44

カカシさんの真の怖さを知った。俺に罵詈雑言を浴びせ陰で酷い噂をばらまいていた者達を一人一人、しらみ潰しに探し当てては対話をしていたのだ。中には負けると判っているのに、カカシさんと戦った者もいたという。…医療忍の友人が、意識不明で運ばれた者がいるとこっそり教えてくれた。
男女問わず何人か、俺の顔を受付で見ると踵を返して逃げるようになった。カカシさんは一人一人に話をしようと持ち掛けたそうだが、どうしても認めないと話にならなかった者達がいたらしい。そうかこいつもか、と溜め息が出るのは何年もの付き合いの中忍だったり生徒の親だったりするからだ。
そんな中、同僚に帰り道を待ち伏せされて裏路地に腕を引かれた。
「あのね、頭では理解しているけど私の感情が許さないの。悔しくて、辛い。だから暫くはイルカ先生と仕事の話しかしないけれど…許して。」
教師であろうと人としての感情が先に立ってしまうのは仕方ないと、俺は黙って頷いた。彼女に謝りそうになったが、それは違うのだ。俺は悪い事はしていない。
彼女は少人数の任務でカカシさんと組んだ時、怖い噂とは真逆の人柄に触れて好意を持ったといつだったか聞いた。そういう人だ。カカシさんと一度でも接した事があれば、きっと惹き付けられて離れられなくなる。
だが逆に、可愛さ余って憎さ百倍となる事もあるようだ。カカシさんは崇拝の対象だったのだろう、それなのに天から落ちて地べたに転がる俺なんかに興味を持ったから。
「まあ俺も卑下してる訳じゃあないんだけど…な。」
自分を過小評価していると怒られるけど、俺は石を投げれば当たる沢山の中忍の中でもど真ん中辺りだと思っている。いや普通の中の普通だと断言できる。
それでも俺の中のどこかに、カカシさんを惹き付ける何かがあったんだ。だから俺は胸を張る。
「イルカさん、明日一日空いたよ。来る?」
「え、もう帰れるんですか? ならもう少しなんで待っててくれませんか。」
「解った。外で寝てる。」
カカシさんの言葉に、書き物をしていた隣の専属受付員が勢いよく顔を上げて俺を見た。
「うみのさん、夕方は肌寒くなってきたのでお待たせしない方がいいと思います。」
鼻息荒く俺から書類の束を取り上げて、カカシさんの報告書だけを俺の前に残した。
「じゃあ今回は甘えますね。いつかお返しします、ありがとう。」
本当にありがたい。お陰でカカシさんとはふた月振り位かな、ゆっくりできる。
カカシさんの手を握り、俺は先に歩き出した。すると引っ張られたカカシさんが大股で俺の先を行こうとし始め、今度は俺が引っ張られる。
まるで子供の他愛ない遊びだ。でもそれが楽しい。カカシさんと堂々と手を繋ぎ寄り添って歩けるこの世界が、俺はとても好きだ。
「オレんちはあれからずっと掃除してないからなあ、寝るだけなんだけどなんか臭くてやだ。」
気の抜けた喋り方は俺といる時だけのもの。あれからとは大分前に俺が掃除してからの事だろう、里には寝に帰るだけの日が続いた事は知っている。だけど俺は勝手にカカシさんの部屋には入らないと決めているから、埃だらけなのは当たり前なんだ。
「掃除、一緒にしましょう。二人ならすぐ終わりますよ。」
「そう言ってくれるのを待ってた。」
「えー、一人じゃめんどくさいから俺を巻き込もうと思ったんでしょ。知能犯め。」
あっという間に掃除を終え、布団は干せないにせよ叩いて埃を出し、勿論シーツも取り替えた。
「シーツはもう一枚あるよね。明日にはまた取り替えなきゃならなくなってるものね。」
さらっと言われ、俺は一瞬遅れて熱くなる頬を手で押さえた。
深夜布団の中で寝返りを打つと、カカシさんが背中に張り付いてきた。
「どうしたんです…眠れませんか。」
「逆だよ、イルカさんがいてくれると良く眠れる。一人はやだな。」
「気が向いたら俺の部屋に来ればいいですよ。好きなだけいてくれて構いません。」
「本当に? じゃあただいまって言ったらお帰りって返事して。」
嬉しいって、カカシさんは微笑みながら眠った。

アカデミーの生徒達に、先日の演舞の録画を見せる事になった。
神事としての舞いを記憶に留めておいて欲しい、と綱手様が武道館に集まった生徒全員に告げる。
あの日は奉納舞いが日没からの始まりだった事もあり、殆どの生徒は出店を回って暗くなる前に帰宅していて舞いを見ていないのだ。生徒達に請われて少しばかり舞いを教えはしたが、一部のさわりだけだ。最初から最後までは当日見ていた僅かな者しか知らない。
シーツを板に貼ったのではないかと疑うようなよれよれの大きなスクリーンは、さびれた映画館から借りてきたらしい。テレビの画面と違い、細部が少しぼけて見辛かった。それでもさまざまな角度から演者が大写しになる度に、うちの兄ちゃんだ先生だと生徒達は興奮して煩い。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。