24

散歩のように気軽に出掛けようとしている雲海だが、その調子では幻術に掛かるんじゃないかと心配になる。まあ上忍師をやってた位だし、こいつならほんの少しの違和感でも気付くと思うけど。
「行こうぜ。」
「待って下さい、着物を借りて着替えないと。それから名前は。」
「適当に呼んで構わねえよ。」
貸家の言葉に雲海が笑い、窓の外の木々からせんだんとくぬぎを選んだ。安易だよねえ。
衣装はイルカ先生と鳥飼に任せ、再度の集合時間までをオレは上忍待機所ですごした。
いまだに二代目と呼ばれて正直辟易してはいるが、あれ以来皆の仲間意識が以前よりも強いような気がして嬉しくもある。
「お兄ちゃん、弟と一緒で寂しくないよね。」
ゲンマだけは殴りたいけど。
「…ちょっと、」
「あ、そうだ。術の相談をしたいんです。」
オレが文句をいう前に、さりげなく人のいない隅へと誘導された。
「実はイルカは、梅木とは幼馴染みと言ってもいいそうです。頻繁に会うわけじゃなかったけど、イルカもその亡くなった妹を可愛がっていたようでした。」
情報を提供してくれるのは嬉しいが、イルカ先生が打ち明けたのがゲンマだという事に腹が立つ。
「何それ。そんな事まで言うなんて…、お前随分信頼されてるじゃない。」
「無理矢理聞き出したんですって、怒らないで下さいよ。イルカの事になるとカカシさんは周りが見えてないですね。」
からかっているだけと解っていても、返事に詰まり耳が熱を持つ。痒い振りで見えている耳を手で覆うと話を変えた。
「あの人さ、梅木とは長いこと会ってないと言ってた。なのに、この任務に出る前に月命日の墓参りを頼まれたって…。おかしいとは思ったんだ。」
「なるほど。時折会っていた事を知られれば、綱手様がメンバーから外すと思ったか。でも相当動揺して、そこで馬脚を露わしてカカシさんに気付かれたんですね。当然綱手様も矛盾が解ったでしょうね。」
「ああ、…だよな。」
さっき綱手様がオレに目で合図したのには、それも含まれているって事なのか。だがゲンマに聞かされなければ、オレは何も気付けなかった。
「あいつを、お願いしますね。」
珍しく真剣なゲンマに簡単には頷けない。イルカ先生がオレには相談すらしてくれなかった、それが心にこぶのように膨らんで。
「多分何もできないよ。任務だから。」
口から出た言葉は、自分でも冷ややかすぎたと思う。それでもそう言わずにはいられなかった。
黙り込んだゲンマを置いて部屋を出た。
できることならイルカ先生を置いて行きたい。オレのわがままだと知っていても。
憂鬱な気持ちで開けた先程の部屋では、侍の姿になった二人がお互いを見て笑いこけていた。他の者達も笑いを堪えられない様子だ。
額を剃ったかつらを被った貸家は、まるで人形の置物のようだ。かたや雲海は火の国の城に上がっても、ひと目では見破れないだろう程の貫禄がある。
だが動き辛い服装とはいえ、ぎくしゃくとした動作はどうにかならないだろうか。すぐばれてしまいそうだ。
「あ、隊長。こんな感じでできあがりました。」
イルカ先生の笑顔に眉が寄る自分にセーブを掛ける。余計な感情は切り捨てろ。
「うん、侍らしいね。でも自然に動けないかな、怪しいよ。」
「着くまでには慣れると思います。けど、これで木の上は走れるかどうか。」
貸家が裾を持ち上げて屈伸運動をした。雲海もたなびきそうな袖が気になるらしい。
昼すぎにでも着けばいいからと、彼らに合わせてゆっくり行く事にした。下の道を走りながら休憩を取っても充分な時間がある。

視察は前もって通達される事はない。用意された接待で何か不都合を隠されても困るという理由だ。
回るのは面倒と言いながら、火の国としての治世はなかなか確かなものらしい。
「木ノ葉の忍びだとばれた事はない?」
「いえ、一度もそんな報告はありませんでした。」
念の為に過去の報告書を確かめてきた縄目が、首を横に振った。
「梅木だけに気を付けりゃいいんだな。」
雲海の堂々とした態度は、どこから見ても役人のようだ。だが梅木が誰かを傀儡のように使っている可能性もないとは言えないし、若い貸家がアクシデントにどこまで対応できるかもオレは知らないのだ。
その危惧に、雲海はにやりと笑って顎でオレの頭を指し示した。
「心配性だから白髪になっちまったんか。」
「雲海さん。隊長の髪は遺伝ですし、銀色にきらきら光ってよく似合うじゃないですか。」
イルカ先生が褒めてくれても、ぎこちなく笑う事しかできなかった。これで冷静に梅木に対応できるのか、鬼とさえ呼ばれたオレが我ながら情けない。
それでもその時は来たのだ。チャクラを漏らさないように全員で確認し、雲海と貸家を置いて残りは遠くはあるが村のを見渡せる所定の位置についた。
「行くぞ、くぬぎ。」
「せんだん様、お供つかまつります。」
忍びに気付かれにくい初期型の無線発信機から、雑音と声が受信機へと聞こえてきた。もう、二人に任せるしかない。
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