一日の終わりに教室で最後の生徒を見送って、窓辺で校庭を見下ろしていたら戸口に佇んだカカシに愛を告げられた。
あまりにも唐突で、イルカはその場で返事ができなかった。返す言葉を胸のうちに探したが、はいもいいえもしっくり来なくてただ目がさ迷った。
壁の時計の秒針がふた回りした沈黙の後に、戸口に立ったまま微笑んだカカシから小さく言われた。
つめのさきほどでいいから、気にしてください。
そうしてカカシは瞬きの間に消えた。
何で、何であたしなの。
愛の告白が嬉しくない訳はない。だが好かれるのは子どもと年寄りと動物だけだと、笑われて久しい。
アカデミーの生徒用玄関には、身だしなみの確認用に全身の映る姿見がある。
カカシが去って暫く呆けていたが、今日は当番だと思い出し生徒の帰宅と各部屋の鍵の確認に校舎を回りながら、イルカはふとその前に立ち止まった。
支給服を規定通りに着ているのは教師だから仕方ない。顔も生徒と走り回る為に日焼け止めしか塗らない。と誰にともなく言い訳をする。
我ながら色気のいの字もないわ、と溜め息が出た。
ゆうべもいつもの、行事後のお疲れ会だった。
自覚がある程にがさつだが、かえってイルカは男の子に人気がある。その時も逆ハーレムだとからかわれて、十年後には上忍の妻で左うちわだとちょっぴり本気に思ってしまったのは酒のせいだ。
今すぐ上忍の妻になれますよ、と後ろから囁かれた宴席のたわごとは別の席にたまたまいた、ほろ酔いのカカシから発せられた。
酔ってる人に言われたくない、と数段上に酔ったイルカが失礼にも両手で頬を挟んで説教した記憶はある。
だからって、翌日にわざわざ教室まで来て言うのかな。
今日は酔ってません。だから言います。
貴女が好きです。
黙ったままのイルカに、すぐ返事は求めていなかったのだろうと落ち着けば解る。
つめのさきほどでいいから、気にしてください。
カカシの言葉が頭をぐるぐる回ったままだ。
気にしてます。とイルカは立ち去れず生徒用玄関の鏡の中の自分の顔を見ていた。
あんな言い方は狡い。貴方の事が、気になります。
カカシの言葉で、左手の小指から気になり始めた。
つめのさき。
何となく、揮発しかけたマニキュアを何年ぶりかに塗ってみた。淡いピンクのパールが手入れのされていない手に浮いて見えたが、落とすには勿体ないとイルカは指先を撫でた。
翌日には、左手の薬指が気になった。イルカは前日同様に、マニキュアを塗った。
カカシを見かけない。任務で里にいないらしいと小耳に挟んで、イルカはカカシの事ばかり考えている。
あたしは、あの人が。
その先に、どうしても思考が進まない。
翌日には、左手の中指にマニキュアを塗った。
その翌日には、左手のひと指し指にマニキュアを塗った。
答えは出ない。けれど、カカシは気になる。
また翌日には、左手の親指にマニキュアを塗った。
カカシが帰らないまま、イルカは右手も一本ずつマニキュアを塗っていった。
先に塗った指が剥がれかければそのたびに、丁寧に塗り直した。
カカシが帰ってきて、最初の日のように教室でまた愛を告げられた。
窓辺から戸口のカカシに向かって歩き、イルカは両手を差し出した。
つめのさき全部が貴方を気にしています。
顔を露にしたカカシはそっと一本ずつ唇を寄せ、最後に爪と同じ色のイルカの唇に口付けた。
綺麗な貴女はそれ以上綺麗にならなくていいの。
イルカの顔は爪より紅く染まった。
あまりにも唐突で、イルカはその場で返事ができなかった。返す言葉を胸のうちに探したが、はいもいいえもしっくり来なくてただ目がさ迷った。
壁の時計の秒針がふた回りした沈黙の後に、戸口に立ったまま微笑んだカカシから小さく言われた。
つめのさきほどでいいから、気にしてください。
そうしてカカシは瞬きの間に消えた。
何で、何であたしなの。
愛の告白が嬉しくない訳はない。だが好かれるのは子どもと年寄りと動物だけだと、笑われて久しい。
アカデミーの生徒用玄関には、身だしなみの確認用に全身の映る姿見がある。
カカシが去って暫く呆けていたが、今日は当番だと思い出し生徒の帰宅と各部屋の鍵の確認に校舎を回りながら、イルカはふとその前に立ち止まった。
支給服を規定通りに着ているのは教師だから仕方ない。顔も生徒と走り回る為に日焼け止めしか塗らない。と誰にともなく言い訳をする。
我ながら色気のいの字もないわ、と溜め息が出た。
ゆうべもいつもの、行事後のお疲れ会だった。
自覚がある程にがさつだが、かえってイルカは男の子に人気がある。その時も逆ハーレムだとからかわれて、十年後には上忍の妻で左うちわだとちょっぴり本気に思ってしまったのは酒のせいだ。
今すぐ上忍の妻になれますよ、と後ろから囁かれた宴席のたわごとは別の席にたまたまいた、ほろ酔いのカカシから発せられた。
酔ってる人に言われたくない、と数段上に酔ったイルカが失礼にも両手で頬を挟んで説教した記憶はある。
だからって、翌日にわざわざ教室まで来て言うのかな。
今日は酔ってません。だから言います。
貴女が好きです。
黙ったままのイルカに、すぐ返事は求めていなかったのだろうと落ち着けば解る。
つめのさきほどでいいから、気にしてください。
カカシの言葉が頭をぐるぐる回ったままだ。
気にしてます。とイルカは立ち去れず生徒用玄関の鏡の中の自分の顔を見ていた。
あんな言い方は狡い。貴方の事が、気になります。
カカシの言葉で、左手の小指から気になり始めた。
つめのさき。
何となく、揮発しかけたマニキュアを何年ぶりかに塗ってみた。淡いピンクのパールが手入れのされていない手に浮いて見えたが、落とすには勿体ないとイルカは指先を撫でた。
翌日には、左手の薬指が気になった。イルカは前日同様に、マニキュアを塗った。
カカシを見かけない。任務で里にいないらしいと小耳に挟んで、イルカはカカシの事ばかり考えている。
あたしは、あの人が。
その先に、どうしても思考が進まない。
翌日には、左手の中指にマニキュアを塗った。
その翌日には、左手のひと指し指にマニキュアを塗った。
答えは出ない。けれど、カカシは気になる。
また翌日には、左手の親指にマニキュアを塗った。
カカシが帰らないまま、イルカは右手も一本ずつマニキュアを塗っていった。
先に塗った指が剥がれかければそのたびに、丁寧に塗り直した。
カカシが帰ってきて、最初の日のように教室でまた愛を告げられた。
窓辺から戸口のカカシに向かって歩き、イルカは両手を差し出した。
つめのさき全部が貴方を気にしています。
顔を露にしたカカシはそっと一本ずつ唇を寄せ、最後に爪と同じ色のイルカの唇に口付けた。
綺麗な貴女はそれ以上綺麗にならなくていいの。
イルカの顔は爪より紅く染まった。
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