ。
「い、いえ、帰るだけです。」
「じゃあ、私ももう上がるのであの、先日のお話の件を。」
ん?とカカシは首を傾げた。
「サツキの、教え子の、犬を使いたいってカカシ先生に言った子の事で。」
ちらと上目遣いに遠慮がちなイルカに、カカシは微笑んで頷いた。
「はい、俺から言い出した事ですし。実は今日お誘いしたかったんですけど、この時間ですからイルカ先生はもう予定があるでしょうし、また明日伺おうかと思っていました。」
おしっ、カッコよく言えたぜ!
内なるサクラと同様に内なるカカシが拳を突き上げた。類は友を呼ぶ、ことわざ通りの七班だ。
「それで、支度をしたいので、あの…手を。」
イルカが視線を落とした先は握られたままの手だった。カカシが興奮のあまりきつく握り締めていて、手を引き抜けなかったのだ。
あっごめんなさい、と手をほどこうとしたが、カカシの手は強ばって言うことを聞かない。
「疲れすぎて筋肉が緊張してるんですね。」
肉体疲労ではよくある事だとイルカはいいように取ってくれた。笑って握られた手はそのままに空いた手で机を片付けていると、隣の男がいいから行けとイルカに鞄を渡した。
「お嬢様お手をどうぞ、の図だな。」
報告が終わっても興味津々に二人を眺めていた男が呟き、何か芝居なのかとぼんやり見送った。
カカシの強ばった手はイルカと歩き出してから徐々に落ち着き、とうとう手が離れると溜め息が出た。イルカの大丈夫ですかと心配そうな声に頷いてはみたけれど、手のひらの温もりが冷えるのが案外早くて悲しかったのだ。
ここです、とカカシが小さいが綺麗な外観の食事処の暖簾をくぐった。
忍びを引退したがまだ若い夫婦が営む店は新しく、イルカが内装が可愛いとはしゃぐ様子にカカシはまた、やったぜ俺と両拳を握った。
ご主人とカカシがアカデミーで一年だけ同期だった、と笑い合うその意味が理解できずイルカは眉を寄せてカカシを上目に見た。
ちょっと突き出した口に、ああああ破壊的に可愛い!とカカシの頭は沸騰した。しどろもどろのカカシをからかいつつ、夫婦はイルカから自身の情報を引き出してくれた。勿論カカシを売り込みながら。
「お前も下手くそだなあ。」
帰り際に会計で揉めて割り勘となってしまった。肩を落とす背中にぼそりと呟かれてカカシは頭を掻く。
イルカと楽しくすごせたけれど、自分の力ではないからこれから頑張らないと。
道は遥か先が見えない。
さてそろそろ上手く進まないじゃないかとお怒りの方も出てくると思われますが、この本だけに頼らずあなたなりの努力は怠っていませんよね。
ひとつ確認しておきます。
あなたはお相手のどこを好きになったのでしょうか。
外見だとしたら、顔は加齢で皺やたるみが出てくるし体型も簡単に太ったり痩せたりしますよ。
…とまあ夢を壊しますが、好きになった理由は裏返せば嫌いになる理由でもあるのです。
いや大丈夫、自分はあの人の心に惹かれたからとあなたは思います。けれど。
その『心』が一番厄介なのです。取り扱いはガラス細工並みに優しくお願いします。
そしてお相手の心があなたに向いていれば良し、向いていなくても本当に好きなら何にも負けず想いを貫き振り向かせる位の気概を持ちましょう。
優しく、ですよ。
では今日のお約束のお時間を楽しくすごし帰宅した後に、今一度このページを読み返してください。
お約束ができなかったというあなたは慌てずまた明日、挑戦です。
「約束なんてその内に、で終わってるしなぁ。」
一昨日、カカシはイルカとの約束は取りつけたが日にちを決めず別れてしまい、昨日はまともに話もできず(部下達の策略で)、そのままひと晩任務に出ていたのだ。
「昨日の課題も全然できてない…。」
