空から降るのは牡丹雪。真っ白な花びらのように、時折風に吹かれて舞い踊る。
色とりどりの春の花を凌駕する美しさで見る人々を魅了し、やがて跡形もなく最初からなかったように溶けてしまった。
その一瞬の美しさは、まるで、あの日の貴方だった。


何処から現れたのかは知らない。気付けば其処にいた。そして気付けば消えていた。
戦場で怪我をして、後方に下がって暫く待機と言い渡された。傷が塞がらなくても、痛みが取れればまた前方へ出されるのだとは知っていた。
皆怪我をし、だが一日二日の待機で立ち上がって戦ってまた怪我をして。
そんな繰り返しだから最初の怪我さえ完治するわけはなく、誰も彼もが疲弊しきって気力だけで立っていたのだった。
応援が来ない。要請したがそれに対して返事はなく、だけど溢しても仕方ないから誰も無言になる。
殺伐とした陣地に、よくも仲間割れが起こらなかったと今では奇跡にも思う。
多分、雪のおかげだ。
冬終わり春めき始めた頃に其処に投入され、戦況は一進一退と決着のつかぬまま日はすぎる。
その日、暖かな春真っ盛りに牡丹雪が降った。
いや、舞った。
忍びは験担ぎをする者ばかりで、その時も季節外れの雪が勝利の証しと言われていたから皆の気持ちが引き締まった。ただの迷信だけど、そんな些細な事にすがりたいほど精神が追い詰められていたのだ。
頑張れ、きっと勝てる。
誰かが呟き、誰もが信じて何日かをすごした。
そして現れた応援のたった一人が、一日で戦況をひっくり返して勝利に導いた。
彼こそが、牡丹雪そのものだった。
真っ白な髪が、彼が動く度にふわふわと舞う。
敵の血飛沫も一度として彼の髪を染める事はなく、最初から最後まで彼は真っ白な花のような牡丹雪だった。
彼が迷信の元だったのかは知らない。たまたま都合よく現れただけかもしれない。
その後は今に至るまで一度もそんな場面がなかったから、誰も皆忘れてしまったようだけれど。
イルカは春になると必ず思い出していた。


暁の一人が、ナルトの居場所を聞き出そうとイルカにクナイを突き付けた。
教えるわけはないだろうと睨み付ける。
「ならば死ね。」
死ぬのかな、ううん大丈夫。
雪の舞う空を見上げたイルカは後ろに降り立ったカカシを振り返ることなく、ほら来てくれたと微笑んで目を瞑った。
キィンと金属の打ち合う音が聞こえる。
「貴方はその怪我人を連れて下がって!」


牡丹雪の迷信が、甦る。



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