上忍師の任務の後に緊急任務が入った為に、カカシは部屋を訪ねられなかった。
イルカは翌朝、その報告を自分で受領して知る。
―里の近くで帰還途中を襲われた、応援求む―
受付で今すぐ駆け付けられる者をと焦る声に、報告を終え踵を返したカカシが振り返って手を上げた。今夜もイルカの部屋を訪ねる予定だが、彼がこの場にいればいいから早く行ってこいと言うだろう。
「今出れば30分も掛からない、オレが行く。」
「お疲れでしょうがお願いします。こちらでは急ぎ追加応援を探します。」
大した内容ではないが書簡を奪われそうになり、中身より木ノ葉の忍びの沽券に関わると応戦した中忍一人と下忍が二人。
上忍程度の腕のどこかの抜け忍が、書簡を手土産に別の里へ逃げ込もうとしたらしい。
木ノ葉の忍びを襲いながらそれをべらべら喋る馬鹿なれど、見た目より腕は確かだったらしく下忍達が動けなくなって応戦一方となった中忍が助けを求めたのだった。
カカシが到着してからは、流石に写輪眼は警戒されて追い掛けっこになってしまった。月のない深い闇を追うのは容易ではなかったが、抜け忍の息の根はカカシが止めてやった。
ふざけやがって、と同胞達の傷に胸が痛む。下忍二人は両手のひらと両足先をクナイで貫かれ、中忍は片脚の大腿骨膝を砕かれていたのだ。それでも命に別状はなく、しかも運良く三人とも五体満足だった事に安心した。
カカシも毒を受けたが、手足が少し痺れるだけで意識ははっきりしているし歩けもする。後から到着した者達に怪我人を任せて、自分の足で帰還した。
夜中だったので、カカシは病院で解毒の点滴を一本打ちながら朝まで処置室に寝ていた。何時間か仮眠を取って、入院した三人の代わりに任務報告書を提出する元気もあった。
朝の受付では、朝帰りの者が報告書を出す事が許されている。七班の部下達へはカカシが任務明けの為に他班との合同任務で、と通達されていたから提出したら自宅へ帰ろうと思った。
身体の異変に気付いたのは、報告書を書いていた時だった。
本来の報告に添えて自分の応援の子細を記さねばならないが、ペンを持つ手に力が入らない。
最近鍛練を怠り気味なところに応戦した抜け忍が手練れだったからか。油断は禁物だなと心に留め、ゆっくりと書き終えてイルカに提出するとじっと顔を見詰められた。
「解毒が効いていませんか?」
「帰って寝てますよ。」
「そうして下さい。」
怠くて会話すら面倒なんだ、イルカ先生ごめん。
心配してくれるイルカを振り切り帰路についた。
何かおかしい。違和感がある。一応身体は動くが、隅々に力が入らない。
毒に新種のウィルスが含まれていたのだと判明したのは、カカシがあまりの倦怠感にシャワーも浴びずソファに倒れた後だった。
ただ新種といっても死に至るような強いものではなく、念の為にと採血したカカシの血液の中でウィルスは徐々に死滅していった。
『カカシの身体で抗体ができた。抗毒血清を作る為に協力を頼む。』
部屋の窓を突く連絡の鳥を重い身体で招き入れ、承諾したと返事をしてカカシはまた身体を横たえた。
少し困ったな。
全てのウィルスを死滅させてから採血し、血清を精製するという手順は解った。完全な死滅まで三日で済みそうだが、用心に一週間掛けるというのもそうだろうと理解した。
しかし。自宅待機は構わないが、一歩も外へ出られないならば食事はどうすればいい。
怪我をして傷口から何か既存のウィルスでも浸入したとして、この毒がどう反応するかなどまだ何も解らない。だから自炊は禁止。勿論武器の手入れなども刃物だからもってのほかで、ただごろごろしていろという指示だった。
誰かに弁当の差し入れを頼もうか。だけど上忍仲間は皆忙しく、一週間も三食の世話をしてくれるような当てはない。
自宅で兵糧丸を齧るのか。
切ないなあとカカシは重い身体を起こし、ベストを脱いで床に落とした。
「飯…。」
身体の中で血液がウィルスと戦っているのだから、寝ていても体力は削がれているらしい。
昨日の昼飯の後は何も食べていないのだ、戦闘中でなければ流石に腹も空いたと訴えてくる。
「カカシ先生、起きてらっしゃいますか。」
外から聞こえるのはイルカの声。どうして。
返事も億劫で、壁に手を着きながら赤ん坊の捕まり立ちのような姿勢で玄関に向かう。
玄関ドアの内鍵を開けた途端に、身体の力が抜けてたたきに尻餅を着いた。
かちゃりと鍵の開いた金属音に、ドアがそっと開かれイルカの顔が覗く。
「カカシ先生、大丈夫ですか!」
カカシは焦った声に笑みで答えて小さく手を上げた。肩からドアの隙間に入り込み、カカシの背に回ってしゃがんだイルカはその身体を自分に凭れさせた。
