「ぎょえーっ!」
と隣から叫び声が聞こえて俺も飛び起きた。
「どうしたんです、イルカ先生。」
「おせち! 作る暇がなかったからせめてセットで買おうと思ってたんです。それなのに、忘れてしまいました。」
俺は思わずなんだ、と呟いてしまった。それが聞こえたらしく、イルカ先生は俺の顔を両手で挟むと正面で睨み付けた。
「なんだじゃないんです。一年の始まりはきちんとしたいものでしょう。」
力が強すぎて挟まれた俺の顔は歪んでいる。人に見せられない顔になってんだろうなあ、と考えていたらそのまま頭突きをくらわされた。痛くて手足をじたばたさせても離してもらえない。
「おへひらら、はっへひはひ…」
「何言ってんだか判りません。」
俺はイルカ先生の手を引き剥がし、ふうと息を吐いてから言い直した。
「おせちなら買って来ましたよ。だって先生帰るなり玄関で倒れて買って来なきゃ、とうなされながら眠ってましたから。」
俺はその時の白目をむいたイルカ先生を思い出し笑いそうになるのを堪えながら、失敗はこのところろくに眠れない生活を送っていた事を理由にしてあげた。
その時は先生が玄関で眠りこけ、全く起きる気配がないので布団に寝かせたら、夜中日付が変わった頃、つまりさっきイルカ先生は飛び起きたわけだ。

一事が万事この調子で、イルカ先生は行事を大切にする。まだ一緒に暮らしていない頃、俺は何十回呼び出されて(任務中にもだ)準備し忘れたと泣かれて山越え谷越え探しに出掛けたか…。そうして毎日のように呼ばれてご飯を食べて泊まって、帰るのが面倒になったので一緒に暮らし始めたわけだが。
でも、二人の記念日がそうやって増えていくのはとても嬉しいことだ。ありがとう、イルカ先生。
「さあもう、心配しないで朝まで寝ましょう。」
寝ぼけている顔も可愛いなあと思いながら、俺は肩まで布団を掛けてぽんぽんと叩いて寝かせる。慣れたものだ。
目が覚めたら新年の挨拶をして、今年も二人で色んな行事を楽しもうねって言って、まずは初詣かな。ああもう新年にはなっているけれど。
「明けましておめでとう、今年も二人で最高の年にしようね。」
眠るイルカ先生に語り掛け、体温を確かめるように寄り添って俺も目を閉じた。
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