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今の鐘は何時、と寝ぼけた声が子供っぽくて俺は出そうになった笑い声を噛み殺す。アカデミーの終業時間を告げる鐘だから、もう少しすると生徒達の帰宅を促す一日の終わりの音楽が流れると教えた。
そろそろ戻ろうとなってまた並んで歩きながら、この楽しかった兄弟ごっこが明日で終わる事が信じられなくて俺の足は次第に歩幅を縮めていった。歩みの遅くなる俺の心情がカカシ先生にも伝わったのか、歩幅を合わせて歩いてくれた。
寂しくなります、と俺の溜め息が溢れる。寂しくなるね、と返される。
たまには誘ってくれるだろうか。俺からは言えないけど、待ってれば、いつか。
校庭でカカシ先生は舞いの合わせをしていた上忍に呼ばれ、俺は資材が足りないと慌てている同僚に呼ばれ、また明日と別れた。

よく晴れた朝、花火のような音に起こされた。閃光弾が青空で光ってる。よくイベントの朝に、開催される合図として打ち上げられるあれの代わりか。
戦闘時に使う物だが、まあ忍びらしいよなと笑いが込み上げた。
アカデミーでは出席を取って解散し、職員室で俺を待っていたカカシ先生と教官とともに本当に最後の練習をした。
「完璧なカカシ君は何が心配なんだ。」
教官は指先でカカシ先生の眉間をぐりぐりと押し、肩の力を抜けと目の奥を覗き込んだ。にらめっこに負けたカカシ先生が目を逸らす。
「…自信がないんです。」
自分に、と小さく続いた。
「だったら!」
拳を握って叫んだ俺を、驚いた顔でカカシ先生が見た。
「俺を信じて下さい。俺だって自信がないけど、俺はカカシ先生を信じてるから。」
本気を籠めてもカカシ先生は目を伏せてしまい、表情を見る事ができなくなった。
今までの、あんなに重ねた日々は何だったんだ。俺はそんなに頼りにならないのか。悔しい。
目をしばたかせて睨み付けると顔を上げたカカシ先生はまっすぐ俺に、信じますときっぱり言ってくれた。だが俺はどんな顔をしていたのか、ごめんねと何度も小さく繰り返された。
教官が間に入って俺達の肩を抱くと、信じあってこそ翼だとぎゅうと腕に力を籠めた。苦しい…首を絞められてる気がするんだけど、教官はやけにはしゃいでる。
「よーし、大丈夫だな。おれは安心して酒を飲みながら見てるぞ。」
素面で指示をして下さらないと困ると慌てれば、固い事は言うなと大笑いされた。冗談だとは思うけど、綱手様と気の合うこの人ならやりかねないから。
上機嫌の教官に見送られながら、俺達は控え室に向かった。中には既に、舞い手の半分近くがいた。話が弾んでいるのは皆緊張してるからだろう。
俺は教員仲間に捕まり、今夜の打ち上げの準備についての愚痴を聞かされるはめになった。カカシ先生も上忍の一団に引きずり込まれた。
残りの舞い手も徐々に集まり、弁当が届くと酒のない宴会状態だ。
衣装を着けて綻びがないかとチェックしてもらう。俺とカカシ先生は二着だから時間が掛かった。
「んー身が引き締まりますねえ。」
「責任が肩にめり込むようです。」
右手を上げて左手を上げて、ぐるっと回って脚も交互に上げてみる。足底まで確認した衣装係は立ち上がって、舞い手全員に禁止事項と部品が落ちた場合の対処などを伝えた。
舞台の裏に楽屋はない。上手下手の袖にはせいぜい十人ずつが控えるスペースしかないのは設計ミスらしいが、そこは忍びなんだからどうにかしろと大工の棟梁は無理を言うんだ。いやまあ、このアカデミーの一室から一瞬で跳ぶくらいは無理じゃないけど。
いつの間にか外の色が変わり始め、提灯の火が灯されていた。舞台の前にはもう沢山の人が座り、その後ろには座りきれない人々が持参の椅子やござで席を取っている。
なんだか賑やかだと覗くと、舞台上では代わる代わる大人や子供が現れてのど自慢大会を催してるじゃないか。生徒達の歌が聞こえる。すげえ音痴。
アカデミーで歌は教えないからなぁ、俺も音痴で教えてやれないし。
「さあ、準備はいいか。」
一部は中忍組から始まるが、フォーメーションを組んで一瞬で舞台に揃うように跳ぶのが案外難しいんだ。
よっしゃ、と気合いの入った声につられて何人ものおうと野太い返事が室内に響いた。
行くぞと教官が跳ぶ合図の秒読みを十から始め、二の後はパンと手を打った。
突然舞台に現れた集団にぴたりとざわつきが止み、何百という目が一斉にこちらを向く。すぐに音楽が鳴り出し、舞いが始まった。
音楽に合わせて身体が勝手に動く。歓声と拍手が音楽をかき消してしまったが、舞い手の誰も動じない。音楽が俺の頭の中で流れるのだ、きっと皆もそうだろう。
中忍組が控え室に跳んだのと入れ替わりに上忍組が舞台に現れた瞬間、大きな歓声が届いた。楽しんでもらえてるな、と誰かが呟いて俺も嬉しくなった。
中忍組は先に水分補給や衣装点検に休憩が取れたが、後に舞う上忍組は二部までの休憩が少ない。任務より楽だろうと言う教官に、勿論と返す彼らの顔は満面の笑みで清々しかった。

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