13

鬱々としてくる。
「やはりどこかの集落に紛れているのかねえ。」
「それが…商人が入る事もなく、誰かがふらりと寄るような土地ではないようです。」
オレが合流する前に収集した話によれば、近隣の五つの集落が集まって村となる。
親戚で集落を作り、村内の行き来は頻繁ではないがそれなりにある。中央の一番大きな集落の雑貨屋が村長の家で、生鮮食品はそこで注文を受けて一家で問屋や市場に仕入れに行き、それを村人が受け取る制度になっていた。
「また、村人が外に出る事も滅多にないようです。」
四方を高い山に囲まれているからか、昔から変わらぬ暮らしに不自由はないようだ。
村の全員が顔見知りならば、梅木自身として入り込む事は難しいだろう。だが。
「梅木と年が近い者はいるか?」
「青年が一人、両親と年の離れた妹だけの集落にいます。」
長男と、次男は病気で早世し、妹が一人。
年齢や体格が似通っている方が、変化でも幻術でも入れ替わりやすい。まずはその長男を疑うのだ。
「ちょうどオレ達も五人だ。各々集落を見張るか。」
皆と別れてオレは村長の集落に落ち着いた。といっても野宿だ。幸い山の中には食用の野草や小さな獣が多く、食べ物に不自由はない。
一日見張っていて、村長の集落で気になる事はただ一つ。集まって報告を受け、四人が告げた事とオレの気になる事は一致した。
年内に予定されている結婚式。一家四人の集落の、長男に嫁が来る、それも村長の娘だ。
婚姻は集落内の親戚では近親相姦が続いてしまう為、不定期にだが村として合同の見合いの儀式を行っている。今回の見合いは約半年前で、適応する年頃の者はその長男と村長の娘だけだった。
だが村長は二女とはいえ、娘を貧乏な家に嫁がせる気はなかった。形式ばかりの見合いのつもりだったが以前から密かに娘と長男は愛し合っていて、散々揉めたが結婚にこぎ着ける事ができた。没落はしても家柄は悪くない、そんな理由だ。
そうして長男は家を建て直し嫁を迎える為に、村の外で暫く働いて貯めた金を持って先月戻ってきた。
もし梅木が長男に成りすましたとして、長いこと離れていれば言動が少し変わっていてもおかしい事はない。更に整形でもしていれば無駄にチャクラを使う事なく怪しまれず、そのまま家庭をもって一生村で静かに暮らせる事だろう。
「もし長男が殺されているとすれば、始末した跡が残る筈だな。」
「としても我々の見知らぬ一般人であれば、死体で判断はつきませんね。」
この辺りではまだ土葬の習慣が残るのだという。
木は森に隠せー。外で入れ替わっていても、あえて村の墓地に遺体を埋めた可能性もある。
火遁で燃やして物的証拠を跡形もなく消したとしても、チャクラの痕跡は必ず突き止める事ができるのだ。梅木がそんなリスクを考えない訳はない。
しかし墓地に長男の骨が残っていたとして、生前の骨折や歯の治療痕のデータと照合し一致してこそ初めて証拠になるのだ。
だからまず長男が本物か梅木が成りすましているかを確認し、成りすましと確定すれば長男が掛かった事がある医者を探しながら、骨を見つけ出す。
果てしなく困難と思えた。それでも指先ほどの可能性があれば、一つずつ潰していかなければならない。
「隊長、癖が判れば成りすましの判断は簡単なんですよね。」
「ああ、それほど親しい誰かに見てもらえればな。」
やはりそうなるのだろうか。
事前の調査では、梅木にはとても親しい人物がいる。その人を悲しませる結果になるかもしれず、オレは一人で苦悩していた。
「イルカを、…呼びますか?」
怖々とそう言った男が眉を潜め、青白い顔でオレの顔を窺う。こいつも悩んでいるんだ。
鳥飼という名家のこの男はイルカ先生と同じくアカデミーの教師だが、伝令専用の鳥を使役している為に外に駆り出されたまま一年近く各地を回されている。オレは何度か一緒に任務に就き、イルカ先生に元気でいると伝言を頼まれた事もあった。
「君は…、梅木とは面識はあるのかい。」
調査書によれば、イルカ先生は梅木とアカデミーの同級生だった。年は一つ下だが今に至るまで仲が良く、お互いの家にも行き来しているらしい。
「以前紹介はされましたが、道端での挨拶だけです。」
力なく首を振られ、この男が確認する事はできないとなった。やはりイルカ先生に頼むしかない。
梅木は里外の任務から抜けられず、今回の奉納舞いには最初から参加していない。綱手様が里の中に掛かりきりだから、チャンスだと思って任務先から消えたのだろうか。
諜報に向かった筈が、途中で梅木の連絡が途絶えた。戦闘もなく忽然と消え、十日も連絡がなければおかしい。そのままひと月を越し、先日要請されてオレと犬達とで捜索したところ任務地と里の逆方向に休憩したとみられる痕跡を幾つか見付けて、里抜けと断定された。
「一応ビデオカメラを用意してあります。夜間は無理ですが、昼間なら撮影可能です。」
最近導入された機器を使える者がいた事に驚いた。
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