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街もまだ眠る明け方近くに、濃厚な性の香りを纏ったまま二人でシャワーを浴びるのはいかにもで恥ずかしい。だがイルカは、まだ自分では尻の始末ができない為にカカシに頼るしかなかった。
腹に力を入れると体液と潤滑剤が内股を流れ落ちる。そうそうその調子、と優しく中を動くカカシの指にまた感じ入らないようにイルカは浴室のシャンプーの棚に気を移した。
忍び用に香りのないものの中でも、このシャンプーは結構値が張って俺には買えない。あ、身体は昔ながらの固形石鹸なんだ。これは値段とかじゃなくて泡立ちがいいから俺も使ってる。
けれど石鹸の入れ物が黄色いあひるの形をしていて、殺風景な風呂場には似合わない。
「何?」
「あひるが、可愛いですね。」
ひととおりは終了、とカカシはイルカの背中に張り付いて視線の先を一緒に見た。
「それは風呂の道具を買いに行ったおまけ。」
やっぱり。このあひるの石鹸置きといい花柄のカーテンといい、本当にこの人は使えれば何でも構わないのか。家を心地よくしようなんて思わなかったと言っていたし、きっと雨風が防げて寝られる広さなら俺のアパートでも文句は言わないんだろう。
カカシが自分の部屋で寛ぐ姿を思い出し、イルカはぽっと頬を染めた。ずっと共にいてくれるというのはそういう事なのか。
「ん? 何を考えてたの?」
後ろから抱き込まれて頬をくっつけている為に、カカシにイルカの熱が伝わったらしい。覗き込まれてにやりと笑われた。
「カカシ先生は、その、」
カカシと家の行き来について話しはしたが、それはチャクラの受け渡しに限ってだ。そうではなく、日々の積み重ねの先に朝も夜も一つ屋根の下という未來があるのだろうかと問いたかったのだ。
けれど、聞けない。カカシの言葉のニュアンスからはそうだと思えるが、今ここで言質を取っても良いのだろうか。言葉に縋りつきたい女々しい自分に溜め息を飲み込み、イルカは話題を変えた。
「今日も上忍師の任務ですよね。」
「そう、中忍試験の為に頑張らなくちゃいけないんです。」
ただでさえ纏まりのない三人が、少しはチームを意識してきたといってもお互いの長所を認めるまでには至っていない様子だ。一人ずつ伸ばしてやりながらチームプレイを意識させるなんて、いくらカカシ先生でも無理なんじゃないか。
思うところはあれどイルカは口出しをしないと決めたから、何かあれば少しは相談に乗れますよと言うだけに留めておいた。

忍びの特技の一つは、短時間でも深い睡眠で体力を取り戻せるというものだ。寝起きは多少頭が働かないが、身体が動けばそれに伴い覚醒してくる。
イルカは夕食に使わなかった分の食材をまな板に並べ、使いきってしまうには何を作ればいいかと頭の中で献立を組み立てていた。
ぺたぺたと小さな足音が近付くのは解っていたが、声を掛けてくるだろうと黙っていた。だがあと数歩の所で足音が止まり、カカシは声を掛けては来ない。気が散って仕方なくイルカは振り返った。
いかにも寝起きの格好で突っ立っている。首を傾げながら向かい合ったイルカに、カカシはうっすらと頬を染めた。
「なんか…いいもんですね。」
何が、と聞き返そうと口を開きかけてイルカも頬を染めた。朝起きてみると愛する人が自分の為に食事の支度をしてくれている光景は、年頃の男の最大のロマンだ。仲間達と飲めば必ずその話題に辿り着く。
もっとも俺は作る方なんだけどな。とは言わずいつかあんたにも作ってもらうから、と心に誓ってイルカは必要以上ににっこり微笑んだ。
「朝は食べたくないんでしたっけ。」
ちょっと意地悪をしてみる。
「え、いや、食べます。」
毒に侵されたカカシの面倒をみていた時は、体力をつけさせる為に無理矢理食べさせていた。普段は食に拘りもなく空腹でなければ一食二食は抜くと聞いていたから、男のロマンを蹴って遊ぶ位は許して欲しい。
「知ってるでしょ、俺は凝ったものは作れないって。」
「とんでもない。美味しいし、手際がいい。」
ぴたりとくっついて手元を覗かれて、朝から醸す雰囲気が甘くなるのは勘弁してくれとイルカは首をすくめた。
食事を終えてもいつもより早い時間だから、一旦帰宅して着替える事ができる。昨日の服は染み込んだ汗が臭い上に、殆ど感じられない筈のカカシの体臭が移った気がしていたのだ。
そっと玄関から顔を出して辺りを窺う。じゃあと振り向けば深いキスを一つ贈られ、イルカの膝から力が抜けてしまいそうになった。
また後で、とは今夜の事か。はいと頷いてしまったからには、多分カカシ先生はうちに来るんだろう。
あ、台所道具一式置きっぱなし。飯を喰う為にはまたここに来るしかないってか。
新しく買い揃えるには結構な金額だから、それらを引き上げてカカシに自宅用の鍋釜を買わせようと決めたイルカは夏の青空に大きなあくびを見せた。
イルカの背を窓から見送ったカカシは、ソファに座ってそれから一時間眠ってしまったのだった。

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