イルカは翌朝、その報告を自分で受領して知る。
―里の近くで帰還途中を襲われた、応援求む―
受付で今すぐ駆け付けられる者をと焦る声に、報告を終え踵を返したカカシが振り返って手を上げた。今夜もイルカの部屋を訪ねる予定だが、彼がこの場にいればいいから早く行ってこいと言うだろう。
「今出れば30分も掛からない、オレが行く。」
「お疲れでしょうがお願いします。こちらでは急ぎ追加応援を探します。」
大した内容ではないが書簡を奪われそうになり、中身より木ノ葉の忍びの沽券に関わると応戦した中忍一人と下忍が二人。
上忍程度の腕のどこかの抜け忍が、書簡を手土産に別の里へ逃げ込もうとしたらしい。
木ノ葉の忍びを襲いながらそれをべらべら喋る馬鹿なれど、見た目より腕は確かだったらしく下忍達が動けなくなって応戦一方となった中忍が助けを求めたのだった。
カカシが到着してからは、流石に写輪眼は警戒されて追い掛けっこになってしまった。月のない深い闇を追うのは容易ではなかったが、抜け忍の息の根はカカシが止めてやった。
ふざけやがって、と同胞達の傷に胸が痛む。下忍二人は両手のひらと両足先をクナイで貫かれ、中忍は片脚の大腿骨膝を砕かれていたのだ。それでも命に別状はなく、しかも運良く三人とも五体満足だった事に安心した。
カカシも毒を受けたが、手足が少し痺れるだけで意識ははっきりしているし歩けもする。後から到着した者達に怪我人を任せて、自分の足で帰還した。
夜中だったので、カカシは病院で解毒の点滴を一本打ちながら朝まで処置室に寝ていた。何時間か仮眠を取って、入院した三人の代わりに任務報告書を提出する元気もあった。
朝の受付では、朝帰りの者が報告書を出す事が許されている。七班の部下達へはカカシが任務明けの為に他班との合同任務で、と通達されていたから提出したら自宅へ帰ろうと思った。
身体の異変に気付いたのは、報告書を書いていた時だった。
本来の報告に添えて自分の応援の子細を記さねばならないが、ペンを持つ手に力が入らない。
最近鍛練を怠り気味なところに応戦した抜け忍が手練れだったからか。油断は禁物だなと心に留め、ゆっくりと書き終えてイルカに提出するとじっと顔を見詰められた。
「解毒が効いていませんか?」
「帰って寝てますよ。」
「そうして下さい。」
怠くて会話すら面倒なんだ、イルカ先生ごめん。
心配してくれるイルカを振り切り帰路についた。
何かおかしい。違和感がある。一応身体は動くが、隅々に力が入らない。
毒に新種のウィルスが含まれていたのだと判明したのは、カカシがあまりの倦怠感にシャワーも浴びずソファに倒れた後だった。
ただ新種といっても死に至るような強いものではなく、念の為にと採血したカカシの血液の中でウィルスは徐々に死滅していった。
『カカシの身体で抗体ができた。抗毒血清を作る為に協力を頼む。』
部屋の窓を突く連絡の鳥を重い身体で招き入れ、承諾したと返事をしてカカシはまた身体を横たえた。
少し困ったな。
全てのウィルスを死滅させてから採血し、血清を精製するという手順は解った。完全な死滅まで三日で済みそうだが、用心に一週間掛けるというのもそうだろうと理解した。
しかし。自宅待機は構わないが、一歩も外へ出られないならば食事はどうすればいい。
怪我をして傷口から何か既存のウィルスでも浸入したとして、この毒がどう反応するかなどまだ何も解らない。だから自炊は禁止。勿論武器の手入れなども刃物だからもってのほかで、ただごろごろしていろという指示だった。
誰かに弁当の差し入れを頼もうか。だけど上忍仲間は皆忙しく、一週間も三食の世話をしてくれるような当てはない。
自宅で兵糧丸を齧るのか。
切ないなあとカカシは重い身体を起こし、ベストを脱いで床に落とした。
「飯…。」
身体の中で血液がウィルスと戦っているのだから、寝ていても体力は削がれているらしい。
昨日の昼飯の後は何も食べていないのだ、戦闘中でなければ流石に腹も空いたと訴えてくる。
「カカシ先生、起きてらっしゃいますか。」
外から聞こえるのはイルカの声。どうして。
返事も億劫で、壁に手を着きながら赤ん坊の捕まり立ちのような姿勢で玄関に向かう。
玄関ドアの内鍵を開けた途端に、身体の力が抜けてたたきに尻餅を着いた。
かちゃりと鍵の開いた金属音に、ドアがそっと開かれイルカの顔が覗く。
「カカシ先生、大丈夫ですか!」
カカシは焦った声に笑みで答えて小さく手を上げた。肩からドアの隙間に入り込み、カカシの背に回ってしゃがんだイルカはその身体を自分に凭れさせた。
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