カカシはエロ本の内側に開いたハウツー本を読みながら反省する。
夕暮れの金色の陽は一日の終わりを知らせ、今からじゃ誘っても予定がありそうで無理だよなぁとカカシの足は止まりがちだ。
それでも報告しなければ任務は終わらないから、無理矢理忍びの顔を作る。
うーん、と伸びをしてきっちり気持ちの切り替え。明日こそ誘おう、うん、どこがいいかな。
「カカシ先生お帰りなさい。」
こぼれる笑顔にどきりと胸が跳ねる。
「あ、はい。」
動揺に誘いの言葉は何も言えないまま提出し、あっさりと報告書は受理された。もう帰るしかないときびすを返したカカシを、イルカが呼び止める。
「あの。」
振り返ると椅子から腰を浮かし、カカシに手を伸ばしたイルカがいた。
「はい。」
とカカシは思わずその手を取ってしまった。犬のお手を受ける飼い主の図だ。
あ、と二人は口を開けたまま止まった。
「イ…ルカ先生、何でしょうか。」
頑張ってみたよ、男として、カッコ付けてみたから誰か誉めて。とカカシは踏ん張ってにっこり笑ってみた。
「これからのご予定は何か…ありますか。」
ほんのりと染まるイルカの頬に、カカシの目は開かれたまま釘付けだ。
「い、いえ、帰るだけです。」
「じゃあ、私ももう上がるのであの、先日のお話の件を。」
ん?とカカシは首を傾げた。
「サツキの、教え子の、犬を使いたいってカカシ先生に言った子の事で。」
ちらと上目遣いに遠慮がちなイルカに、カカシは微笑んで頷いた。
「はい、俺から言い出した事ですし。実は今日お誘いしたかったんですけど、この時間ですからイルカ先生はもう予定があるでしょうし、また明日伺おうかと思っていました。」
おしっ、カッコよく言えたぜ!
内なるサクラと同様に内なるカカシが拳を突き上げた。類は友を呼ぶ、ことわざ通りの七班だ。
「それで、支度をしたいので、あの…手を。」
イルカが視線を落とした先は握られたままの手だった。カカシが興奮のあまりきつく握り締めていて、手を引き抜けなかったのだ。
あっごめんなさい、と手をほどこうとしたが、カカシの手は強ばって言うことを聞かない。
「疲れすぎて筋肉が緊張してるんですね。」
肉体疲労ではよくある事だとイルカはいいように取ってくれた。笑って握られた手はそのままに空いた手で机を片付けていると、隣の男がいいから行けとイルカに鞄を渡した。
「お嬢様お手をどうぞ、の図だな。」
報告が終わっても興味津々に二人を眺めていた男が呟き、何か芝居なのかとぼんやり見送った。
カカシの強ばった手はイルカと歩き出してから徐々に落ち着き、とうとう手が離れると溜め息が出た。イルカの大丈夫ですかと心配そうな声に頷いてはみたけれど、手のひらの温もりが冷えるのが案外早くて悲しかったのだ。
ここです、とカカシが小さいが綺麗な外観の食事処の暖簾をくぐった。
忍びを引退したがまだ若い夫婦が営む店は新しく、イルカが内装が可愛いとはしゃぐ様子にカカシはまた、やったぜ俺と両拳を握った。
ご主人とカカシがアカデミーで一年だけ同期だった、と笑い合うその意味が理解できずイルカは眉を寄せてカカシを上目に見た。
ちょっと突き出した口に、ああああ破壊的に可愛い!とカカシの頭は沸騰した。しどろもどろのカカシをからかいつつ、夫婦はイルカから自身の情報を引き出してくれた。勿論カカシを売り込みながら。
「お前も下手くそだなあ。」
帰り際に会計で揉めて割り勘となってしまった。肩を落とす背中にぼそりと呟かれてカカシは頭を掻く。
イルカと楽しくすごせたけれど、自分の力ではないからこれから頑張らないと。
道は遥か先が見えない。
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